科学技術振興機構(JST)と慶応大学は12月23日、テラヘルツ光による黒色ゴム材料の非破壊検査手法を開発したと発表した。
可視光を透過しない黒色ゴム材料の内部状態をテラヘルツ光で調べることができ、タイヤや防振ゴムなどの非破壊・非接触検査への応用が期待される。
JST研究成果展開事業により、慶大理工学部物理学科の岡野真人専任講師と渡邉紳一准教授の研究グループが開発した。
カーボンブラックを配合した黒色ゴム材料は、タイヤや防振ゴムなど、生活のあらゆるところで利用されている。ただ、ゴム製品の内部にひずみがたまると、予期しない亀裂などが発生する可能性があるため、自動車タイヤの安全上、その内部状態を検査する技術の確立が必要とされている。
しかし、黒色ゴムは人間の目が感じる可視光や近赤外線、中赤外線も透過しないことから、光を使ってその内部状態を非破壊で観察することは極めて困難とされてきた。
今回、幅広い光スペクトルの中で、電波と光の境界にあるテラヘルツ光だけが黒色ゴム材料に対して透過性をもつことに着目し、添加されたカーボンブラック凝集体の並び方を偏光測定によって推測できることを実証した。
さらに、カーボンブラック凝集体の整列の様子から、材料が「どちらの方向に」「どの程度」ひずんでいるかを推測することにも成功した。
この分析手法は、外からの力によるゴム材料変形を推測できることを示しており、これまで光では内部調査ができなかったタイヤや防振ゴムの新しい非破壊検査ツールとしての利用が見込まれる。
なお、今回の研究で開発した装置は、小型テーブルに乗る小ささで、テーブルタップ電源で作動するほどコンパクトになっている。その一方で、1点の計測時間が最速25mm秒という速さも実現した。
今後は実用化と普及を目指して計測装置の堅牢化を進め、工場などで実地検査できるような装置を開発するとともに、高速イメージング用途に応用するため、10cm/sの速度で非破壊検査できるようなセンサーの機械動作機構を構築していく。
また、展示会への出展とデモンストレーションにより、産業界のニーズを取り入れながら、実用化に向けた装置開発を進めていく方針だ。