東洋ゴム工業は3月12日、大阪の電子会館でプレスセミナーを開催し、技術統括部門管掌の金井昌之常務執行役員らが、2011年に確立した独自のゴム材料開発基盤技術「ナノバランステクノロジー」の体系の一つである「ナノ加工」の開発プロセスを説明した。
同社は、新技術により耐摩耗性能を維持しながら、従来比エネルギーロス約20%抑制できるゴム材料の開発に成功した。今夏をめどに研究開発設備棟を生産化ラインとして整備し、年内をめどに、新トラック・バス用タイヤの開発と生産の実用化を図っていく。
金井執行役員は「今回の技術進化は、独自のタイヤ設計基盤技術の強化、商品化に向けた要素技術の革新という中計17の計画を着実に捉えていった成果の一つだと考えている。理想的なゴム材料の開発は、競争優位性を獲得し、事業価値の向上につながる。ぜひとも、新しい技術を搭載した次の新商品にご期待願いたい」と新技術を紹介した。
具体的な技術説明は、技術統括部門技術第一本部長の守屋学執行役員が担当した。
ナノバランステクノロジー は、「分析・解析・素材設計・加工」という4つの体系を横断的に統合し、ゴム材料をナノレベルで観察、予測、機能創造、精密制御することによって、理想的なゴム材料開発を実現していく基盤技術である。
同社は、この技術により、タイヤの低燃費性能とウェットグリップ性能といった二律背反する性能を高次元で両立した乗用車用低燃費タイヤ「ナノエナジー」を上市したほか、フラッグシップブランド「プロクセス」にも採用し、より付加価値の高い商品を発売している。
さらなる低燃費化を推進する上では「低エネルギーロスと高耐摩耗というゴム特性の両立を図ることが重要で、そのためにフィラー(補強性充填剤)をゴム中でいかに高分散させるかがポイントになる」。
「ナノ分析」を用いる事により、天然ゴムのミキシングの際に、フィラーが均一に分散しきらず、凝集塊として残存することだけでなく、この状態に動的変形が加わると、フィラーの接触などによってエネルギーロスが発生し、燃費性に影響を及ぼす要因となることがわかったという。
同社ではこれを基に、「ナノ加工」技術の開発により、コンパウンド中のフィラーを現状よりさらに高度に分散させるる加工プロセスを確立した。
同技術の特長は、「コンパウンド作製前に固形ゴム中のフィラー構造を最適化する」という新たなアプローチにある。
従来は固形のゴムと粉体であるシリカなどの原料充填剤をミキサーで混合し、コンパウンドを作成していたのに対し、ナノ加工技術を用いて、コンパウンド作成の前工程のプロセス制御を最適化することで、天然ゴムのような固形ゴムにおいても、フィラーの凝集塊は飛躍的に低減し、均一かつ高度に分散された理想的なフィラーの状態を確保することが可能となった。
具体的には、天然ゴムなどを液体化しラテックスにし、粉体である充填剤の一部を特殊分散処理で液状にし、撹拌機で攪拌し、脱水処理をすることで、共凝固にするという前工程を混練の前に行う。
一度、固体や粉体を液状にするが、再度固形に戻すので、従来のミキサーをそのまま使用することができる。
この結果、天然ゴムを使用したコンパウンドにおいて、耐摩耗性能を維持しながら、従来に比べてエネルギーロスを約20%抑制できるゴム配合技術に成功した。
実際にタイヤの性能に換算すると「モデルケースでは現行の低燃費製品から、さらに約8%転がり抵抗の低減が可能になる」とのこと。
今後の展開については、既にマレーシアのタイヤ工場内に研究開発設備棟を設置しているとし、「今夏をめどに研究開発設備棟を生産化ラインとして整備、年内をめどに、新トラック・バス用タイヤの開発と生産の実用化を図る」方針。
最後に、守屋氏は「タイヤの技術性能において、我々が大きなアドバンテージを得た。より高性能なタイヤを実現する開発基盤が整備できた」と自信を見せ、説明を締めくくった。