生産効率化が業績に寄与
従業員の交流深め育成強化
十川ゴムの18年度は、半導体産業や自動車関連の落ち込みが昨年秋から厳しかったものの、設備投資による生産効率化を推進したことにより、減収増益となった。十川利男社長に今期足元の状況や製品開発に向けた取り組み、今後の経営課題などについて聞いた。
◆足元の需要動向について。
19年4~6月の動向は、売上は医療用ゴム製品が好調に推移したほか、環境対応の燃料ホースなどが堅調だったことにより、昨年11月から今年3月にかけての売上の減少分をカバーした形だ。その結果、売上高は前年比1・6%増、経常利益は若干減少している。
◆国内3工場の状況は。
堺、奈良、徳島の3工場は生産量は前年並みで推移しているが、長年勤めた従業員が退職していくという自然減が大きく、要員が不足気味だ。加えて、今期は自動車を担当する奈良工場が一番厳しい環境下に置かれている。自動車関連のお客様が今後、どの程度回復するかにかかっている。
◆中国拠点の現況を。
前期の売上高は前年比で7・5%増だった。中国国内向けの金型成型品と環境対応の燃料ホースが堅調だったほか、日本向けの金型成型品も伸びた。
そのほか、昨年は中国国内の景気が良く、需要も好調に推移した。売上比率も18年度は中国向けが65%(17年度は60%)、日本向けが35%(17年度は40%)と中国向けが上昇している。
一方、今期足元の状況は、6月までは堅調に推移していたが、米中貿易摩擦の関係の影響もあり、中国国内の景気があまり良くない。また日本と同様、人手不足や物流コストの上昇なども課題となっており、生産効率化を推し進めることで対策を取っている。
◆今後の事業展開は。
環境対応の燃料ホースなど、従来のお客様に加え、他のお客様に水平展開を行い、販売先を広げていきたい。
また、今期の設備投資は昨年と同じ約6億円を計画している。この投資により、業績にも経費削減の効果は出てきている。このため、引き続き製造ラインの自動化に限らず、検査ラインでもできるだけ人手をかけず自動化ができるように検討したい。物流コストの上昇については、四国と関西のデリバリーの効率化を進めていくことで対応していきたい。
◆人手不足の対策は。
製造部門は合理化を促進しているが、事務部門についても効率化を進めていくことで、人手不足の解消に努めている。
また、従業員一人ひとりのモチベーションを高める施策にも注力している。従業員同士の交流を深める懇親会を各事業所で開催しているほか、やりがいをもって仕事をしてもらえるように、工場で改善提案などを発表してもらい、表彰する機会も設けている。
◆今期の見通しは。
年初に挙げた「2019年は我慢の年」のような状況が続くと捉えており、国内・中国ともに19年度後半も決して油断はできない。上半期以降も人手不足による影響が続き、また、製品群の寿命の切り替えや好調だった建機関係も計画を低めに修正されているため、売上は前期比2・0%減を見込んでいる。
しかし利益面は、さらなる経費削減により前年をさらに上回りたいと考えている。
設備投資による生産性の向上に取り組みつつ、省人化・省力化を進め、利益を確保していく。
ホース
ディーゼル燃料専用ホース開発
19年度(4~8月)の各種ホースの需要動向は、ゴムホース全体は微増。ガス産業関係は輸出案件が伸長し、車両産業用ホースも列車用エアーホースが大きく増加。建機関係も同社が強い燃料用ホースは好調を維持したが、下期以降は厳しくなる見込み。また、自動車産業用はカーメーカーの生産減が響いている。
樹脂ホースは家電用の食洗器用ホースが伸びた一方、農業産業用は夏場の天候不順により伸びがみられず、樹脂ホース全体は若干減となった。
ホース事業では、汎用品の拡販と並行し、お客様の要望に基づいた特殊品の開発・提供に注力しており、環境に着目したホースの開発に力を入れている。
例えば「ディーゼル燃料専用ホース」分野では、環境上の排ガス規制強化から、燃料の高圧・高制御噴霧による完全燃焼を促進させる「コモンレールシステム」に適応するホースや菜種や大豆などを用いたバイオディーゼルへの適性も求められる。そこでこの課題を考慮した、長寿命のディーゼル燃料専用ホース(BFホース)を開発し、建機メーカーを中心にディーゼル内燃機に採用されてきた。高濃度なバイオディーゼルの国際的な流通増が見込まれる中、今後もユーザーの使用条件に適したディーゼル燃料専用ホースの拡充に努めていく。
また、BFホースに同じく内燃機の環境対応部品としてDPF(ディーゼル排気微粒子除去フィルターシステム)に用いられる差圧センサーホース等の高性能ゴムホース・チューブについても力を入れる。
ゴムシート
放射線遮蔽樹脂シートに注力
シート事業では、放射線遮蔽各種シートに注力している。放射線遮蔽材料は、鉛やタングステンを使用することが有効とされているが、鉛は非常に重量があり、設置が簡単にできない上、地球環境への影響も懸念される。そこで、同社はバリウムに注目し、従来の常識では考えられないような量の硫酸バリウムをゴムに配合し、かつゴム本来の持つ柔軟性を保持する「放射線遮蔽ゴムシートRSL―070」の開発に成功している。
同シートは、東日本大震災以降、原発関連施設を中心に使われてきたが、新しい用途を探索すべく、新たな放射線遮蔽材料として、現在開発を進めているのが、放射線遮蔽樹脂シートである。
シートの素材は、軟質塩化ビニルをベースに環境性能と遮蔽性能を併せ持つ遮蔽フィラーを配合し、従来品よりも遮蔽性能を2倍に向上させた。同シートの用途は、X線検査機や空港などの手荷物検査用の放射線遮蔽カーテンなどを想定している。
これら特殊シートに関しては「環境」をキーワードに、今後も製品開発を進めていく計画だ。
例えば、約10年前に開発した「低VOCシート」は、自動車メーカーの部品としてスペックインされたことで、現在は多種多様な部材に採用が広がっているという。
このほか、同社が研究開発を加速する「放熱シリコーンゴム」についても、ユーザーから新たなニーズを探るべく、開発・設計に力を入れており、今後も特定ユーザーへのスペックイン活動に注力していく方針でいる。 今期(19年度)のゴムシート事業の見通しは、「上期流れを引き継ぎ、下期も汎用品、特殊品ともに順調に推移するのではないか」(同社)と見て、売上は前年を上回る計画を立てている。
また、シート各社が頭を悩ます物流問題は、「運賃が製品原価に占めるウエイトは年々上昇している上、重量物のシートは運送会社が引き取ってくれないケースも増えている」(同社)。そうした厳しい環境下でも「配送システムなど、逐次改善に向け、様々な取り組みを実施し、製品の安定供給に努めていく」(同社)としている。
十川ゴムの19年3月期
減収も生産効率化で増益
19年3月期は、土木・建機用や一般機械用は好調に推移したが、自動車産業用で一部低調となり、全体としてやや厳しい環境となる中、設備投資や新規開発製品の拡販などに注力。利益面では生産性効率化に向けた取り組みが奏功した結果、減収増益となった。
セグメント別では、ホース類のゴムホースは自動車産業用の燃料ホースなどが減少した一方、土木・建機用やガス産業用の燃料ホースや高圧ホースが大きく増加し、ホース類の売上高は62億7700万円で同0・9%増となった。
ゴム工業用品類では、型物製品は医療機器用が増加したが、ガス産業用や自動車産業用が減少し横ばい。押出成形品は船舶・車両用が大幅に増加したものの、ガス産業用や自動車産業用、一般機械用などの減少により減収となった。ゴムシートは、パッキン用途は増加したが、住宅や自動車向けが減少し横ばい。結果、ゴム工業用品類の売上高は70億3000万円で同2・2%減となった。
各種カタログを充実
研究開発テーマを動画で紹介
十川ゴムは「エンドユーザーへどれだけ製品の特長を知っていただけるかが重要」という考えの下、代理店や商社への販売支援に注力している。
その一環として、同社では総合カタログやハイドロリックホース、ゴムシートの各種製品カタログを一つにまとめた冊子「セールスハンドブック」や、要素技術を盛り込んだ「ダイアリー」、ゴムの材料知識やホース・ゴムシートの製造法などをまとめた「サポートブック」を代理店や商社に配布している。
「セールスハンドブック」は、サイズはA5判と持ち運びしやすく、本の角は丸みを出す(角丸製本)ことでページがめくれないようにするなど、制作を担当する女性社員が使う側の目線に立った改良を重ね、「商社様などから大変好評を頂いている」(同社)。今後もカタログやHPなどを通じ製品の魅力やサービス向上を図る考えだ。
HPでは、現在の研究開発における取り組みを動画で紹介する「研究開発テーマ動画」を設け、材料設計、構造設計、ものづくりの各テクノロジーの視点から研究開発における各種情報をアップしている。「動画を視聴したユーザーから問い合わせや依頼が来るケースもある」(同社)という。
「三方よし」を経営理念に
自分よし、相手よし、他人よし
同社は創業時より、自己を活かし、相手を良くし、多くの第三者に益をもたらす「三方よし」の精神を経営理念とした事業活動を展開してきた。
同社では、この「三方よし」という経営理念は、過去も、現在も、そして未来においても変わることなく大切に継承されるものだとしている。
「三方よし」の核となるのは『人』である。社内、社外を問わず、きめ細やかな心配りによる心通うコミュニケーションを行い、不変の想いである「人を大切に―」を実践している。
また、経営環境が激しく変化する状況において、顧客に選ばれる存在価値のある企業であることが、永続できる大きな条件であると考えている。
同社は今後も、顧客の需要をいち早く捉え、情報を共有化することで、スピーディーに対応する体制への変革を図っていく。
《沿革》
1925(大正14年5月)
大阪市浪速区大国町に十川ゴム製造所を創立
1929(昭和4年7月)
合名会社十川ゴム製造所を設立、大阪市西区に営業所を開設
1943(昭和18年7月)
徳島工場新設(徳島県阿波郡阿波町)
1949(昭和24年4月)
東京支店を開設(従来出張所)
1956(昭和31年4月)
十川ゴム株式会社設立
1959(昭和34年4月)
合名会社解散し株式会社十川ゴム製造所を設立
1961(昭和36年9月)
堺工場新設(大阪府堺市上之)
1966(昭和41年4月)
日本工業ゴム株式会社設立
1967(昭和42年4月)
奈良工場新設(奈良県五條市三在町)
1970(昭和45年5月)
本社を大阪市西区立売堀1丁目に移転
1987(昭和62年3月)
北陸営業所を開設
1990(平成2年3月)
東京支社を開設(従来支店)、福岡支店を開設(従来出張所)、札幌営業所を開設(従来出張所)
1995(平成7年4月)
日本工業ゴム株式会社、十川ゴム株式会社と合併し、新商号を株式会社十川ゴムとして発足
本社を大阪市西区南堀江4丁目に移転
2000(平成12年5月)
ISO9001認証取得
2005(平成17年4月)
中国浙江省に紹興十川橡有限公司を設立
2012(平成24年11月)
ISO14001全社統合認証取得
2014(平成26年10月)
四国(徳島)、北九州(小倉)に出張所を開設