2020年の年頭に当たり、謹んで新年のご挨拶を申し上げます。
冷戦の終結以来の大きな歴史の変化の渦中にあるのではないか。アメリカと中国との間の貿易摩擦を目の当たりして、このような感想を禁じ得ません。世界第一位と第二位の経済大国の摩擦は、単に経済という側面からの国家間の競争という枠を超え、両国の覇権を賭けた争いという性格が帯びることを否定できないからです。この争いは今後、静かにも長きにわたり続いていくのではないでしょうか。もう一つの極であるヨーロッパにおいては、イギリスのEU離脱問題は未だ先行きを見通すことが困難な状況です。この問題の契機となった移民政策に加え、経済・財政政策に関しても、EU内部での協調の綻びを繕うことは容易ではありません。
一方で経済活動のボーダレス化はますます深化し、その進展に見合った枠組みが求められています。一昨年末の環太平洋パートナーシップ(TPP)の発効に続き昨年2月には日EU経済連携協定(EPA)も発効に至りました。東アジア地域包括的経済連携協定(RCEP)に関しては現在交渉途上にあり、その先行きを見通すことは困難ですが、仮に同協定が発効すれば世界人口の約半分を有する広大な経済圏が誕生します。政治的には不確定要素の多いこの世界ですが、経済とその基盤となる市場に関しては、統合という大きな流れに沿って動いていくことを期待しています。
経済活動のボーダレス化は、ヒトとモノの動きを飛躍的に増大させます。このような動きと相俟って、人は「モビリティ」を求めます。自動車はモビリティの主役です。自動車タイヤは、自動車によって提供されるモビリティを支える最も重要な商品の一つです。現在、自動車は「CASE」と呼ばれる大きな変革の波に洗われています。その結果として自動運転が導入されようとも、共有利用が普及しようとも、そして電動化が進もうとも、先に述べたタイヤの位置付けは変わりません。依然としてモビリティを支える最重要な商品の一つとしてあり続けるはずです。
そこで求められる最も重要な性能は「安全」です。安全なタイヤの提供を通してグローバルなモビリティの向上に貢献する。自動車タイヤという商品をグローバルに提供する我々は、この実現を目指して本年も着実に事業活動を進めていきます。
さて、昨年の国内自動車タイヤ生産量は新ゴム消費量ベースで106万トン程度、一昨年とほぼ同程度となることが見込まれています。経済活動として見た規模は相応に大きく、日本の経済や社会に対してタイヤの生産や提供は依然として大きな影響を与えています。我々は事業者団体として、社会に与える影響に見合った責任を自らの活動をとおして果たしていく必要があると考えています。活動の基軸は従来と変わることなく「安全」と「環境」です。
安全対策としては、空気圧管理の重要性や冬用タイヤ装着の必要性などの使用者に対する啓発は無論のこと、タイヤ空気充てん作業時の遵守事項などタイヤ整備事業者への啓発にも引き続き取り組みます。環境対策としては、製販一体での廃タイヤ適正処理の推進や不法投棄タイヤ除去に係る地方自治体への支援をとおし、廃タイヤ不法投棄問題の解決に貢献します。また、低燃費タイヤの普及並びにラベリング制度の運用によってCO2排出量の削減を実現します。さらに、ウェットグリップ、転がり抵抗及び車外騒音に係る規制に適合する製品を円滑に供給することで、自動車の環境性能向上に貢献します。
大きな変化の中にあって着実な一歩を積み重ねることで、山積する課題の解決に取り組むつもりです。関係する皆様方の変わらぬご支援、ご鞭撻を、本年も宜しくお願い申し上げます。最後に、タイヤ産業に関わる全ての皆様方にとって本年が実り多き年となりますことを祈念し、私の新年のご挨拶とさせていただきます。