東レは12月19日、PPS(ポリフェニレンサルファイド)ポリマーが持つ優れた誘電特性や難燃性、耐薬品性を維持しつつ従来に比べて40℃以上耐熱性を高め、融点に近い温度でも変形しにくい寸法安定性を持つPPSフィルムを創出したと発表した。この開発品を5Gなどに用いられる高速伝送用フレキシブルプリント基板(FPC)に適用することで、通信デバイスの高周波での伝送ロスを低減し、高温・高湿度などの幅広い環境での高速通信を安定させることが期待できる。既にパイロットスケールでの技術確立を完了し、今後、2020年度中に量産体制を整え、急拡大する5G向け通信機器の早期普及に貢献することにしている。
PPSフィルムは、優れた難燃性、耐薬品性を有しながら、LCPフィルムと同等以上の誘電特性、特に温度や湿度の影響を受けにくい優れた性質を有するが、高温域ではフィルム自体が変形しやすく、回路基板への加工時のはんだ耐熱性が不足していた。そこで同社は、PPSフィルムの結晶構造を制御する独自技術を開発し、PPSポリマーの優れた特性を維持しつつ、耐熱性を大幅に高めることに成功した。
今回の開発品は、250℃の加熱テストでフィルムが変形しないことを確認しており、耐熱性を高めたことによって、既存の回路基板加工設備を使用できることが期待される。また、長年蓄積してきたフィルム内の分子鎖の配向を制御する技術により、この開発品は低い厚み方向の熱膨張係数98ppm/℃を実現している。これにより、回路基板の多層化による小型化設計が可能となるなど、これらの特長を活かし5G用の伝送ケーブルやアンテナなど幅広い用途展開が期待できる。
同社は、2軸延伸PPSフィルム 「トレリナ」に付与した高い熱寸法安定性とコスト競争力のメリットを活かし、まずは5Gスマートフォンを中心としたFPC市場での採用を進め、さらに車載用途や基地局用途など、幅広い用途に展開を図る。