住友理工は8月21日、同社とライラックファーマが共同で、新しい「マイクロ流路装置(脂質ナノ粒子製造ツール)」を開発したと発表した。
同製品は、脂質ナノ粒子を形成するマイクロ流路チップと、マイクロ流路チップに原料液を供給する送液装置がセットになっている。流路チップについては、粒径がそろった高品質の粒子を再現性高く製造できるライラックファーマ独自のマイクロ流路「アイリンプ」と同形状の流路を採用している。高品質の脂質ナノ粒子を簡単に試作できる研究用機器として、8月28、29日に開催される「第36回日本DDS学会学術集会」に出展する。企業展示はオンライン。
同製品は、同社の高分子材料技術(材料配合・微細加工)を生かし、高透明シリコーンによる製品化を実現。従来のガラス製や樹脂製のチップと比較すると、依頼に応じた形状の製品を、コストを抑えてスピーディに供給することが可能となった。また、新たに開発したマイクロ流路チップを多くの研究者に簡便に使用してもらえるように、同マイクロ流路チップに合わせて送液装置を開発。ポート一体型のカートリッジにしたチップを装置にセットするだけで、簡単に、人為的なミスを発生させることなく、さまざまな配合の脂質ナノ粒子を短時間で試作できるようになる。
ライラックファーマは、医薬品を開発するための北海道大学発ベンチャーとして2016年に設立。アイリンプは北海道大学大学院工学研究院の渡慶次学教授、真栄城正寿助教らが開発し、ライラックファーマが技術導入した独自の流路形状を持つマイクロ流路。脂質ナノ粒子は原料となる脂質溶液を水で希釈し、脂質を水中で自己集合させることで作られるが、アイリンプでは流れてくる脂質溶液と水をマイクロ流路内の微小空間で一体化させ、最適な希釈状態を常に作り出せるように流路形状を工夫している。その結果、タンク内で撹拌しながら希釈する従来製法よりも粒径がそろった高品質の脂質ナノ粒子を再現性高く作り出すことができるのが特長。また、総流量や各溶液の流量比率を変えることで希釈状態を変えることができ、その結果として製造する粒子の大きさを変えることも容易となっている。
脂質ナノ粒子は、10~200nmのきわめて小さな球体の内部にさまざまな薬剤を封入することが可能。カプセル化により体内の分解酵素などから薬剤を守ることで、人体の隅々に確実に薬剤を届けることができるため、患部への集積、薬剤効果の持続や副作用の低減などの効果が認められている。また、従来にない新しく画期的な希少疾患治療薬やワクチン開発などでも使われ始めているほか、医薬以外の分野でも、薬剤の物性改善や性能付与を目的として、高品質の脂質ナノ粒子を簡便に再現性高く製造する技術のニーズが高まっている。
住友理工は1970年代より、自動車内部のワイヤーハーネスの先端に装着し、防水の役割を担う「シール材」として、シリコーンゴムを原料とする「コネクタシール」などを開発・販売してきた。この精密ゴム成型技術を生かして、マイクロ流路チップの製造・販売を開始し、2019年より、ライラックファーマとの共同開発がスタートした。