現場に役立つゴムの試験機入門講座 第1回 ムーニー粘度計、ムーニー粘度、スコーチ試験

2020年09月28日

ゴムタイムス社

*この記事はゴム・プラスチックの技術専門季刊誌「ポリマーTECH」に掲載されました。
*記事で使用している図・表はPDFで確認できます。

シリーズ連載② 現場に役立つゴムの試験機入門講座

第1回 ムーニー粘度計、ムーニー粘度、スコーチ試験

蓮見―RCT代表 蓮見正武

 ムーニー粘度計はゴム業界において最も普及した試験機のひとつです。レオメーターの発展により加硫試験機としての存在は低下したものの、加工性の指標を表すものとして、いまなおその地位を保っています。
 配合技術者はポリマーを選択するとき、ポリマーメーカーのカタログに記載されているムーニー粘度の値を重視しており、現場の加工性を改善するときムーニー粘度を高くする(あるいは低くする)ことを考えます。精練工程では品質項目としてムーニー粘度を管理しています。
 ムーニー粘度については1960年代に多くの研究がなされ、日本ゴム協会誌に多数報告されましたが、最近はほとんど見かけません。あまりに身近な存在ですでに完成された試験機と思われているのかも知れませんが、試験機メーカーは改善を続けており、精度は非常に向上しているだけでなく可変速ムーニー、多段ムーニー、ムーニー緩和など新しい評価尺度を取入れて、より工場で実感する加工性に近づけようとしています。
 第一回はムーニー粘度計にまつわる歴史と今後の展望を述べてみます。

ムーニー粘度計の歴史
 ムーニー粘度計はDr. Melvin Mooneyによって1934年に作られました。合成ゴムはいまだ揺籃期で工業的材料としては天然ゴムのみの時代で、素練りの管理用としてウィリアムスプラストメーターなどの平行板圧縮型の可塑度計が使われていましたが、Dr. Mooneyは簡単な操作で、短時間で再現性良く測定できる可塑度計として密閉式回転円板型の装置を考案し、従来の可塑度計と区別するためにビスコメーターという名称を使い現在に至っています。
 第二次世界大戦は合成ゴムの研究開発を促しました。ドイツはすでにSBR(BUNA-S)、NBR (BUNA-N)の重合技術を開発していましたが、米国では政府主導で合成ゴムの工業化が進められGR-S(SBR)、GR-N(NBR)などが量産化されました。
これらの開発途上の合成ゴムは天然ゴムとは加工性が異なるので、硬い合成ゴムから軟らかい素練り天然ゴムまで広範囲に測定でき、再現性良好なムーニー粘度計が大きな役割を果たしました。
 日本においては研究用として戦前から輸入品が使われていたようですが、数は少なかったものと推察されます。戦後国産品開発が上島製作所、島津製作所などで行われ、島津製作所は昭和27年に量産機を発表しました。
 初期のムーニー粘度計は、上熱盤は手動昇降式で熱源はスチーム、トルクはU字バネのたわみをダイアルゲージで検出していましたが、間もなくエアシリンダによる昇降となり、国内ゴム会社に広く普及しました。自動タイマーをつけたりダイアルゲージを差動トランスに換えて自動記録にしたりする改造も行われました。この形式のムーニー粘度計は原理的には現在のものと同じで現在も使われています。図3の写真では電熱ヒーターのコントロールボックスとペンレコーダーを付け加えています。
 1970年代には電子化が図られ、ペンレコーダーあるいは小さなプリンターで測定結果の印刷を行うようになりました(図4)。
1980年代にはマイコンを装備して温度精度の向上、自動化が図られました。デザイン的にも洗練され、測定結果はデジタル表示されるようになりました。高粘度配合ではローター強度が不足するのでローターの脚形状がトラウザ型から四角柱型となり、フルスケール200Mが標準となり、さらに強力な400M型も出現しました(図5)。
 2000年代にはPCを装備して試験条件の設定、試験結果の記録保存、検査規格との照合判定、統計処理などが行えるようになり、一段と自動化、省力化が図られ検査担当者の負担は大幅に軽減されました。リングヒーターに代わってフィルムヒーターが採用され、ローターから熱が逃げないように補助ヒーターを設けたりして精度向上が図られました。外観形状はコンパクトになり、従来の床置き型から卓上型が主流になりました(図6)。
 可変速測定、多段測定、ムーニー緩和などは古くから検討はされていたものの実用化はされていませんでしたが、最新機種には盛り込まれ、容易に測定できるようになりました。

ムーニー粘度計の研究の足跡
 我が国のゴム工業の発展に貢献し、いまなお確固たる地位を占めているムーニー粘度計ですが、不思議なことに技術的な議論はあまり行われていません。
 昭和29年の日本ゴム協会誌3)に始めてムーニー粘度計が登場し、昭和30年代に多くの論文が掲載されました。なかでも二宮、安田らはムーニー粘度のひずみ速度依存性4)ムーニー試験機内の応力分布5)ムーニー粘度の粘弾性的取扱い6)ムーニー試験機内でのゴムの流動7)ムーニー粘度の分子量依存性8)ムーニー粘度の時間依存性9)など精力的な研究を行ったことは特筆に価します。北島、西村、高野は各社のムーニー粘度計の比較10)、金子はムーニー粘度計の温度の実測11)、下田はS型ローターとL型ローターの比較12)などを報告しています。しかし、昭和42年を最後に新たな論文は途絶えています。
 昭和30年代のムーニー粘度計は電子化以前の形式で精度も充分ではありませんでしたし、時間もかかりました。そういうマシンでムーニー粘度計の理論的な解析を行った先人達には敬服します。現在の高精度なムーニー粘度計と粘弾性理論があればもっと高度な研究が可能なはずです。最新のムーニー粘度計を駆使してゴムの加工性の核心に迫って欲しいと思います。

ムーニー粘度の単位
 ムーニー粘度計はローターを回転したときの負荷(トルク)を測定しています。本来はトルクの単位(N-m)で表せるものですが、JISではローターシャフトに8.30N-mのトルクが発生しているときを100ムーニー単位(100M)と定義しているため、一般的にはムーニー粘度は無名数としています。
 Dr. Mooneyが開発したムーニー粘度計は高粘度の合成ゴム配合にはローター強度が十分ではありませんでしたが四角柱型ローターの200M型が標準的となり、現在は400M型も出現しています。

ラージローターとスモールローター
 JIS K6300にはラージローター(L型)とスモールローター(S型)が規定されています。表1に各ローターの寸法を示します。

 L型が標準でS型はL型ではオーバースケールする高粘度ゴムに使います。最近は400Mが測定可能な機種があるためS型の出番は少なくなりました。後述の可変速ムーニー粘度計で回転数を上げるとL型では測定できなくなる場合があり、S型の存在が見直されています。
L型とS型の比較について、下田は
ML(100℃)/MS(100℃)=1.79~1.83
ML(125℃)/MS(125℃)=1.687~1.733 
と報告しています12)

格子溝ダイスと放射溝ダイス
 国内では格子溝(角溝)ダイス(図7(a))が多く使われていましたが、

 

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