2液可変混合・高強度ウレタン系接着剤

2020年09月30日

ゴムタイムス社

*この記事はゴム・プラスチックの技術専門季刊誌「ポリマーTECH」に掲載されました。
*記事で使用している図・表はPDFで確認できます。

特集1 次世代に向けた接着・接合技術と最近の動向

2液可変混合・高強度ウレタン系接着剤

横浜ゴム㈱ 木村和資
1.はじめに
 欧米の自動車メーカーは、鋼、アルミ、CFRPといった異種部材を用いたマルチマテリアル化が進めつつあり、自動車の軽量化や剛性向上のための構造接着技術が、今後非常に重要となってくる。
 現在、構造用接着剤としては主にエポキシ系接着剤とウレタン系接着剤が適宜用いられている。エポキシ系はウエルボンド工法等でこれまでに実績があるものの、マルチマテリアル化が進んでいく場合に問題となる、異種部材間の熱膨張係数の差や耐衝撃性といったことに対してはまだまだ未知数の部分があり、特に動きに対する追従性や、靭性の低さ等が技術的課題として残されている。
 一方ウレタン系接着剤は、準構造的な部位の接着には用いられてきたが、構造接着剤としの実績はまだ浅いと言える。しかし海外ではCFRPを用いた際の接着に大量に用いられる例が出てきており、徐々に構造用接着剤として注目されつつある。
 一般的にウレタン系接着剤は、エポキシ系接着剤で課題となる伸びへの追従性や、耐衝撃性といった課題に対しては非常に優れた特性を有している反面、エポキシ系接着剤の利点である硬化性や、高弾性率といった点で劣ると言われている。
 ウレタン系接着剤の構造用接着剤としての適用はまだ黎明期といえるが、本来ウレタンは分子設計の自由度が高く、硬いものから柔らかく非常に弾性に富むものまで設計することが可能である。一方、エポキシ系化合物と比べると弾性率や最大引張り強度が低い点が問題と言える。そこで本報では、エポキシ系接着剤の強度と、ウレタン系接着剤の伸びの両方を具備した性状の構造用接着剤がウレタン系で可能かどうかを検証した。目標としたターゲット領域は図1に示す領域である。

2.ウレタン系接着剤の構成と構造
 ポリウレタ系化合物は、各種のイソシアネート化合物、各種のポリオール、および水酸基やアミン等の活性水素を持つ化合物によって構成される。第一に、イソシアネートの種類とポリオールの種類の組み合わせが重要である。イソシアネート基とポリオールの水酸基、あるいは鎖延長剤と称される1、4、ブタンジオール等の水酸基との反応によってもたらされるウレタン結合、あるいはまた、架橋剤と称されるジアミン化合物との反応によってなるウレア結合等によって架橋されてなる。ポリオールとしては、PPG(ポリオキシプロピレングリコール)等のポリエーテルからPTMG系(ポリテトラメチレンエーテルグリコール)、PC系(ポリカーボネートジオール)など、結晶性のポリエステル類などもある。一般的に、PPG等の非晶性のポリオールを用いると、柔らかくて柔軟なゴム弾性体となるが、最大引張り強度は5~10Mpa程度となる。一方、結晶性のポリオールを用いると分子鎖間の相互作用などの寄与もあり、200%以上の伸びや、50Mpa以上の最大引張り強度を発揮できる場合もある。
 第二に、ウレタン系は極性の強い高分子として特徴的な構造をとる。主にポリオールによって構成されるソフトセグメントと、主にイシシアネートによって構成されるハードセグメントとによるミクロ相分離構造の状態をとるが、図2の模式図に示すように、この構造が非常に多様であり、かつその構成が極めて重要となる。
 ウレタン結合とウレア結合は、他の反応結合と比べて非常に凝集エネルギーが高い結合であり、また、図2に示す水素結合によってミクロ凝集体を形成することとなる。反応の進行によってウレタン結合あるいはウレア結合が形成されることで連続的に相分離が生じ、ミクロ凝集体としてハードセグメントとして成長する。したがって、その構造、大きさ、濃度等が如何に形成されるかによって、弾性率、最大引張り強度、伸び等の物性に大きな影響を及ぼすことになる。

3.高性能ウレタン系化合物としての設計
 今回、自動車構造用接着剤としてウレタン系接着剤の可能性について検討するにあたり、多様な組み合わせが可能な点を加味することで様々な性状のものを創出することや、ウレタン系化合物の優れた特性を維持しながら、欠点をなるべく克服すことを目指した。先に述べた特性以外で一般的にウレタン系化合物が劣るとされている点は、硬化性にまつわる特性(混合比の調整・ブレ等に纏わる許容性、発泡の危険性、手離れ(タクト性、接着・強度発現))や耐熱性等の特性が挙げられている。
 まず、ウレタン系化合物の特徴的な構造であるミクロ相分離構造について、その強度と伸びの両立という観点から検証した。
反応し、硬化していく過程でウレタン結合、あるいはウレア結合が形成され、凝集体として分離していく際に一部ソフトセグメントを巻き込んで成長していくことになるが、これをできるだけ強靭な構造とし、かつ系内に均等に多数生成させることで、高い強度を発揮できるようにさせた。また、伸び特性の部分に影響するソフトセグメント鎖は、もちろんこのハードセグメント相に付加しているが、ハードセグメントと同様、均一性を具現化させることが、物性や温度依存性といった特性のために重要となる。
 以上の方針を具体的に示す例を次に紹介する。図3は、標準設定の2液混合比である主剤:硬化剤=5:5に対して、4:6~6:4に混合比をずらせた場合の例である。まず外観はおおむね透明であり、ハードセグメントとソフトセグメントの相分離構造が非常に微細であること、混合比のぶれによりごくわずかにその透明性に変化が生じていること、また、AFMによる観察でも硬い相、柔らかい相が確認されている。
すなわち、強度と伸びの両立のため、ハードセグメントの強靭な構造、均一なサイズとその多さ、およびソフトセグメントの柔軟性と均一性を、反応硬化する過程で理想的に相分離しながら、独自の構造を形成したことが推察できる。また、このような系の力学的な物性の一例を図4に示す。
 ここに示す例のように、

 

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