新型コロナで甚大な影響 20年ゴム業界10大ニュース詳報

2020年12月14日

ゴムタイムス社

①新型コロナで操業停止広がる
 新型コロナウイルスの感染拡大と世界各国の感染対策の強化を受け、ゴム関連企業の工場の操業停止が拡大した。
 ブリヂストンは、北米・中南米の計14工場、スペインの計3工場、フランスのべチューン工場、イタリアのバリ工場、ロシアのウリヤノフスク工場、トルコのイズミット工場とアクサライ工場、南アフリカのポートエリザベス工場とブリッツ工場、インドのインドール工場とプネ工場などのタイヤ工場で操業を段階的に一時停止した。
 住友ゴム工業は、タイヤを製造する国内の全工場で操業を一時停止した。海外では南アフリカのタイヤの生産拠点、米国のゴルフクラブの生産拠点、フィリピンのテニスボールの生産拠点で操業を一時停止した。
 横浜ゴムは、乗用車用タイヤ等を製造するフィリピンの工場と、海洋製品を製造するイタリアの工場で操業を停止。
 TOYO TIREは、輸出比率の高い仙台工場の稼働一時休止した。海外では、米ジョージア州のタイヤ工場、マレーシアのタイヤ2工場、米国の自動車用防振ゴム工場の操業を一時停止した。
 バンドー化学は、米国では、OEM顧客向けの生産をストップ、インドでは、政府の命令により工場の操業を停止、マレーシアでも操業を停止した。ニチリンはインドの生産拠点で操業を停止した。

②主要ゴム企業が全社減収に
 新型コロナウイルス影響を背景に、各国が相次ぎロックダウン(都市封鎖)を行った。この措置を受け、主要需要先の自動車メーカーでは工場の稼働を一時休止した。経済活動がストップした影響で、上場ゴム企業の業績も悪化した。
 主要上場ゴム関連企業の21年3月期第2四半期連結決算は全社で減収となった。21社合計の売上高は1兆3728億1800万円で前年同一企業との比較(以下同)では21・4%減となった。21社のうち増収企業は0社(前年同期は8社)。ロックダウン解除後は中国を始め、米国や日本などでも自動車生産は回復基調で推移している。主要上場ゴム企業22社の第1四半期(4~6月)の売上高が同29・2%減だったことを踏まえると、第2四半期(7~9月)の減収幅は改善傾向にある。減収企業の21社のうち、ナンシンを除く20社が2桁減となっている。

③ゴム製品・原料で年間通じて値上げ 
 20年も昨年に引き続き、ゴム・樹脂関連で値上げの動きが相次いだ。上半期ではゴム関連では、伝動ベルトやコンベヤベルトなどベルト製品で価格改定が実施されたほか、旭カーボン、東海カーボンがカーボンブラックの価格改定を行った。樹脂関連では、ポリプロピレンやポリエチレン、ポリスチレンなど合成樹脂で値上げが行われた。原料では製造設備の老朽化対策などを理由に、JSRが7月1日納入分から合成ゴム・エマルジョン製品を値上げすると発表したのに続き、日本ゼオンも8月17日出荷分より合成ゴムの販売価格を改定すると発表した。
 10月以降も、三井化学が継続的な安定供給を理由に12月1日納入分より三井EPTを値上げすると発表。樹脂関連では、原油価格の上昇に加え、用役、副資材など諸経費の上昇などを要因としてポリスチレンやポリプロピレンなどで値上げが打ち出された。

④世界の合成ゴム生産が5年ぶり減少
 国際ゴム研究会(IRSG)のまとめによると、2019年の世界の合成ゴム生産量は1513万3000tで同0・9%減となり、5年ぶりに前年を下回った。
 国別では、1位の中国が317万8000tで同1・4%増、2位の米国が223万2000tで同2・3%減、3位の韓国が同1・7%減、4位のロシアが同3・0%減、5位の日本が同2・7%減となり、上位5ヵ国のうち中国を除く4ヵ国が前年を下回った。
 天然ゴムの総生産量も、1364万1000tで前年比1・8%減となり、前年の2・5%増から減少に転じた。
 2019年の世界の新ゴム消費量は前年比0・7%減の2896万8000tとなった。消費量全体で1位の中国、2位の米国が微増にとどまったことや、前年2桁の増加を見せた3位のインド、4位の日本も減少し、消費量は前年の増加から減少に転じた。
 さらに、2020年上半期(1~6月)では、1239万1000tで前年同期比14・6%減と2桁減少しており、首位で消費量の3割を占める中国を始め、2位の米国も2桁減となった。
 コロナ感染拡大に伴う景気悪化の影響を背景に、各国の新ゴム消費量は大きく落ち込んでおり、2020年累計でも減少幅が拡大することが予想されている。

⑤ゴム企業が感染症対策に貢献
 新型コロナウイルス感染症対策で注目を集める製品や新技術が、ゴム・プラスチック企業から相次ぎ開発された。
 日進ゴムは、ドアノブからのコロナ感染防止のため、ドアノブ用のアタッチメント「ノブフック#1」を緊急開発した。治療薬では、デンカがコロナ治療薬として期待される「アビガン錠」の原料となるマロン酸ジエチルを青海工場から出荷を開始した。
 感染症対策の最前線で戦う医療従事者への支援も相次ぐ。朝日ラバーはコロナ対応のフェイスシールドを製造し、福島県臨床工学技士会に無償提供。ホッティーポリマーも3Dプリンターを活用し製造したフェイスシールドを地元の墨田区保健予防課へ無償

提供した。
 イノアックコーポレーションは、国内工場で最新機材を使用したポリウレタン製マスク「ポリマーボディーの洗えるマスクα(アルファ)」を開発。山本化学工業は、素材に独立気泡構造の合成ゴムを使った、医療従事者向け「ビオラ3マスクカバー」を発売した。
 葛飾の町工場である精工パッキングは、同社が得意とする平板打抜き加工技術を活用し、極薄輪ゴムを使ったマスク製作キットを製造販売した。

⑥シリコーンの新製品発表相次ぐ
 信越化学工業は9月に二次加硫を必要としないミラブル型の成形用シリコーンゴムを開発したと発表した。二次加硫を必要としないミラブル型のシリコーンゴムは、業界初となる。新製品は、従来品に比べ低分子シロキサンの含有量を大幅に低減し、また一次加硫時に副生成物が発生しない付加反応型にしたことにより、二次加硫の工程が不要になる。このため新製品は、成形メーカーの生産性の向上と省エネルギーに貢献するとともに、成形品への異物付着の防止などの要望に応えることができると期待されている。
 朝日ラバーは11月、独自の配合技術と表面改質及びマイクロ加工技術を活かして、シリコーンゴムに親水性に優れた処理を施す技術を開発した。同社が開発した親水化技術は、ゴムの表面に水分を接触させた場合の接触角を10度以下にすることができる。また、親水化効果を長期間保持できること、耐滅菌性があること、簡便なものづくりができることが特長となっている。
 また、素材ではないが、ホッティーポリマーが独のGerman RepRap社のLAM(液体積層造形法)方式3Dプリンター「L320」の販売を開始し、同3Dプリンターを使った造形サービスもスタートさせた。

⑦使い切り手袋の需要が激増
 コロナ禍でゴム樹脂手袋の需要が増えている。特に、使い切り手袋の需要が急伸した。使い切り手袋はこれまで医療機関や食品工場などの業務用を中心に使用されてきたが、10年ほど前からは消費者の衛生意識の高まりや仕様上の手軽さなどが受け入れられ、家庭にも普及が広がった。日本グローブ工業会の統計によると、19年の極薄手袋の販売数量は前年比10・2%増の約52億7000枚。コロナとは関係がなく販売好調が続いている。
 コロナ感染防止対策として、まず医療機関や食品工場でマスクやフェイスシールドと並んで使い切り手袋の使用が激増。さらに、最近はスーパーやコンビニなどの大手量販店でもスタッフに使い切り手袋を装着させるケースが広がり、需要増に拍車をかけた。コロナ前に比べて価格は高騰しており、国内メーカーは調達に苦慮している。
 その中、国内専業大手のショーワグローブは8月、国内初の合成ゴム製の使い切り手袋の新工場を香川県に建設し、2023年春より稼働を始めると発表。医療用や食品産業向けの使い切り手袋を生産する予定。

⑧産学官連携の動きが広がる
 ゴム・樹脂関連企業が退学や研究機関との産学官連携に積極的な姿勢を見せている。
 JSRは、東京大学大学院理学系研究科物理学専攻と同社が包括的連携に合意し、2020年4月1日より、共同研究を開始したと発表した。連携により、アカデミアと産業界の融合による、新たな高機能材料を社会に導出する。
 住友理工は、同社と産業技術総合研究所は共同で、産総研のつくばセンター内に「住友理工産総研先進高分子デバイス連携研究室」を設立した。センシングデバイスを実装した車両を用いて、実際の走行を再現した実験研究を行い、生体の情報や状態をどこまで推定可能かを明らかにする。
 三菱ケミカルは東京大学と同社が、サーキュラーエコノミーの実現に向け協働していくことで合意したと発表。資源の循環・有効活用の観点で素材産業が目指すべきビジネスモデル等について、共同研究を開始する。
 三井化学は9月15日、長岡技術科学大学大学院工学研究科機械創造工学専攻・髙橋勉教授と、プラスチック廃棄物の再利用を促進する革新的な技術の共同研究を開始したと発表した。 

⑨ゴム製品出荷全品目が減少
 経済産業省がまとめた20年1~6月のゴム製品生産・出荷金額によると、出荷金額は9130億673万3000円で前年同期比21・0%減となった。
 新型コロナウイルス感染拡大を受け、各国政府がロックダウン(都市封鎖)を行った影響から、大口需要先である自動車メーカーが生産を一時休止する措置をとった。自動車生産台数が世界各国で大きく減少した影響で、タイヤをはじめ、多くの品目が減少となった。
 品目別では、自動車用タイヤを含め、全ての項目で前年を下回った。1~6月の自動車用タイヤの出荷金額は4624億4717万8000円で同23・8%減。

⑩在宅勤務や会合中止広がる 
 新型コロナウイルスの感染拡大を防ぐ取り組みがゴム関連企業や団体で一斉に広がった。各企業が在宅勤務や時差通勤を活用するほか、各組合で行事の中止等が相次いだ。
 ゴム・樹脂各社は4月1日に予定していた入社式の開催を見直し、今年は多くの企業がウェブなどを活用する方式を採用した。新人研修でもeラーニングなどを活用するなど各社が感染対策に万全を期した。
 ゴム関連団体にも会合や行事の中止、延期の動きが広がった。日本ゴム工業会や日本ゴム協会など各種団体では、会合や会議の中止、延期した。開催する場合も、オンラインでの実施や消毒液やマスクなどの感染防止対策を講じた上で開催した。
 同時にゴム関連各社が感染予防策を強化し、在宅勤務の拡大などの動きが広がった。
 三井化学は3月3日、東京都港区の本社業務を原則としてテレワークとすると発表した。対象は派遣社員を含む約1300人。
 エボニックジャパンは、製造拠点以外の本社を含む国内各拠点で、3月から可能な限りテレワークと時差出勤に切り替えた。

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