現場に役立つゴムの試験機入門講座 第3回 加硫試験機 (Curemeter)─ その2

2021年02月05日

ゴムタイムス社

*この記事はゴム・プラスチックの技術専門季刊誌「ポリマーTECH」に掲載されました。
*記事で使用している図・表はPDFで確認できます。

シリーズ連載② 現場に役立つゴムの試験機入門講座
第3回 加硫試験機 (Curemeter)─ その2

蓮見―RCT代表 蓮見正武

 

 前回、密閉型ねじり振動式加硫試験機について解説しましたが、最近の加硫試験機は非常に高精度高機能になっています。今回はそのような加硫試験機の応用事例を紹介します。
なお、前回同様JSRトレーディング(JSR)、アルファテクノロジース(α-TECH)、東洋精機製作所(東洋精機)と略称します。

加硫試験機(キュアメーター)の応用
1.発泡測定
 発泡ゴム(スポンジゴム)の配合、製造は高度な技術と経験が必要です。ゴム技術の大先輩である金子秀男氏は「応用ゴム化学12講」の中で「スポンジゴムは科学というよりも職人芸に近い」と述べており、スポンジゴムについては
1.‌発泡以前に加硫が進むと、ゴムが硬くなってうまく膨れてくれない。
2.‌発泡がうまく行っても加硫が進まないと、ガスが逃げ、せっかくの泡もつぶれる。
3.‌発泡と加硫がうまく進んでも、泡が大きくなると熱の伝わり方が遅くなる。加硫が遅れやすくなる。
4.‌高温短時間の発泡加硫ほど収縮が大きい。
5.‌素練りや熟成によって発泡度が著しく変化する。
とスポンジの難しさを述べています3)。
 スポンジゴムは加硫と発泡のバランスと言われていますが、加硫試験機に発泡圧力測定機能を組み込み、加硫の進行と発泡圧を同時に測定できるものがあります。

 上島製作所FDR VR-3111を例にとると、下ダイ(検出側ダイ)にトルク検出センサーと別にダイにかかる圧力を検知するセンサーを設け、発泡によりダイを押し開こうとする力を検知します。

 VR-3111でスポンジゴムの加硫と発泡圧を同時に測定した例を図2に示します。
 加硫トルク、発泡圧力とそれぞれの微分(時間当たりの変化)を表示しています。
 スポンジの加硫条件の設定はベテラン技術者が配合処方、加硫温度、仕込量を色々変えて発泡テストを行っていました。この作業は労力と時間がかかります。発泡付き加硫試験機を用いれば大幅に負担を減らすことが可能です。また、製造工程の管理に用いればスポンジ製品の品質安定に役立ちます。
 J. S. Dick氏とR. A. Annicelli氏は、発泡付き加硫試験機MDR-Pを用いて発泡剤と発泡活性剤、加硫系の配合について検討を加え貴重な結果を得ています4)。ポリマーダイジェスト誌2001年12号に翻訳が掲載されているので、発泡ゴムに携わる技術者はお読みになることを薦めます。

2.粘弾性について
 近代的な加硫試験機は密閉型ローターレスねじり振動方式が採用されています。通常駆動側ダイに100cpm、±1゜または±0.5゜のねじり振動を与え、相手側ダイに伝わるトルクを検出しPCで記録解析しています。
 加硫していないゴムは塑性が大きく軟らかいので加硫トルクは小さく、加硫するにしたがってゴムは硬くなり弾性が増加して塑性が減少する結果、加硫トルクが大きくなります。この加硫トルクは弾性と塑性が複合されているので複素弾性トルクと呼ばれます。
 PCを装備したキュアメーターはPCによって加硫トルクを弾性トルク(Ḿ)と粘性トルク(Ḿ́)に分離します。複素弾性トルクはM*で表されます。
(iは虚数項を表す)
 駆動側ダイに正弦波(サインカーブ)の振動を与え、検出側ダイに伝わる振動はやはりサインカーブとなり、Ḿ、Ḿ́もサインカーブですがḾとḾ́は位相が90゜ずれています。サインカーブなので位相により+の値と-の値をとり、不便なので

により絶対値にします。
Ḿ、Ḿ́の値は配合で変化するだけでなく加硫の進行に伴って変化することにより絶対値ではなくその比である

で表現することが多く行われます。
 tanδはタイヤの発熱性やスリップ性、防振ゴムの振動吸収など動的特性と深く関わる特性です。
 一般に未加硫ゴムはtanδ≒1、加硫ゴムはtanδ≒0.1程度の値をとります。
 ムーニー粘度計によるムーニー緩和がゴム加工性のパラメーターであるように、加硫曲線の粘性トルクḾ́も加工性との関連が示されています。
 図4はCIS含量の異なる2種類のポリイソプレンを比較したとき、弾性トルクḾの曲線はほとんど同じであるのに粘性トルクḾ́は大きく異なっているので、加硫開始までの挙動、例えば射出成型時のゴムの流動性に差があることが予想されます。

3.超低粘度ゴムの加硫試験
 シーラント・タイヤ、セルフリペアリング・タイヤなどと呼ばれるタイヤがあります。シーラントという特殊な材質がタイヤ内面に貼ってあり、タイヤが釘踏みしたときに空気が漏れることを防ぎます。シーラントは非常に低粘度、低硬度で通常に加硫試験しても、ほとんどトルクが上がらず加硫曲線を描くことができませんでした。しかし、近代的な加硫試験機はPCによってスケールを拡大し、加硫曲線を平滑化処理することができるため、このような超軟質材料の加硫挙動も測定することができます。
 図5に一例を示します。
 左図はトルクスケールが通常のゴムと同じ2.0N-mの場合で、ほとんどトルクが上がっていませんが、右図はトルクスケールを0.05 N-mにアップしたところ明瞭な加硫曲線が得られ、tc(10)、tc(90)の加硫パラメーターを求めることもできました。

4.微小な配合誤差の検出
 ゴムコンパウンドはポリマーにカーボンブラックをはじめ色々な配合剤を添加した混合物です。個々の配合剤の品質のバラツキ、計量のバラツキ、加工のバラツキによってコンパウンドはバラツキます。混合されたバッチは材料検査で適正な品質であることを確認しなければなりません。なかでも加硫剤、加硫促進剤のバラツキは加硫品質に非常に影響するため加硫特性を短時間で精度よく検査できる加硫試験機が重要な役割を果たします。加硫剤、加硫促進剤を混合するB練り工程において、ミキサーに付着残留したり集塵機に吸い込まれたりして加硫促進剤がロスした場合を想定し、加硫試験機の検出力の検証を行いました。
 SBR配合の加硫系としてイオウ/一次促進剤TBBS/二次促進剤DPGを使用し、DPGの配合量を0、0.3、0.5phrとしたときの加硫試験を行い、更にDPGが標準の0.3phrから1%ロス、2%ロスしたときを想定してDPG配合量を0.297phr、0.294phrとして加硫試験を行いました。
 結果を表2および図6に示します。

 上島製作所FDRで160℃にて各5回測定した結果、DPGを配合しないNo.1、多く配合したNo.5は明らかに加硫曲線が異なりましたが、-2%のNo.2、-1%のNo.3は標準のNo.4の加硫曲線に重なり、区別できませんでした。しかし統計解析するとtc(50)、tc(90)に有意差があり、FDRの検出力が極めて高いことが証明されました。

5.昇温加硫
 加硫試験機の試料の厚みは2mm程度なので試験開始後すぐにダイ温度に達して加硫が進行します。一方、ゴムは熱伝導性が低いので肉厚の製品(トラック・バス用大型タイヤ、建設車両用ジャイアントタイヤ、免振積層ゴム、大型防舷材、コンベヤベルトなど)は、表面温度は上がっても内部温度は上がらず、長時間を必要とします。内部への熱の拡散が律速となるため加硫温度を高くしてもそれほど時間は短くならず、むしろ表面のオーバーキュアーによる物性低下が問題となります。厚肉製品の加硫条件の設定はゴム技術者の悩みで、金子の加硫ノモグラフ6)や五百蔵の式7)が利用されて来ました。
 加硫条件の最終決定に際しては、試作サンプルに熱電対を埋め込んで温度測定を行い、加硫の活性化エネルギーを使って等価加硫量を計算したり、遊離イオウの分析を行ったりしています。
上島製作所FDR、東洋精機RLR-4はいずれもオプションとして、あらかじめ設定した温度プログラムに沿ってダイ温度を変更しながら加硫試験をするプログラム昇温加硫機能を持っています。プログラム昇温加硫を利用すると、内部が加硫開始する温度、時間や温度上昇に伴う加硫の進行をビジュアルに再現することができ、tc(90)に相当する最適加硫時間を知ることができるので、容易に加硫時間を設定でき、加硫短縮に役立てることができます。
 表3、図7、図8にダイ温度の設定例とそれに基づいて行った加硫グラフの例を示します。

6.アレニウスプロットと活性化エネルギー
 ゴムの加硫反応は化学反応であるため化学反応の一般式であるアレニウスの式に従います。
反応速度(アレニウスの式)(式1)
    A:定数
    E:活性化エネルギー
    R:気体定数(8.314J⁄K・mol)
    T:絶対温度(℃+273.15)

両辺の常用対数を取ると

書き直して
(式2)
E、Rは定数なので絶対温度T(℃+273.15)の逆数1⁄Tと、反応速度kの対数が直線関係になります。
実験例(1) 配合A
Diapol S900 162.00  PHR 
酸化亜鉛2種 3.00
ステアリン酸 1.00
粉末イオウ 1.75
促進剤TBBS 1.00
——————————————–
  合計 168.75
(S900 : SBR/HAF/ナフテン油=100/52/10)

加硫の活性化エネルギー
1⁄T×1000とlog tc(90)をプロットすると直線が得られます。直線の一般式 Y=a+bXにあてはめ
(式3)
で表されます。(Rは気体定数8.314J/mol・K)
直線の勾配bは
b=1⁄2.303×E⁄R
なので 
E=勾配b×2.303×R=勾配b×19.147
となります。Eは加硫反応の活性化エネルギーです。
 活性化エネルギーとは、その反応に必要な熱量をいうので、活性化エネルギーが小さければ少ない熱量で加硫反応が進行し、逆に活性化エネルギーが大きければより多くの熱量を必要とするので、加硫は遅くなります。加硫の活性化エネルギーはポリマーの反応性、加硫剤(イオウ、過酸化物)、加硫促進剤の組み合わせなどによって変化します。
配合Aについては、直線の回帰式
log tc(90)=-9.920+4.781×1⁄T
より
E=91.46kJ
となります。
 この直線上の点はすべて同じ加硫状態なため実際に測定していない温度でのtc(90)をグラフから求めることができます。実際の加硫温度を185℃とすれば、1⁄T=2.183に対応する縦軸目盛
log tc(90)=0.519
より
tc(90)185℃=3.30分
が得られます。
この直線を外挿することも可能です。
110~130℃の低温長時間加硫をキュアメーターで試験すると長時間を要し、試験効率が悪くなります。逆に200℃以上で行うUHF連続加硫を再現しようとしてもダイ温度が回復する前に加硫進行してしまいます。
このような際に、アレニウスプロットを用いれば効率的に最適加硫時間を求めることができます。図10に配合Aの125~225℃のlog tc(90)と1/Tのアレニウスプロットを示します。
170~200℃のグラフを外挿し、tc(90)125℃=123.7分、tc(90)225℃=28.7秒
が得られました。

7.活性化エネルギーと等価加硫
 昇温加硫の項であらかじめ設定した温度曲線に沿って加硫を行い、内部の加硫進行をビジュアルに見られることを紹介しましたが、大型タイヤをはじめ、厚肉製品は表面の温度は短時間に上昇しますが、内部の温度はなかなか上昇しません。このような厚肉製品の加硫条件設定は非常に難しいですが、等価加硫理論に基づいて行います。
 等価加硫理論とは基準となる加硫温度と加硫時間(例えば150℃×25分)に対して120℃の加硫効率、130℃の加硫効率、140℃の加硫効率を計算し、120℃の時間×加硫効率が基準温度の何分に相当するか(等価加硫)を算出します。これを130℃、140℃についても行い、積算した加硫量が基準となる150℃×25分と等価になるまで加硫を行うという考えです。
 実際には10℃刻みでは粗いので1℃刻み、2℃刻みで計算します。また、内部の温度はプレスから取り出してもしばらく上昇を続け、その後低下しますがその間も加硫は続くのでゴム温度が100℃以下になるまで温度測定して冷却中の加硫量も合計します。等価加硫を計算するためには、加硫効率を表す加硫係数が必要で、加硫の活性化エネルギーから計算します。

加硫係数の算出
(アレニウスの式)
    A:定数
    E:活性化エネルギー  
    R:気体定数 (8.314J⁄(K・mol))
T:絶対温度  (℃+273.15)
温度T1、T2における加硫反応速度を各々k1、k2とすると
(式4)
基準となる温度T2(例えば150℃)の加硫係数
k2を1.00とすると任意の温度T1における加硫係数k1は

(式5)
により求まります。
 加硫の活性化エネルギーはアレニウスプロットから求められる定数です。Rは気体定数です。
 実験例1の配合Aを例に挙げると、加硫の活性化エネルギーは91.46 kJでした。実験例1では150℃での加硫試験を行っていませんが、アレニウスプロットから150℃におけるtc(90)は24.1分となるので、基準となる加硫量を150℃×25分とします。このゴムコンパウンドを図11のように昇温加硫するときの加硫量を計算します。
 ただし、100℃以下での加硫は非常にわずかなので計算から除外し、100~150℃について計算します。
 式5に基づいて150℃に対する各温度の加硫係数を計算すると表5が得られます。

    
 図11のステップ①では30℃から150℃に60分間で昇温したので2℃/分でした。100℃の加硫係数は0.0307なので100℃→102℃の加硫量は、
0.0307×1分=0.0307です。これは150℃のときの0.0307分と同じ加硫量という意味です。
 同様に、
102℃→104℃  0.0359×1分=0.0359
104℃→106℃  0.0420×1分=0.0420
  –中略– 
148℃→150℃  0.8850×1分=0.8850となります。
ステップ①の合計加硫量は6.9197になります。
 次のステップ②では150℃で10分間保持したので加硫量は1.000×10=10.000、ステップ③は冷却に入り150℃から100℃まで25分間で温度低下したので、2℃/1分です。
150℃→148℃  1.0000×1分=1.0000
148℃→146℃  0.8850×1分=0.8850
  –中略–
102℃→100℃  0.0359×1分=0.0359
 ステップ③の合計加硫量は7.771になります。
 こうして得られたステップごとの等価加硫量と合計等価加硫量は表6となり、約24.7分相当ということが分かりました。

 配合Aの150℃でのtc(90)は25分なので合計した等価加硫量はtc(90)とほぼ等しく、この加硫条件の設定は妥当であることが検証されました。

おわりに
 2回にわたり、近代的な加硫試験機(キュアメーター)と発泡ゴムの発泡と加硫の同時測定、粘弾性試験機として加工性の評価、アレニウスプロットに基づく加硫の活性化エネルギー、等価加硫計算による加硫短縮などの活用事例を紹介しました。キュアメーターは高精度かつ高機能化しています。加硫試験機の役割は材料検査に止まりません。ぜひ有効に活用して欲しいと思います。
 未加硫状態から加硫状態になるまでの粘弾性の変化を連続的に測定できる装置はほかにありませんので私個人的には加工性試験機としての将来に注目しています。
本稿を書くにあたり、ゴム試験法<新版>、ゴム試験法(第3版)を参考にしました。
 また上島製作所、東洋精機製作所、JSRトレーディング、アルファテクノロジーズジャパン、エムアンドケーの各社には多大なご協力を頂きました。深く感謝申し上げます。 

参考資料

(1)‌日本ゴム協会編 ゴム試験法<新版>昭和55年11月1日日本ゴム協会発行
(2)‌日本ゴム協会編 ゴム試験法第3版 P141~P150 平成18年1月30日丸善株式会社発行
(3)‌金子秀男 応用ゴム化学12講 大成社 昭和52年 9月20日 P344
(4)‌J.S.Dick、R.A.Annicelliポリマーダイジェスト 2001.12P83「発泡ゴムの発泡・加硫バランスの測定と制御」
(5)‌アルファテクノロジーズ社ホームページ技術資料による
(6)‌金子東助 日本ゴム協会誌第31巻第8号P823(1958)「異形試料の等加硫条件」
(7)‌五百蔵弘典 日本ゴム協会誌第37巻第12号P999(1964)「SBR配合物の熱拡散率とその厚板加硫について」

【著者紹介】
蓮見正武
蓮見-RCT代表
1944年生神奈川県在住。1967年慶応大学工学部卒横浜ゴム入社。1997年退社し、㈱ケースリー、㈱ニシヤマ、相洋ゴム㈱を経て2011年蓮見-RCT開設。
専門はゴム配合と精練加工。[/hidepost]

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