*この記事はゴム・プラスチックの技術専門季刊誌「ポリマーTECH」に掲載されました。
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特集1 多用化するエラストマーの用途展開と特徴
オレフィン系熱可塑性エラストマー(TPV)市場とElastron TPVの新規参入
エラストマーソリューションズカンパニー代表 柳澤秀樹
1.はじめに~TPEとは
熱可塑性エラストマー(TPE)はプラスチックスと同様の成形加工ができ(加熱して溶融させ、冷却固化で製品が完成)、成形された製品はゴムのような柔軟な特徴を示す。TPEは溶融するハードセグメントと柔軟性を有するソフトセグメントから構成され、各構成成分の種類によって多岐に分類される(図1)。
◦配合、計量等の作業がない
◦サイクルタイムが短く、後工程が少ない
◦低エネルギー消費量(架橋工程の省略)
◦着色が容易(カラーマスターバッチの使用も可能)
◦各種プラスチックへのオーバーモールドが可能(デザインの自由度が広がる)
◦ 100%リサイクル可能
2.TPE市場
TPEの生産、出荷等の統計資料がないため(TPUを除く)、正確なところは不明であるが市場調査会社によれば世界市場で約400万MT、日本市場は30~40万MTで世界市場の約10%を占めているといえる。国内市場の内訳としてはTPSが最も多く30%、TPV/TPOは35%、TPVCは15%、TPUが5%その他15%と推定される。
3.TPV
オレフィン系熱可塑性エラストマー(TPO)は自動車用機能部品から日用品まで用途は多岐に渡るが、ポリマーの構成成分は他のTPE同様に熱可塑性成分とゴム弾性成分からなり、両成分を重合もしくはブレンドにて製造される。本稿ではブレンド系に関して含有されているゴム成分の架橋の度合いによってさらにs-TPO(非架橋、単純ブレンド)、架橋系のp-TPVとf-TPVに細分化する。架橋系は架橋率がゲル分で60~75%程の部分架橋系またはp-TPV、架橋率がゲル分でほぼ100%近い完全架橋系或いはf-TPVと表記する。現在の製造法は動的架橋法と呼ばれるプラスチックとゴムのブレンド並びに架橋が同一押出し機内で連続して行われるが、過酸化物架橋ではPPの分解を伴うため架橋度を上げるには限界があり、さらに架橋度を上げるためには架橋剤として過酸化物ではなくフェノール樹脂を用いる方法が一般的である。図2に架橋度の違いによる一般物性の特徴の傾向を示す。
4.f-TPVとp-TPVの特徴
図3にTPVとプラスチックスの硬度と軟化点の関係を示す。一般に高硬度TPVグレードはPP成分が多く、軟質グレードにはEPDMゴム成分が多い。f-TPVはゴム成分の含有量に拘わらず軟化点はほぼPPの融点に近く、p-TPVはPP成分の少ない軟質系では軟化点が低くなる。この理由はp-TPVは製造中に過酸化物を使用するため、PPの分子量低下が生じるのに対し、f-TPVはフェノール樹脂を架橋剤に用いる為PPの分子量低下が生じないためと考えられる。結果としてp-TPVは流動性が優位な、f-TPVは物性が優位な特徴を持つTPVといえる。自動車用途の場合はp-TPVは表皮材、内装品中心、f-TPVは耐熱、圧縮ひずみ特性、耐油性を要求される機構部品が多い。
この度、TPEのグローバルサプライヤーであるElastron Kimya A.S(エラストロン キミヤ社)から日本マーケットに進出したので、本稿でその主商品である「Elastron TPV」の概要を紹介する。
5.Elastron Kimya A.Sとは
Elastron Kimya A.S(以下エラストロン社)は、本社がトルコ共和国 イスタンブールにあり、1980年以来、2大汎用TPE(TPO/TPV, TPS)の開発から製造、マーケティングまでの一貫性ある活動を行っているエラストマーのスペシャリストである。
約40年近い製造実績があり、現在約50カ国への輸出を行い、大手自動車メーカー