*この記事はゴム・プラスチックの技術専門季刊誌「ポリマーTECH」に掲載されました。
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シリーズ連載① ポリマーの接着と分析講座
No.6 接着分析に用いる分析手法②
ジャパン・リサーチ・ラボ代表 奥村治樹
前回は接着解析を行っていくにあたって必要不可欠となる分表面分析手法の代表であるXPSについて解説した。今回は、接着メカニズム解析などで必要不可欠となる化学構造、官能基情報を得るための代表的手法である赤外分光法について解説していく。
1.1. フーリエ赤外分光法(FT-IR)
物質に赤外線を照射すると、図1に模式的に示すように、それを構成している分子(振動)が光のエネルギーを吸収する。この吸収は、分子構造の振動あるいは回転の状態が変化することに起因する。したがって、ある物質を透過(あるいはある物質で反射)させた赤外線は、照射した赤外線よりも吸収されたエネルギー分だけ弱いものとなっている。この差を検出することで、分子に吸収されたエネルギー、言い換えれば対象分子の振動・回転の励起に必要なエネルギーを知ることができ、これによって定性分析(化学構造解析)が可能となるのがフーリエ変換赤外分光法(FT-IR:Fourier Transform Infrared Spectroscopy)である。
赤外吸収の源は前述のように分子振動であるが、この振動モードは大きくは図2に示すように伸縮振動と変角振動に分けることができる。光の吸収は、正確には分子振動によって誘発される電気双極子モーメントとの相互作用によるものであり、官能基のような特定の原子団において局在化した振動と光の相互作用によって生じる。このことから、FT-IRにおいて主に観察される構造が官能基となる。
このような原理からFT-IRは極めて化学構造、特に官能基に敏感な分析手法であり、例えば表1にほんの一例を示すが、このように多くの化学構造を判別することができる。1700cm-1付近およびOH基に帰属される3400cm-1付近にピークが認められる場合にはカルボン酸の存在が示唆される。ただし、3400cm-1付近のピークについては吸着水によるものである可能性も考えられるので注意が必要である。これに対して、カルボニル基由来のピークが高波数シフトして1720~1740cm-1付近に見られ、3400cm-1付近にピークが無い場合にはエステル構造の存在が示唆される。さらに高波数シフトして1780cm-1を超えるような場合には、ラクトン環のような環状エステルやイミド環のような構造の存在が考えられる。このように、カルボニル基ひとつについても、詳細にその化学構造を解析できるのがFT-IRの特徴と言える。
このようにFT-IRは化学構造に極めて敏感であることから、古くから数多くの研究者が様々な材料の化学構造解析に用いてきた。しかし、一方でその解析は容易なものでないという側面もある。これは、FT-IRが構造敏感であるために、スペクトルが複雑になってしまうことによる。
FT-IRのスペクトルを決める基本原理として、以下のようなLambert-Beerの法則がある。
A=αLC
A:吸光度、α:吸収係数、L:光路長、C:濃度
FT-IRはこの原理によって定量性の議論が可能となっている。
接着の解析においては、第1講でも述べた通り表面、界面現象であることから、一般的には全反射法(ATR:Attenuated Total Reflection)が用いられる。ATR法は、図3に示すような光の全反射現象における染み出し電場(エバネッセント波)を利用した測定法であり、一般には表面分析法の一種として利用