*この記事はゴム・プラスチックの技術専門季刊誌「ポリマーTECH」に掲載されました。
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シリーズ連載① ポリマーの接着と分析講座
No.8 接着分析に用いる分析手法④
ジャパン・リサーチ・ラボ代表 奥村治樹
接着分析で用いる表面分析の代表としてXPSやFTIRなどの構造解析手法について紹介したが、今回は接着状態の観察に欠かすことができない走査型電子顕微鏡について紹介する。接着の解析では、構造解析も重要であるがそれだけで議論することはできず、実際の現象としての接着状態との相関を考える必要がある。すなわち、どのような構造が接着に関与しているのかということを明らかにして初めて接着のメカニズム解明や制御につなげることができる。接着状態の観察は大きく二つに分類され、剥離強度を用いる方法と断面観察などによって接着状態を観察する方法がある。この中で後者の断面観察による接着受胎の分析で有効となるのが、今回紹介する走査型電子顕微鏡である。
1.1.走査型電子顕微鏡(SEM)
走査型電子顕微鏡(SEM:Scanning Electron Microscope)は広く普及した微小部観察手法の代表であることは言うまでもない。SEMは、図1に示すような構成の装置を用いて観察し、電子線を電場レンズによって細く絞りながら、試料表面上を走査させて、表面から発生する二次電子や反射電子を検出して試料表面の顕微鏡像を得る。そして、二次電子や反射電子と同時に放出される特性X線を利用して元素分析を行うことも可能である(SEM-EDX)。
特徴は、高い空間分解能は言うまでもなく、それらに加えて、光学顕微鏡と比較して焦点深度が二桁以上深いことから、広い範囲にわたってピントの合った像を得ることができる点が挙げられる。しかし、対象物の表面形状は把握しやすいが、対象物の内部に関する情報は基本的に得られない。ただし、切断や研磨、破断などの方法で断面を出すことで内部観察も可能である。
この深い焦点深度を利用する方法として、対物絞りや試料距離の調整がある(図2)。一般的な装置には、対物レンズ内あるいは対物レンズの上部に固定または可動型の絞りが取り付けられており、使用者が絞り径を選択することができる。絞り径を小さくすることは、試料に照射する電子線の一部をカットしてしまうことになるが、電子線の形状はよりシャープになり、大きな焦点深度が得られる。
さらに、対物レンズと試料間の距離(ワーキングディスタンス:WD)とを大きくして小さな絞り径を使用すると、図3に示すように照射電子線はさらにシャープなものとなり極めて大きな焦点深度が得られる。ただし対物レンズから試料面の距離が大きくなることは分解能の低下を伴うので注意が必要である。
通常、SEM観察においては電子線照射によって試料表面で発生した二次電子を検出するが、