*この記事はゴム・プラスチックの技術専門季刊誌「ポリマーTECH」に掲載されました。
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シリーズ連載② 現場に役立つゴムの試験機入門講座
第8回 JIS K6250による試験室の標準条件について
蓮見―RCT代表 蓮見正武
はじめに
ゴムの性質は温度によって変化します。前田明夫氏による各種ポリマーの圧縮弾性率の温度依存性を図1に示します1)。
また、前田氏はヒドリンゴムの引張強さと伸びの温度依存性について、図2を報告しています。
ゴムの試験は一定の環境条件で行わなければなりません。加硫ゴムの試験環境(試験室の温度、湿度)についてはJIS K6301「加硫ゴム物理試験方法」に規定されていましたが、1998年に廃止されJIS K6250に引き継がれました。JIS K6250は1993年に制定され何度か改正されましたが、2019年に13年ぶりに7回目の改定が行われました。
今回はゴムの試験における環境条件を中心にJISの変遷を紐解きます。
1.JIS K6301「加硫ゴム物理試験方法」の変遷
JIS K6301-1950
2章 試験の一般条件
3. 試験は別に規定がない限り20~32℃の室温中で行い試験成績には試験温度を記載しなければならない。試験片は少なくとも1時間以上この室温中におかなければならない。
4. 試験に供する資料(原文のまま)は加硫後24時間以上経過したものでなければならない。
JIS K6301-1950はゴムの物理試験法の最初に作られたJISで、硬さと引張試験のみの僅か5ページですが、試験温度を20~32℃と規定しています。
戦後の混乱期で天然ゴムが殆どの時代にいち早くJISを制定し、試験室の環境と試料の状態調節の重要性を認識して規定した先人に敬服します。
試験室温度の上限を32℃とした根拠は不明ですが、90゜Fなのかも知れません。
エアコンはおろか扇風機も珍しい時代に夏場32℃を守ることは難しかったであろうと思われます。
JIS K6301-1958
2 試験の一般条件
2.1 試験室の標準状態 試験室の温度は別規定がない限り20 +10 0℃とし、試験成績には試験温度を記載しなければならない。
2.2 試料の標準状態 試料は加硫後24時間以上経過したものであって試験前1時間以上標準状態の室温中に置くことを原則とする。
解説
2 試験の一般条件 試験室の温度は20±2℃が望ましいが、日本のゴム工場においてこの規格を適用することは困難であるから20+10 0℃とした。
1958年の改正で試験室の温度は20+10 0℃となりましたが、解説に「20±2℃が望ましいが困難だから20+10 0℃とした」と書かれており、JIS委員会で議論されたことが窺えます。
1958年の改正では、引張試験を200mm/分から500mm/分とし、3号ダンベル5本の平均値から3号ダンベル4本の加重平均値(モード法)とする変更も行われ、JIS委員会(委員長飛石大二氏)の苦労が察せられます。
JIS K6301-1962
2 試験の一般条件
2.1 試験室の標準状態 試験室の温度は原則として20+10 0degとし、試験成績には試験温度を記録しなければならない。
2.2 試料の標準状態 試料は原則として、加硫後24時間以上経過したものであって、試験前1時間以上標準状態の室温中に置かなければならない。
試験室の標準状態は「原則として」20+10 0℃と規定され、1969版、1971版、1975版、1995版も同じ文章が踏襲されました。
1995年の改正に先立ち、1993年にISOに整合を図った新JIS体系が制定され、JIS K6250:1993に試験室の環境条件が規定されました。
JIS K6301が1998年8月20日に廃止されるまでの5年間はJIS K6301とJIS K6250が併存し、試験室の温度に関してJIS K6301の20+10 0℃とJIS K6250の23±2℃が両方とも有効というねじれ現象が起こりました。
2.JIS K6250「ゴム物理試験法通則」の変遷
制定 1993/02/01
改正 1996/03/01
改正 1997/04/20
改正 1998/12/20
改正 1999/08/20
改正 2001/11/20
改正 2006/12/20
改正 2019/06/20
JIS K6301はゴムの物理試験の総合規格として永らく使われましたがISOと整合のため個別の規格に分解され、