東レリサーチセンターは8月31日、堀場製作所の協力のもと、現在の光学限界を超えた空間分解能を持つ実用的な走査型近接場ラマン分光装置を開発したと発表した。同装置を用いることにより、パワー半導体上の局所部における応力歪み解析が、世界初、約100ナノメートルの空間分解能で行うことが可能となった。
ラマン分光法とは、レーザー光を試料に絞り込んだ時に発生する散乱光をスペクトルとして検出し、試料の組成や歪み、結晶性などの様々な化学的な情報を抽出する分析手法で、試料表面・内部を非破壊かつ前処理なしで測定が可能なことから、材料科学をはじめ幅広い分野で利用されている。特に半導体の分野においては、異種材料接合部にかかった応力や結晶の不均一性などの評価において高い有効性が認められ、現在では不可欠な解析手法の一つとなっている。
今回、同社では、堀場製作所の協力のもと、(深)紫外355nmレーザーを用い、測定深さが5nm以下で、安定動作が可能な新規近接場ラマン分光装置の開発に成功した。近接場光の発生源である近接場プローブも新規に開発し、NEDOプロジェクトで開発した装置よりも空間分解能やS/N比を向上させ、水平・垂直方向ともに約100nmの空間分解能が安定して得られることを確認した。今後、EV用に急速な需要が見込まれるシリコン(Si)系および炭化シリコン(SiC)パワー半導体デバイスにとって重要な劣化や耐久性の課題になっている、半導体とゲート酸化膜(電極)界面やトレンチ構造界面に発生する局所応力を高精度で測定する分析技術の開発に世界で初めて成功した。
装置は、原理的には従来の顕微ラマン分光装置で測定可能なすべての材料に適用できる可能性があり、Si、SiC、Ga2O3半導体やダイヤモンドなどの次世代パワー半導体以外にも樹脂成型品や炭素材料、セラミックスなどの局所構造解析に有効であると考えられる。今後同社は、近接場プローブの開発で更なる空間分解能向上を目指すと共に、パワー半導体だけでなく、高分子材料やライフサイエンス分野を中心に同装置の対象材料を拡大し、材料開発の更なるスピードアップに貢献していきたいとしている。