企業特集 十川ゴム 高生産性体制の構築を目指す

2021年10月25日

ゴムタイムス社

省力化、効率化に向けた投資を推進 デジタルツール活用で業務を効率化

 「新型コロナウイルスによる影響は一時期に比べて軽減されているものの、本格的な回復には至っていない」と語る十川ゴムの十川利男社長。国内・海外の生産拠点の状況や今期の見通しなどについて十川社長に聞いた。

 ◆前期を振り返って。
 新型コロナウイルスの感染拡大が第1波、第2波、第3波と幾度となく押し寄せるなかで、景気が持ち直したかと思ったらまた下がるという状況が続いた。当社の前期(20年度)を見ても、第3四半期以降いったん持ち直したが、GoTo事業の一時停止や半導体供給不安などもあり、第4四半期は落ち込んだ。こうした厳しい経営環境のもと、売上高は前期比10%程度減となり、減収減益であった。

 ◆国内生産拠点の現況。
 国内は自動車生産が一進一退するなかで、当社の国内生産拠点の受注量はコロナ発生前の一昨年に比べると低調といえる。
 またコロナ禍の中、設備投資については抑え気味であるが、今後、市況が回復した時の需要増加に対応するべく省力化、効率化を進め、いかに生産性の高い体制を構築するかが課題であろう。

 ◆海外拠点の状況。
 日本国内に比べるとコロナの影響を大きく受けることなく、中国浙江省にある紹興十川橡胶は好調に推移しており、前期の20年度(1~12月)の売上は前年度比9・3%増となった。ただ、利益は原材料価格上昇や人件費などのコスト負担が膨らみ、税引前利益は同13%減だった。
 分野別にみると、金型成形品の売上は、日本向け、中国国内やアセアン向けはいずれも下回ったものの、中国国内で消費する建機向けのホースアッセンブリの売上は約30%増と大きく伸長した。なお、日本向けの金型成形品の売上は持ち直しており、今期上期の紹興十川橡胶の売上は10%程度の伸びで進捗している。

 ◆価格改定の進捗状況。
 ゴムだけでなく、樹脂や金属、そして物流費など生産に関わるすべてのコストが増加し、自社努力で吸収できるほどの環境にはない。製品を安定的に供給するためにも、原材料メーカーからの価格アップを飲まざるを得ないのが実情だ。それでもなおタイトな状況が続いている。
 そうした観点から、今回は製品全般で価格改定を実施した。汎用品はすでに主要なお客様に価格交渉を完了した。個別ユーザー向けにも例外を設けることなく、価格交渉をしている。

 ◆コロナ収束後を見据えた働き方について。
 管理部門や営業部門では、ノートPCなど様々なデジタルツールなどを駆使して在宅勤務やテレワークなどを進めてきた。
 その一方で、工場については、在宅でできることがどうしても限られてしまう。ただ、工場内の事務部門では今年6~7月にかけて遠隔地からでも仕事ができるイメージを掴んでもらうよう、ノートPCを使いながら在宅勤務を実施した。これは工場のBCP対応という観点からも大切だ。今後もデジタルツールを用いて業務効率化につながることは進めたい。
 一方、改めて対面で仕事をする重要性を肌で感じたのも事実だ。コロナの感染状況をみながらになるが、どこかのタイミングで対面で仕事をする環境へ、舵を切らないといけないだろう。

 ◆今期の見通し。
 今期(21年度)はコロナによる影響は前期と比べると軽減していると思う。ここまではほぼ計画通りで推移しているが、本格的な回復までには至っていない。特に汎用品の需要の戻りは遅い感じがある。ただ、今後ワクチン接種の進展によりコロナの感染者数や重症者数が抑制されてくれば、年度後半にかけて需要は戻るのではないか。
 今期の見通しは前期比で6%程度の増収で着地したいと考えている。今期も我慢の時が続くと思うが、重要なのは来期にどれだけ戻せるか。需要が戻って来た時にすぐに対応がとれるよう、今期はしっかりと準備をしておくことが大切だと思っている。

 


 

ゴムホース
温故知新の技術開発

弾性係留策用ゴムローブ

 ゴム・樹脂ホースの21年度(4~6月)売上高は前年同期に比べ10%以上回復した。業界別では、自動車産業用の売上は前年同期比で75%増となり、コロナ前の前々期ベースに回復した。また、油圧機器・土木建築産業用は同70%増、農業・園芸産業用も30%増加したが、その他の産業用は大幅な増加とはならず、ホース全体は前々期の水準までには届かなった。

 製品展開では、これまで日の目にあたらなかった製品に着目し、その中で埋もれている同社の要素技術を生かし、今の時代にマッチした形で新たに製品化する「温故知新」の技術開発に注力する。

 その成果の一例が海上施設にゴムホースの製造技術を活用した、弾性係留索用ゴムロープがある。通常のゴムホースは、強く引っ張られるとホースが伸びて径が細くなり、金具が抜けたり、ホースが破断する。ただ、ホース内側にゴムを埋め込むことで、引っ張り強度を強くすることができる。

 弾性係留索用ゴムロープの開発では、ホース内部に埋め込むゴム材に防舷材など高い圧縮強度で求められる用途で実績のあった高弾性合成ゴムを採用した。これにより各層間を強固に接着でき、より高い引っ張り強度を確保することに成功した。また、ホースと継手との接続強度を確保するため、ニップルの挿入穴設計や加締め率を加味した検証も行った。これにより従来の弾性係留索用ゴムロープよりも2倍の強度を持つ製品を開発した。

 製品開発後、同社は顧客との協議により海上施設の係留方法の検討や改良を実施。昨年8月からはフィールドテストを進め、定期的に海上施設の状況を確認するほか、一定期間経過したゴムロープを回収し、ロープの状態や海水中のバクテリアなどから受ける影響の有無も確認している。

 脱炭素社会、エネルギー政策の転換など、ゴム業界を取り巻く環境は大きく変化する可能性がある。その中、同社は大きな波に追随するゴムロープのように、社会環境の変化に追随できる技術開発を進めることが必要と考えている。100年近い歴史や伝統に甘えることなく、さらに社会に貢献できる新製品開発を目指していく。

 


 

ゴムシート
特殊シート開発加速へ

 ゴムシート部門の21年度(21年4~7月)の需要動向は前年同期比で12~13%程度の増加で推移している。ただし、前年同期はコロナ感染が拡大し、自動車産業を始め各産業が低水準の生産時期であったことから、コロナ発生前の19年度と比べて完全回復したとはいえない状況にある。

 自動車産業用は前年を上回っているものの、半導体不足などによる自動車メーカーの減産等が影響し、19年度の水準までは回復していない。

 一方、合成ゴムや天然ゴムの汎用シートの販売は前年同期比で10~15%の増加。また、特殊シートは原材料の供給不足が続いており、販売は同10%程度の増加に留まっている。

 現在、ゴムシート部門では特殊な要求に基づいたシート製品の割合が増えている。「こうした特殊シートの依頼が増えることはシート全体の需要増加を促し、喜ばしいことだ」としつつも、「一方では材質別、硬さ別、幅別、厚み別と品種が大きく増える要因ともなっている」(同社)と指摘。在庫増加に加え、現在は原材料の高騰などの問題にも直面している。

 その中、同社では引き続き顧客の要求に応える特殊シートの開発に注力するとともに、「市場環境を見極めながら適正な製造ロット、在庫ロット、販売価格を見直し、営業展開を行っていく」(同社)としている。

 製品開発では、高導電性、放熱性、難燃性、放射線遮蔽といったより製品に機能が求められるものづくりに注力しており、顧客が要求するレベルに個別対応するケースが増加。例えば、顧客が従来塗料を用いて対応していたものを、ゴムとしての有効機能を付加するといった、これまで製造したことがなかった素材による長尺シートを開発する依頼もあるという。

 こうした依頼は製品化へのハードルは高い半面、「技術や開発スタッフが非常に前向きな姿勢で製品化に向け研究を重ねており、今後も全従業員が前向きに取り組めるテーマを積極的に手掛けたい」(同社)としている。

 下半期を含めた通期の見通しは、「ゴムシートの出荷量は4~7月と同様に前年同期比で増加基調が継続するものの、19年度ベースには若干届かない」と予測するが、「シート製品を含め7月1日出荷分より価格改定を実施したことにより、21年度通期売上高は19年度ベースまで戻ることができるとみている」(同社)としている。

 


 

健康で安心な職場づくりめざす
健康経営優良法人を取得

 十川ゴムは21年3月4日、優良な健康経営を実践している法人を顕彰する「健康経営優良法人2021」の認定を取得した。

 同社が健康経営優良法人の認定を取得したのは今回が初めてになる。

 その理由について、十川利男社長は「当社社是の精神に基づき、常々健康は幸せの条件になると話をしている」ということから、それを前進させるべく、人事総務部が中心となり健康経営優良法人の認定を取得する運びとなったという。

 また、本社や工場ではこれまでも個別に労働安全衛生活動を行っていたが、これに加え全社的な体制整備をしたことも健康経営優良法人の認定取得につながっている。

 健康経営推進の一環として、同社は新型コロナのワクチン接種を受けた従業員で副反応が出た場合に取得できる「ワクチン接種特別休暇」を導入した。

 「ワクチン接種を希望する従業員を後押しするため、ワクチン接種で副反応などが見られた場合には、通常の年次有給休暇とは別に、特別の有給休暇として接種一回につき一日のワクチン接種特別休暇を取得できるようにした。ワクチン接種当日も就業時間中の接種を可能とした」(十川社長)と話す。

 同社はこれからも従業員の安全と健康確保が企業経営の基盤であることを認識し、心身ともに健康で安心して働ける職場づくりを全員一丸で推進していく考えだ。

 


 

赤井大樹選手5位入賞
パラリンピック陸上1500m

 十川ゴム奈良工場の赤井大樹選手(22)が9月3日、東京2020パラリンピックの陸上男子1500メートル(T20)決勝に出場し、3分58秒78という記録で5位入賞を果たした。

 レース序盤から赤井選手は先頭集団で好位置をキープし、一時は2位につけてメダル圏内となった。しかし、ラスト1周で後方からきた外国人選手に抜かれ順位を下げる展開となった。赤井選手もラストスパートをかけ必死で追いすがったが、惜しくもメダルには及ばなかった。

 レース後のインタビューで赤井選手は「ラスト1周でまだまだ実力不足を感じた。スピードを磨きもっと上を目指し強くなりたい」と前を向いた。

 赤井選手が勤務する十川ゴムの奈良工場(奈良県五條市)では、十川利男社長ら関係者約20人がテレビで観戦し、固唾をのんで見守った。また、本社でも大型スクリーンを設置し応援した。レース終了後、十川社長は「一生懸命走る姿にドキドキした。出場自体が素晴らしい。わが社の誇りです」と赤井選手の健闘をたたえた。

 


 

「三方よし」を経営理念に
自分よし、相手よし、他人よし

 同社は創業時より、自己を活かし、相手を良くし、多くの第三者に益をもたらす「三方よし」の精神を経営理念とした事業活動を展開してきた。

 同社では、この「三方よし」という経営理念は、過去も、現在も、そして未来において貫して揺らぐことのない不変のものだとしている。

 「三方よし」の核となるのは『人』である。社内、社外を問わず、きめ細やかな心配りによる心通うコミュニケーションを行い、不変の想いである「人を大切に―」を実践している。

 また、経営環境が激しく変化する状況において、顧客に選ばれる存在価値のある企業であることが、永続できる大きな条件であると考えている。

 同社は今後も、顧客の需要をいち早く捉え、情報を共有化することで、スピーディーに対応する体制への変革を図っていく。

 


 

《沿革》

1925(大正14年5月)
大阪市浪速区大国町に十川ゴム製造所を創立

1929(昭和4年7月)
合名会社十川ゴム製造所を設立、大阪市西区
に営業所を開設

1943(昭和18年7月)
徳島工場新設(徳島県阿波郡阿波町)

1949(昭和24年4月)
東京支店を開設(従来出張所)

1956(昭和31年9月)
十川ゴム株式会社設立

1959(昭和34年4月)
合名会社解散し株式会社十川ゴム製造所を設立

1961(昭和36年9月)
堺工場新設(大阪府堺市上之)

1966(昭和41年4月)
日本工業ゴム株式会社設立

1967(昭和42年4月)
奈良工場新設(奈良県五條市三在町)

1970(昭和45年5月)
本社を大阪市西区立売堀1丁目に移転

1987(昭和62年3月)
北陸営業所を開設

1990(平成2年3月)
東京支社を開設(従来支店)、福岡支店を開設(従来出張所)、札幌営業所を開設(従来出張所)

1995(平成7年4月)
日本工業ゴム株式会社、十川ゴム株式会社と合併し、新商号を株式会社十川ゴムとして発足
本社を大阪市西区南堀江4丁目に移転

2000(平成12年5月)
ISO9001認証取得

2005(平成17年4月)
中国浙江省に紹興十川橡有限公司を設立

2012(平成24年11月)
ISO14001全社統合認証取得

2014(平成26年10月)
四国(徳島)、北九州(小倉)に出張所を開設

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