企業特集 十川ゴム 収益性が高い事業への集約を検討

2022年02月21日

ゴムタイムス社

売上は2019年レベルに戻す 中国紹興十川は好調が持続

十川利男社長 収益性の高い事業への集約を検討する十川ゴム。十川利男社長に昨年を振り返ってもらいながら好調な中国紹興十川橡胶の状況、今年の抱負などについて聞いた。

 ◆21年を振り返って。
 自動車産業は回復基調となったが、生産調整が発生したことで一部納入が滞った。半導体不足や東南アジア方面などからの部品調達に難を期すなどの足踏みもあり、景気は行ったり来たりという1年となった。医療関係ではコロナ禍での落ち込みが少しずつだが回復の兆しがみられた。
 当社の売上は落ち込みの大きかった2020年時と比較すると増加したが、2019年時と比較するとまだ低調な状態にある。利益面は原材料の高騰だけでなく、水道光熱費や重油、ガスなどのユーティリティコストの増加もある中、自動車生産も不透明な部分もあり、見通しを立てるのが難しい状況となっている。
 セグメント別では、ホース関係は自動車関係が落ち込んだものの全体では伸長した。一方、金型成形品では医療関係は伸長したが、住宅設備関係などは少し不調となった。ガス関係はほぼ前年並みで、船舶車両関係は前年よりやや増加した。樹脂ホース関係では住宅設備関係は不調だったが、農業園芸用は堅調に推移した。
 2020年と2021年の2年間で、2019年時の売上に戻すことを目標と掲げており、今期の売上増加見込み分と来期の目標を達成すれば、2019年時の売上に戻すことが可能となる。 

 ◆中国紹興十川橡の状況は。
 2021年度の売上は前年比117~118%と好調だ。日本向けの金型成形品も前々期の落ち込みから7%程度戻した。また、中国国内や東南アジア向けの金型成形品も30%程度増加するなど非常に好調だった。
 売上比率は発足当初は90%日本向けが占めていたが、2018年度にはは中国向けが65%、日本向けが35%と年々中国向けのウエイトが高くなってきている。そのような中、中国国内が好調に推移した結果、2021年は中国向けが80%強、日本向けが20%弱となった。
 ただ、ここ2年間程は建設機械向けなどの需要が旺盛だったが、ここにきて少し需要に陰りが見えてきており、22年度については若干の落ち込みがあると予想している。

 ◆人手不足の対策は。
 定年を迎える従業員が増えた中で、65才まで再雇用を延長していることで若干人手不足は緩和されたが、依然厳しい状況が続いている。
 そのような状況の中で、オンラインでの商談や会議などを実施し、一人当たりの生産性を高める努力をしている。営業部門だけでなく、管理部門や生産部門とのオンラインでの会議が増えてきており、移動を伴う会議が減少するなどの成果もでてきている。

 ◆22年の抱負は。
 コロナ禍で非常に舵取りが難しい上に原材料の高騰だけでなく、原材料メーカーの再編による原材料不足や材料グレードの廃止など可変要素が多いが、19年レベルの売上を目標として目指していきたい。
 効率化や省力化を進めながら、生産品目や製造方法の整理統合を視野に入れつつ、将来性・収益性が高い事業への集約も検討していく必要性も感じている。3年後の100周年に向けて、試行錯誤を続けていきたい。

 


 

■材料設計テクノロジー

X線防護衣

X線防護衣

 十川ゴムの研究開発は、「材料設計テクノロジー」「構造設計テクノロジー」「ものづくりテクノロジー」の3つのコアテクノロジーをベースに、新たなシーズを創出し、社会ニーズを獲得することで、人・社会・地球環境に貢献する製品を提供し続けている。これら3つのコアテクノロジーで創出された取り組みや成果は十川ゴムのHP「研究開発」コーナで紹介している。

 材料設計テクノロジーでは、これまで培ってきた独自の配合技術をさらに進化させた、高機能・高性能・高品質な材料を創出する材料開発に力を入れている。その一例として「放射線遮蔽材料」と「放熱ゴム」の材料設計に向けた取り組みを紹介する。

 放射線遮蔽材料は放射線遮蔽効果のあるフィラーを同社独自の配合設計を用いて、ゴムやPVC(塩化ビニル)などの樹脂に高充填させて開発した。フィラーは鉛やアンチモンを用いず、環境に配慮した遮蔽フィラーを重量で70~80%練り込むことで、遮蔽性とゴムのしなやかさを両立。さらに、シートや押出などさまざまな製品に加工できる材料としても開発した。

 なお、同材料は従来の原発向けに加え、近年はレントゲンやCTなどの医療や食品の検査機器などへ用途が徐々に広がっている。その中、昨年7月に東部ゴム商組が開催した「商品展示説明会」では、同社ブースで同材料を使った「X線防護衣」を参考出品した。これからも多様なお客様のニーズに柔軟に対応できる材料開発を進めていく。

 一方、放熱ゴムはフィラーなど独自の配合技術により熱伝導率を飛躍的に高めたことで、これまで両立が難しかった高熱伝導性と電気絶縁性を兼ね備えることに成功した。自動車のEV化や電子機器の小型化などに伴い、放熱ゴムは注目を集めている。

 具体的な用途は、パワーデバイス(電源用トランジスタ)、電子回路(PC搭載のCPU、LSI)、HEVやEVに搭載されるバッテリーなどを想定する。同社ではこれからも独自の配合技術を通じお客様の要求仕様、用途に応じた材料開発や形状設計を行っていく。

 


 

■構造設計テクノロジー

防振・制振設計

防振・制振設計

 構造設計テクノロジーでは、CADやCAE、3Dプリンターなど3Dデータをベースとしたデジタル設計技術によって、設計の最適化や信頼性の向上を図っている。その一例として「防振・制振設計」「シール機能部品のデジタルシミュレーション」を紹介する。

 防振・制振設計においては、デジタル設計技術を活用した防振材、制振材の設計開発を推進している。具体的には、3DCADで作成した設計モデルに対して、同社の材料技術で開発した特殊材料を適用することで、振動現象を想定した固有値解析や周波数応答解析を実施する。

 その際、同社の技術開発スタッフがゴムや樹脂材料が振動に対し、どのような効果をもたらすか、あるいは構造的にどのような設計をすれば目標とする防振・制振性能が得られるかをシミュレーションで把握している。「これからも最適な構造設計をお客様に提案することにより、スピーディーな試作評価で開発期間の短縮化を進めていく」(同社)方針だ。

 シール機能部品のデジタルシミュレーションにおいては、CAE解析を活用した「短納期かつ試作レスでのデジタルシミュレーション」を提案している。Oリングやパッキン、ガスケットなどのシール材は、試作する際に多大な費用と時間がかかっていたケースが多かった。一方、同社が提案するデジタルシミュレーションは、CADや材料データを活用しコンピュータ上でシール材の性能を評価ができる。すなわち、試作レスによる低コストかつ短時間での性能評価が可能な上、バリエーションに富んだ条件での評価と開発期間の短縮を実現する。

 また、材料データはシール材開発で培ってきた実績がある配合を多く持ち合わせており、「お客様の用途やコストに応じて適切かつ柔軟に材料をご提案できる」(同社)としている。
 なお、同社HPの研究開発のページでは、「当社の技術開発の進捗状況をより見やすく、より分かりやすく伝える」狙いからこれまで開発してきた研究テーマを動画にして紹介している。

 


 

■ものづくりテクノロジー

発泡押出成形事例

発泡押出成形事例

 ものづくりテクノロジーにおいて、同社は高い生産性や高品質な製品を創出できる新しい製法を研究開発することで、お客様が満足できるものづくり革新を行っている。同社HPの研究開発(ものづくりテクノロジー)では、ジョイントレス配管や軟質・硬質複合成形品、特殊シリコーン成形、金属製品の樹脂化設計などの取り組みや成果の一端を掲載。ここではその一例として「特殊シリコーン成形」を紹介する。

 シリコーンゴムは合成ゴムで唯一石油を原料としないゴム材料。高温域から低温域まで幅広い温度域で使用できる上、柔軟性、衛生性、透明性、電気絶縁性に優れるため、シリコーンゴムは多種多様な用途で使われている。同社はシリコーンゴムの押出成形、金型成形のほか、LIMS(液状シリコーンゴム射出成形システム)を始めとした液状ゴムの成形、発泡押出成形や、熱を必要としない新しい架橋方法などの研究を通じてシーズ開発を行い、多様なお客様のニーズに合致できるよう、研究開発部が日々研究・研鑽を進めている。

 このうち、新しい架橋方法に関する研究では、熱以外のエネルギーを与えることでゴムを架橋する方法を研究している。熱を与えずに架橋するため、耐熱性の低い樹脂との複合や薄肉成形しやすい形状など、これまで難しいとされてきた製品開発につなげていく。

 


 

製品価格改定を実施・4月1日納入分から

 十川ゴムはゴムシートやゴムホース、樹脂ホースも含めた各種製品について価格改定を実施すると発表した。製品価格の改定幅は10~30%程度で改定時期は4月1日納入分から実施予定。改定品目などの詳細については別途正式な案内をするとしている。
 経済環境が徐々に復調に向かう一方、原材料価格の高騰や不足、特定原材料グレードの製造中止、物流費高騰など、ものづくりを進めていくうえで大きな障害が多数発生している。
 同社は世界的な各種原材料不足に対し安定調達に注力しているものの、右肩上がりの原材料価格高騰に対応するには、特にゴムシートのように原材料費ウエイトの高い製品では原価上昇を社内で吸収することが極めて困難な状況にある。
 そのような環境下、同社は2021年7月に価格改定を実施したが、価格改定後もフッ素ゴムやシリコーンゴム、EPT、塩ビ製品などでさらに大幅な原材料価格の上昇が進んでいる。加えて、原材料メーカーおよび薬品メーカーなどの生産中止品目も多々発生してきている。早急な代替材料の検討を進めているものの、これも価格アップ要因となっている。
 今回の値上げについて同社では「ゴムシートやゴムホース、樹脂ホースも含め、前回未改定品目および大幅な価格変動があった製品について、再改定の実施をお願いさせていただく予定です」とし、「メーカーとして安定した製品提供を最優先に努めてまいります」としている。

 


 

「三方よし」を経営理念に
自分よし、相手よし、他人よし

 同社は創業時より、自己を活かし、相手を良くし、多くの第三者に益をもたらす「三方よし」の精神を経営理念とした事業活動を展開してきた。
 同社では、この「三方よし」という経営理念は、過去も、現在も、そして未来において貫して揺らぐことのない不変のものだとしている。
 「三方よし」の核となるのは『人』である。社内、社外を問わず、きめ細やかな心配りによる心通うコミュニケーションを行い、不変の想いである「人を大切に―」を実践している。
 また、経営環境が激しく変化する状況において、顧客に選ばれる存在価値のある企業であることが、永続できる大きな条件であると考えている。
 同社は今後も、顧客の需要をいち早く捉え、情報を共有化することで、スピーディーに対応する体制への変革を図っていく。

 


 

《沿革》

1925(大正14年5月)
大阪市浪速区大国町に十川ゴム製造所を創立

1929(昭和4年7月)
合名会社十川ゴム製造所を設立、大阪市西区に営業所を開設

1943(昭和18年7月)
徳島工場新設(徳島県阿波郡阿波町)

1949(昭和24年4月)
東京支店を開設(従来出張所)

1956(昭和31年9月)
十川ゴム株式会社設立

1959(昭和34年4月)
合名会社解散し株式会社十川ゴム製造所を設立

1961(昭和36年9月)
堺工場新設(大阪府堺市上之)

1966(昭和41年4月)
日本工業ゴム株式会社設立

1967(昭和42年4月)
奈良工場新設(奈良県五條市三在町)

1970(昭和45年5月)
本社を大阪市西区立売堀1丁目に移転

1987(昭和62年3月)
北陸営業所を開設

1990(平成2年3月)
東京支社を開設(従来支店)、福岡支店を開設
(従来出張所)、札幌営業所を開設(従来出張所)

1995(平成7年4月)
日本工業ゴム株式会社、十川ゴム株式会社と合併し、新商号を株式会社十川ゴムとして発足
本社を大阪市西区南堀江4丁目に移転

2000(平成12年5月)
ISO9001認証取得

2005(平成17年4月)
中国浙江省に紹興十川橡有限公司を設立

2012(平成24年11月)
ISO14001全社統合認証取得

2014(平成26年10月)
四国(徳島)、北九州(小倉)に出張所を開設

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