企業特集 十川ゴム 製品の安定供給に向けて全力を注ぐ

2022年10月25日

ゴムタイムス社

コロナ前の業績回復目指す 中国紹興十川の前期は好調

 コロナ前の業績への回復を目指す十川ゴム。十川利男社長に前期業績を振り返ってもらいつつ、海外拠点の状況や価格改定の状況、今期の見通しなどについて語ってもらった。

 ◆前期を振り返って。
 コロナの感染拡大に伴い、半導体などの部品不足による各産業の減産、各種原材料価格の高騰などの影響を受け、景気は行きつ戻りつという状況だった。このような状況下、前期(21年度)の業績においては、売上高は前年度比105・2%、経常利益も昨年を上回った。しかしこれは前期の落ち込みが大きすぎたことによるもので、19年度と比較するとはるかに及ばない状態だ。
 足元では売上利益ともにほぼ昨年同様に推移しているが、自動車産業の減産や汎用品の動きも鈍い事から不透明な状況は今後も続くと予想している。セグメント別では、ホース関係ではゴムホースは土木・建設機械産業用が大幅に増加、自動車産業用の復調などにより増収となった。樹脂ホースは、農業・園芸産業用のスプレーホースは増加したが、住宅設備産業用が減少したため全体では微増となった。ホース全体の売上高は同108・2%となった。
 ゴム工業用品類の型物製品は、ガス産業用、住宅設備産業用、医療機器産業用が好調に推移し増収となった。
 押出・成形品は、船舶・車両産業用が堅調だったが、自動車生産が減少したため全体としては微増となり、ゴム工業用品類全体の売上高は同104%となった。
 ◆海外拠点の状況。
 中国浙江省にある紹興十川橡胶の前期は好調に推移。ただ、中国のロックダウン以降は若干落ち込んでいる。
 分野別では、金型成形品の売上高は中国国内やアセアン向けは約30%以上増加、中国国内で消費する建機向けのホースアッセンブリーの売上高も約20%増と大きく伸長した。売上高比率は20年度は中国向けが80%強、日本向けが20%弱だ。
 ◆価格改定の進捗状況。
 原材料価格だけでなく、物流費など生産に関わるすべてのコストが増加し、自社努力で吸収できる状況にはない。また、調達にも多大な労力がかかっており、その過程で従来使用していた材料を入手できないケースもあり、新規の配合設計、検証にも時間とコストを要している。既に製品全般で価格改定を実施しているため、断続的に値上げを実施することは難しいと考えていたが、この状況下で製品を安定的に供給するためには、今後も値上げの実施をお願いするしかないのが実情だ。
 ◆対面でのコミュニケーションについて。
 6月から社内外において感染対策に留意しながら対面での活動を再開した。コロナ禍において、ウエブ会議などデジタル面では良い面もあったが、やはり対面でコミュニケーションをとることの重要性を感じた。良い面は残しつつ、アナログとデジタルの融合を目指していきたい。
 また、社内においてもコミュニケーションが少なくなると従業員のモチベーションの低下に繋がる。対面での打ち合わせを増やし、コミュニケーションが不足しないようにしていきたい。
 ◆今期の見通し。
 21年度と22年度の2年間で、コロナ前19年度の売上高に戻すことを目標と掲げている。今期の目標を達成すれば19年度の売上高に戻すことが可能となる。今期の売上高の見通しは前期比で6%程度の増収で着地したいと考えている。

 


 

ホース
■特殊用途製品の開発に注力

 ゴム・樹脂ホースの22年度業績(22年4~8月)は、自動車産業用は大きく落ち込んだ前年同期と比べて大幅な増収となったが、当初計画には届いていない。その一方で、住宅設備産業用を始め、油圧機器産業用や設備装置産業用、船舶・車両産業用、一般機械産業用、食品機械産業用など多くの分野で2桁増収を示しており、産業用ホース全体は好調に推移している。
 現在、ホース業界で大きな懸念材料となっている原材料を取り巻く状況は、原材料価格の高騰に留まることなく、供給不安も起きている。さらに原材料を統廃合する動きもある。このような多くの懸念材料が発生するなかで、技術スタッフが逐次代替原材料の検討をしている。ただ、原材料価格はアップ率や改定頻度ともに従来を遥かに上回る動きを見せている。
 このような環境のもと、できる限りの原価低減努力を続けているものの、「自社で吸収できない部分についてはお客様にその都度価格改定をお願いする形で進めている。ただし、原材料価格が下落した場合は販売価格を戻させていただく心づもりもある」(同社)としている。
 製品開発では、ソフトロボット産業関連向けのホース製品や特殊金具仕様のバンドレスホースに加え、近年関心を集める持続可能な開発目標に関わる製品開発も進めている。ホース製品に求められるものが刻一刻と変化するなかで、「従来の大量生産製品の開発から特殊用途製品に着目した製品開発を推し進めていく」(同社)考えだ。
 その上で、同社は1925年の創業以来、長い歴史を積み重ねるなかで「十川ゴムらしさ」を醸成してきた。例えば、従業員に技術継承や教育の機会を促進し、顧客・取引先とともに成長することを目指してきた。
 取り巻く経営環境は大きく急激に変化をみせる状況となっているが、「当社に関わる全ての関係者の情報や助言から環境を読み、自ら新たな環境を創出することで現在の厳しい環境変化を乗り越えていく」(同社)と前を見据える。

 


 

ゴムシート
■機能性付与の製品開発へ

 ゴムシート部門の22年度(22年4月~8月)の売上は微増となった。ただ、製品価格の改定効果を考慮すると、出荷量は減少傾向になっている。
 材料別では、天然ゴムは6月以降需要が悪化しているが、合成ゴムは横ばい状況にある。一方、好調な傾向を見せるのがシリコーンゴムシート・フッ素ゴムシートである。
 ただ、原材料メーカーの事業撤退に伴う合成ゴムの入手量減少や原材料価格の高騰、ユーティリティーコストの影響による製品原価の上昇、物流費上昇と重量物ゆえの引き取り拒否など、シート事業を取り巻く環境は全体的に厳しい状況が続いている。このため、「お客様にはこうした状況をご説明し、価格改定をその都度実施させていただいている」(同社)。
 現在、ゴムシート部門では、特殊な要求に基づいたシート製品の割合が増えている。こうした特殊シートの依頼が増えることはシート全体の需要増加を促す一因になる。ただ、その一方で、材質別や硬さ別、幅別、厚み別と品種が大きく増える要因ともなっている。ゴムシート市場全体が縮小傾向にあるなかで、在庫増加に加え、現在は原材料の高騰などの問題にも直面している。
 製品開発では、高導電性、放熱性、示温性、難燃性、放射線遮蔽といったより製品に機能が求められるものづくりに注力。現在は、顧客要求レベルに個別対応するケースが増えている。こうした依頼は製品化へのハードルは高い半面、技術や開発スタッフが非常に前向きな姿勢で製品化に向け研究を重ねている。
 ゴムシート事業の22年度計画は、2019年業績レベルまで戻したいと考え、販売計画もそれに基づき立案している。シート需要は少し上向き傾向にあるとみているが、まだまだ不確定な要素も多い。また、生産面では製造業としての人手不足には依然深刻なものがある。他方、設備投資についても機械メーカーの部品不足などによる設備入荷の遅れが目立ってきた。
 そのような厳しい環境下においても「お客様の依頼に基づく生産に影響が出ないようにするのはもちろん、新規テーマ開発のために必要な設備投資などについても早めの判断と立案、実施を進めるようにしている」(同社)。

 


 

東京十川ゴム、本社移転
十川ゴム直系の強み生かす

 十川ゴムの完全子会社で8月16日に本社を墨田区両国に移転した東京十川ゴム(東京都墨田区、星野武博社長)。星野社長に移転の理由や東京十川ゴムの強みを聞いた。
 ◆本社移転の理由は。
 社長に就任した16年からこの6年あまりで、社員の顔触れが大きく若返った。現在社員は私を含め6名だが、営業職として20代と30代の2名が入社した。新しい事務所で若い社員がモチベーションを高く持って働いてほしかったことも大きかった。気分一新、仕事をしたいという気持ちから移転を決めた。
 ◆東京十川ゴムの強みを挙げると。
 一番の強みは十川ゴム直系の子会社である点だ。十川ゴムからは技術的・営業的なサポートを惜しみなく受けられる。この立場をフル活用し十川ゴムと東京十川ゴムがお互いに相乗効果を生み出せるような活動をしたい。
 ◆今後の経営方針を。
 まずは社内の営業力の底上げを図りたい。
その上で、一番の強みである十川ゴムからのバックアップに対し、東京十川ゴムは情報を素早くフィードバックする。これを繰り返しながらお互いにシナジー効果を発揮できる体制にしたいと思う。

 


 

シリコーンゴム
フッ素ゴム製品を値上げ

 十川ゴムはこのほど、22年9月1日出荷分からシリコーンゴムシート、フッ素ゴムシートについて20~30%値上げするとともに、シリコーンゴムホース関係は10%値上げすると発表した。なお、これら製品の価格改定は21年以降では21年7月1日、22年4月1日に続き3回目となる。
 フッ素ゴム、シリコーンゴムの原材料価格は、22年4月1日に実施した価格改定後も高騰が継続。実施した価格改定では追い付かない状況となっている。
 特に、ゴムシートのような原材料費ウエイトの高い製品は社内のみで吸収することが難しくなっている。また、世界的な原材料不足が続いている。さらに、原材料メーカーおよび薬品メーカーなどでは生産中止となる品目も増加。これら品目に関しては代替材料の検討とお客様の承認申請作業を進めているが、こうしたことも原材料変更による原価アップの要因となっている。
 価格改定について、同社は「価格改定後すぐの再改定は、業界への影響や混乱も予想されることから慎重に検討をしてきたが、今後さらなる原材料価格改定も予想されることから、自助努力だけではとてもカバーできないという結論に至った」とした上で、「大変心苦しいことではあるものの、原材料価格上昇の一部を価格改定によりお客様にもご負担いただく決断をした」としている。
 なお、同社は「今後もゴム業界の発展に向けて努力し、皆さまの期待に添えられるよう、確かな品質の製品を安定的に提供していく」としている。

 


 

「三方よし」を経営理念に
自分よし、相手よし、他人よし

 同社は創業時より、自己を活かし、相手を良くし、多くの第三者に益をもたらす「三方よし」の精神を経営理念とした事業活動を展開してきた。
 同社では、この「三方よし」という経営理念は、過去も、現在も、そして未来において貫して揺らぐことのない不変のものだとしている。
 「三方よし」の核となるのは『人』である。社内、社外を問わず、きめ細やかな心配りによる心通うコミュニケーションを行い、不変の想いである「人を大切に―」を実践している。
 また、経営環境が激しく変化する状況において、顧客に選ばれる存在価値のある企業であることが、永続できる大きな条件であると考えている。
 同社は今後も、顧客の需要をいち早く捉え、情報を共有化することで、スピーディーに対応する体制への変革を図っていく。

 


 

《沿革》

1925(大正14年5月)
大阪市浪速区大国町に十川ゴム製造所を創立
1929(昭和4年7月)
合名会社十川ゴム製造所を設立、大阪市西区
に営業所を開設
1943(昭和18年7月)
徳島工場新設(徳島県阿波郡阿波町)
1949(昭和24年4月)
東京支店を開設(従来出張所)
1956(昭和31年9月)
十川ゴム株式会社設立
1959(昭和34年4月)
合名会社解散し株式会社十川ゴム製造所を設立
1961(昭和36年9月)
堺工場新設(大阪府堺市上之)
1966(昭和41年4月)
日本工業ゴム株式会社設立
1967(昭和42年4月)
奈良工場新設(奈良県五條市三在町)
1970(昭和45年5月)
本社を大阪市西区立売堀1丁目に移転
1987(昭和62年3月)
北陸営業所を開設
1990(平成2年3月)
東京支社を開設(従来支店)、福岡支店を開設 (従来出張所)、札幌営業所を開設(従来出張所)
1995(平成7年4月)
日本工業ゴム株式会社、十川ゴム株式会社と 合併し、新商号を株式会社十川ゴムとして発足
本社を大阪市西区南堀江4丁目に移転
2000(平成12年5月)
ISO9001認証取得
2005(平成17年4月)
中国浙江省に紹興十川橡有限公司を設立
2012(平成24年11月)
ISO14001全社統合認証取得
2014(平成26年10月)
四国(徳島)、北九州(小倉)に出張所を開設

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