ベテランのノウハウをAI化 住友ゴムとNEC

2022年11月25日

ゴムタイムス社

 住友ゴム工業と日本電気(NEC)は11月15日、両社が共同開発したタイヤ設計AIシステム「匠設計AI」に関する合同発表会をオンラインで開催した。匠設計AIは、同社で長年にわたり二輪車タイヤの開発に従事してきた原憲悟タイヤ技術本部技術企画部デジタル設計担当部長が「タイヤ開発における熟練設計者の経験とノウハウが必要な工程についてAI化できないか」とNECに相談を持ちかけたことから開発が始まった。

 AI化したのは、官能評価の解釈と改良案考案の工程。官能評価とは、実車評価で試作タイヤに乗ったテストライダーが試作タイヤの課題や感覚的なコメントを設計者に伝えることを指す。ただ、テストライダーのコメントには擬音が混じっていたり、同じ現象でもライダーによって表現が異なったりする場合もある。このため、設計者が官能評価を理解するには経験とノウハウが必要で、評価結果から改良案を導くノウハウは熟練設計者に頼ってしまうことが少なくなかったという。

 熟練設計者の高齢化が進む中、「熟練設計者のノウハウを若手設計者へ継承することが急務な状況にある」(同社)。この課題の解決策として、両社は原氏のノウハウをAIによって自動化するシステムの開発を2019年に開始。このほどAI化に成功した。

 匠設計AIは「目標台上特性値AI」と「最適仕様提示AI」で構成される。目標台上特性値AIは、匠設計者と同等のスキルを持ったAIが台上特性値の改良案を提示する。具体的には、AIに学習させるのは文章ではなく、項目化されたデータに入力したデータを学習させることで、テストライダーごとの表現のばらつきをなくした。 一方、最適仕様提示AIは、目標台上特性値AIによって提示された台上特性値を達成できる仕様をAIが提示するというもの。「これはマテリアルズ・インフォマティクスの考え方を応用した」(NEC)と話す。

 さらに、従来のAIではブラックボックス化していた熟練設計者の思考プロセスが見える化できる「グラフAI」についても搭載に向けた実証を進めている。このグラフAIが搭載されると、改良案だけでなく改良案考案に至るまでの思考過程を知ることができるため、「エンジニアの育成ツールとしての活用が可能になる」(同社)と期待する。

 同システムについては、2023年から二輪車用タイヤの開発で運用を開始し、今後は乗用車用タイヤなどの他のカテゴリーにも横展開する予定。また、最終的には材料開発などと連携したタイヤ開発AIプラットフォームの構築にも取り組む方針で「AIプラットフォームは2030年の完成を目標にしている」(同社)と語った。

匠AIのイメージ

匠AIのイメージ

グラフAIのイメージ

グラフAIのイメージ

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