組織の活力を全体で高める 部門間交流をさらに活発化
2025年に創立100周年を迎える十川ゴム。22年度業績見通しや今後の経営方針、創立100周年に向けた想いなどについて十川利男社長に聞いた。
◆22年を振り返って。
原材料価格の高騰や品不足に陥り、大変な苦労を強いられた1年だった。
原材料価格の高騰は当社の予想を遥かに超えるものとなり、品不足も原材料やグレードの廃番が多岐に渡った。原材料価格の高騰や廃番は今もまだ続いており、当社もその対応に苦慮している。
◆今期の業績見通しは。
今期(22年度)の業績は、前期後半からの良好な流れを引き継ぎ、期初は回復傾向で推移していた。ただ、分野ごとにみていくと、半導体等の部品不足による自動車減産で、自動車分野の回復は遅れ、まだら模様の状況だ。先行きの不透明感は拭えず、安心はしていない。
22年度の売上はコロナ前の19年度に戻す計画を立てている。利益については価格改定をお客様にお願いしているが、それ以上に各種コストが上昇しており、利益水準はコロナ前に戻っているとは言い難いのが実情だ。
◆中国紹興十川橡胶の現況について。
好調に推移した21年度に比べると、22年度は売上・利益とも前年同期を大きく下回る状況で推移している。
理由としては、中国政府のゼロコロナ政策により、上海だけではなく北京や大連など中国全土でロックダウンが実施され、物流や営業活動に制限がかかっているためだ。22年度の売上は前年同期比で25%減、利益についても為替影響もあり前年同期を大きく落ち込んでいる。
◆EV化対応やSDGsへの取り組みは。
EV化対応では、当社の製品群でいえば、燃料ホースなどの需要は今後減っていくことが予想される。その一方で、EV化が進むにつれて、新たな需要等、新分野・テーマも創出されている。当社でもEVに使われるゴム部品に対する引き合いは増えている。
SDGsでは、人権や経済、地球環境、健康など17の目標が定められている。当社でも世の中の動きに合わせてSDGsを意識した活動を取り入れていく。
例えば、環境面では「事業を通じ、未来へ続く地球環境への配慮を行ない、持続可能な地域社会、国家社会の形成に貢献する」という環境方針に則り、ISO14001の取得を通じて様々な取り組みを行っている。
◆23年度の経営方針は。
会社全体の活動については、部門間のコミュニケーションをより緊密で活発にし、収益が生み出せる環境にしていく。コロナ禍でこうした活動が若干停滞していた感じがあり、22年度下期からは再び活動を始めた。
具体的には、各工場間の情報交流会を開催したり、全国の営業店長が集まる会議を工場で開催した。人材育成も社内と社外の双方で自己研鑽や学びの機会を増やし、組織としての活力を会社全体で高めたい。
◆新年の抱負を。
22年を振り返り、そして23年に向けた言葉を一文字で表すと「夢」になる。当社は2025年5月に創立100周年を迎える。100周年に向かって幸せになろうという夢がある。22年に続き23年も100年の夢を達成するために躍進していく年にしたい。
■工場紹介(徳島工場)
十川ゴムの徳島工場は1943年(昭和18年)から操業を開始し、80年にわたって製造を続ける主力工場だ。同工場は徳島県阿波市阿波町にあるホース類、押出・成形製品を主に製造する製造一課と、阿波市市場町にある医療用型物を主に製造する製造二課の2工場を構え、人員は2工場合計で生産部門人員のほぼ半数にあたる約300名が勤務している。
同工場の販売先分野は、ガス産業用としてのガスコードや自動車産業用の燃料ホース、医療機器産業用の医薬用ゴム栓など各産業用に幅広い製品を提供している。製品としては、ガスコードなど我々の身近な生活の中で使用される製品や、CAEを活用したデジタルシミュレーションによる土木・建設関係設計開発製品、医療産業などに使用されるシリコーンゴムLIM成形品、自動車産業に使用される精密部品の軟質+硬質樹脂二色成形品など、1925(大正14)年の創業以来の長きにわたる歴史の中で、「お客様とともに作り上げてきた製品の原点がこの工場にはある」(同社)と語る。
近年は多発する災害に対する開発製品も多く手掛けている点も同社の特徴。その一例としてスロッシングダンパー「タンクセイバー・波平さん」がある。各地で地震により貯水タンクが破損する事故が多く発生するなか、「波平さん」は治療に多くの水を使用する病院を始め、避難場所となり飲料水確保を必要とする学校、そして多くの方々が住む集合住宅などの貯水タンクを守るという大きな使命を担うために開発した。
貯水タンクは地震の揺れによってその液面が大きく揺れることでタンク壁面を破壊する。「波平さん」をタンク内に設置することで水の動きを軽減し、貯水タンクの破損防止が可能となるため、今後予想される巨大地震から私たちの街を守ることができる。今後も同社ができることから積極的に製品の開発や研究に取り組み、安全なまちづくりに貢献していきたいと考えている。
■営業拠点紹介(東京支社)
東京地区の営業拠点は、1938年(昭和13年)現在の東京支社すぐ近くの京橋2丁目に東京出張所として開設したのが始まり。その後は現東京支社ビルを1967年(昭和42年)に完成し、現在に至る。人員はこの東京支社ビル内に21名、江東区新木場に物流倉庫を持つ。同支社は東京地区拠点として85年にわたり、歴史的に関東地区の多くの代理店に支えられ、幅広い製品を販売してきた。
同支社の販売高は全社の約30%を占め、販売先は自動車産業用を始め、船舶・車両産業用、土木・建設機械産業用、ガス産業用など多岐にわたる。同支社として一番の販売先である自動車産業は、電動(EV)化の進展によって、同社が得意とする内燃機関系の製品は今後減少することが見込まれる。一方、クリーンエネルギーの活用を見据え、EV関連製品の引き合いは増加しており、営業ではEV関連製品の開発に積極的に取り組んでいる。同社ではEV関連製品群へのチャレンジと並行して、同社が得意とする内燃機関に関する燃料系製品も古くから研究開発を続け、現在は土木・建設機械産業用としていち早くバイオディーゼル燃料に着目したホース開発に成功した実績がある。
今後も営業ではバイオディーゼル専用ホースや燃料蒸発ガス規制に対応するホースの情報収集に努めている。
同支社ではこうした歴史のある取引先に対し歴史と実績のある製品群を持って営業活動に努めている。「若手従業員も育ち、全員がコミュニケーションを図り、引き続き楽しくかつ積極的な営業活動を展開していく。」(同社)方針だ。
特殊用途製品に着目
HPで新製品情報を紹介
ゴム・樹脂ホースやゴムシート、型物、押出・成形品など多様な製品群を手掛けている十川ゴム。顧客が求める製品ニーズが刻一刻と変わるなか、顧客の細かなニーズを捉えた特殊用途製品に着目した製品開発に力を注いでいる。同社では材料設計テクノロジー、構造設計テクノロジー、ものづくりテクノロジーのコアテクノロジーをベースに開発した新製品をホームページで紹介する「新製品情報」のコーナーを開設。同コーナーでは「サニタリー用ヘルール継手付シリコーンブレードホースS」や「エコジョーズ専用ドレン排水ガイド」「ラバーエキスパンションジョイントGE1タイプ」などの特長や仕様・構造などを紹介中だ。 「ラバーエキスパンションジョイントGE1タイプ」(写真)は、あらゆる配管の伸縮と振動を吸収し、ポンプ・ブロア配管、下水処理プラント、一般工場設備配管などに使用できる。製品の特長は高い柔軟性、振動・騒音の低減、軸方向の反力が小さく、配管への取り付けが簡単など。仕様・構造は内面ゴムの材質はEPDM、補強層は合成繊維、胴部補強層は鋼線または合成繊維、外面ゴムはEPDM、フランジはSS溶融亜鉛メッキを使用。内面ゴムはEPDMのほかにCRやNBRでも製造可能。内面ゴムがNBRの場合は外面ゴムはCRで製造する。そのほか、フランジ規格はJIS10K、JIS5Kとなっている。
特殊シリコーンゴム成形
新たな架橋方法にも挑戦
シリコーンゴムは、合成ゴムで唯一石油を原料にしないゴムであり、高温域から低温域まで非常に幅広い温度域で使用できる。また、柔軟性や衛生性、透明性、電気絶縁性に優れているため、自動車産業をはじめ、半導体製造装置、医療用途など幅広い産業に使われている。
十川ゴムではシリコーンゴムの押出成形、金型成形の他、LIMS(液状シリコーン射出成形システム)を始めとした液状ゴムの成形、発泡押出成形、さらに熱を必要としない新しい架橋方法などの研究でシーズ開発を行い、多様なお客様のニーズにマッチできるよう、日々研究を進めている。 このうち、LIMSでは優れた特性を持つ液状シリコーンゴムと、それを精密・安定的に射出する成形機(写真)を組み合わせ、A/B2液の材料を装置にセットするだけで、混合から成形までのすべてを自動化できる成形加工システム。このため、通常の金型成形と比べると複雑な形状に適している上、衛生性が求められる製品の製造にも向いている。なお、同社ではLIMSのほかに、発泡押出成形、さらに熱以外のエネルギーを与えることでゴムが架橋する新規架橋方法の研究にも取り組んでおり、「これまで難しいとされてきた製品開発にもチャレンジしていく」(同社)考えだ。
「三方よし」を経営理念に
自分よし、相手よし、他人よし
同社は創業時より、自己を活かし、相手を良くし、多くの第三者に益をもたらす「三方よし」の精神を経営理念とした事業活動を展開してきた。
同社では、この「三方よし」という経営理念は、過去も、現在も、そして未来において一貫して揺らぐことのない不変のものだとしている。
「三方よし」の核となるのは『人』である。社内、社外を問わず、きめ細やかな心配りによる心通うコミュニケーションを行い、不変の想いである「人を大切に―」を実践している。
また、経営環境が激しく変化する状況において、顧客に選ばれる存在価値のある企業であることが、永続できる大きな条件であると考えている。
同社は今後も、顧客の需要をいち早く捉え、情報を共有化することで、スピーディーに対応する体制への変革を図っていく。
《沿革》
1925(大正14年5月)
大阪市浪速区大国町に十川ゴム製造所を創立
1929(昭和4年7月)
合名会社十川ゴム製造所を設立、大阪市西区
に営業所を開設
1943(昭和18年7月)
徳島工場新設(徳島県阿波郡阿波町)
1949(昭和24年4月)
東京支店を開設(従来出張所)
1956(昭和31年9月)
十川ゴム株式会社設立
1959(昭和34年4月)
合名会社解散し株式会社十川ゴム製造所を設立
1961(昭和36年9月)
堺工場新設(大阪府堺市上之)
1966(昭和41年4月)
日本工業ゴム株式会社設立
1967(昭和42年4月)
奈良工場新設(奈良県五條市三在町)
1970(昭和45年5月)
本社を大阪市西区立売堀1丁目に移転
1987(昭和62年3月)
北陸営業所を開設
1990(平成2年3月)
東京支社を開設(従来支店)、福岡支店を開設 (従来出張所)、札幌営業所を開設(従来出張所)
1995(平成7年4月)
日本工業ゴム株式会社、十川ゴム株式会社と 合併し、新商号を株式会社十川ゴムとして発足
本社を大阪市西区南堀江4丁目に移転
2000(平成12年5月)
ISO9001認証取得
2005(平成17年4月)
中国浙江省に紹興十川橡有限公司を設立
2012(平成24年11月)
ISO14001全社統合認証取得
2014(平成26年10月)
四国(徳島)、北九州(小倉)に出張所を開設
2021年(令和3年3月)
「健康経営優良法人2021」認定
2022年(令和4年4月)
「健康経営優良法人2022」認定