東レは2月27日、東レリサーチセンター(TRC)とともに、「水の運動性に着目した抗血栓性ポリマーの設計と人工腎臓の工業化」について、高分子学会「2022年度高分子学会賞(技術部門)」を受賞したと発表した。
今回の受賞では、同社のコア技術であるナノテクノロジーと計算化学、TRCの先端分析技術の融合により、水の運動性に着目した新しい抗血栓性ポリマーの設計技術を確立するとともに、当該技術を導入し、抗血栓性を向上させた人工腎臓の製品化に成功し、慢性および急性腎不全患者の生活の質(QOL)の向上に貢献したことが評価された。
血液は異物と接触すると凝固する特徴があるため、多くの医療機器には、血液が凝固しにくい抗血栓性という性質が求められている。同社は、ポリマーと相互作用する水の運動性が抗血栓性に関与するという独自仮説を立て、分子動力学シミュレーションやTRCによる中性子準弾性散乱などの先端分析を活用することで、新しい抗血栓性ポリマーの設計指針を獲得した。
医療機器の中でも、腎不全患者の透析治療に用いられる人工腎臓は、特に抗血栓性が要求されている。人工腎臓は、円筒状のケースに中空糸膜が約1万本内蔵されており、中空糸膜を介して、患者の血液から老廃物が除去される。同社では、抗血栓性を向上させるために、人工腎臓では使用実績のなかった新規ポリマーを世界で初めて採用し、慢性および急性腎不全用の各種人工腎臓の製品化に成功している。これらの製品は、従来品に比べ、膜寿命の延長や、治療後に人工腎臓に血液が残る現象(残血)の抑制などの特徴も報告されており、患者QOLの向上に貢献している。
同社は、受賞技術を適用した中空糸型透析器「トレライトNV」を2011年に販売して以来、血液透析濾過器「トレライトHDF」、「トレスルホンNV」、持続緩徐式血液濾過器「ヘモフィールSNV」に展開し、累計1億本以上が使用され、抗血栓性向上による患者QOLの向上や医療スタッフの負荷軽減について、高い評価を得ている。
同社は今後、同技術を各種医療材料に展開し、抗血栓性を高めた新たな医療機器の創出を目指していくとしている。