東レリサーチセンターは3月13日、堀場製作所の協力のもと、100ナノメートルの高い空間分解能を持つ新しい近接場ラマン顕微鏡(SNOMラマン分光装置)を開発し、次世代のパワー半導体として期待されている、炭化シリコン(SiC)製デバイスの性能に大きな影響を及ぼす残留応力について、従来比、約10倍の高い精度での分析を可能にしたと発表した。
SiCは高耐圧、低損失、高周波および高温動作を実現する優れた特性を持つため、EV(電気自動車)や高速通信、DX(デジタルトランスフォーメーション)技術の発展とカーボンニュートラル社会実現に向けて不可欠な材料と言われている。今回新たに開発した分析技術は、パワー半導体の中核を担うSiC半導体デバイスの開発を促進し、我が国の半導体産業の高度化に大きく貢献する。
同社では、近接場光を利用した新しいラマン顕微鏡である「SNOMラマン分光装置」を世界で先駆けて開発してきた。2003~2008年にNEDO(新エネルギー・産業技術総合開発機構)の支援を受けて実施した基礎研究開発の成果を基盤として、2018年には近接場光の発生効率を高めた近接場用プローブの開発に成功し、2021年には紫外レーザー光を用いた新規の光学系を構築することなどで高感度化を図り、シリコン(Si)製のモデルデバイスでの微小部・応力評価を実現した。今年度は、世界で初めて、今後のパワー半導体デバイスの中核となる、実際のSiC半導体デバイスへと応用展開し、従来を大きく上回る、高い精度での応力解析が可能となった。
同装置は、従来のラマン顕微鏡で測定可能な、あらゆる材料に適用できる可能性がある。同社は、特にカーボンニュートラル社会実現へのキーマテリアルである、パワー半導体材料(窒化ガリウム、酸化ガリウム、ダイヤモンドなど)や、カーボン新素材、環境対応プラスチックなどに重点を置き、先端分析技術の更なる適用範囲の拡大を狙っていく。
同社は、「高度な技術で社会に貢献する」という基本理念のもと、最先端の分析技術をいち早く提供し、今後もカーボンニュートラル社会の推進に貢献していくとしている。