謹んで新年のお慶びを申し上げます。二〇一〇年代は「不確実性」と「多様化」の時代といわれます。経済システム不安がグローバルの実体経済をさらに悪化させるという状態にある現在、今後は改善するのか、さらに悪化するのか、まさにそうした時代の真っただ中にいることを実感しております。
昨年は、三月一一日の東日本大震災を抜きには語ることができません。被災した方々には、重ねてお見舞いを申し上げるとともに、復興に向けた貢献をさらに続けていきたいと、改めて感じるところでございます。当社も、茨城県にある鹿島工場が稼動を停止し、三ヵ月弱にわたる復旧活動に取り組むなど、未曾有の災害において重大な経験をいたしました。工場再開後のビデオレターに写っていた鹿島工場のスタッフの笑顔を忘れることができません。
当社グループは、大震災の衝撃が強く残る昨年四月に、三ヵ年の新中期経営計画「JSR20i3」を、ほぼオリジナルの計画通りにスタートさせました。事業環境の大きな変化が予想される中、この計画を「成長への始動」と位置づけ、基盤事業である石油化学系事業とファイン事業のさらなる拡大を目指すとともに、精密材料・加工、環境・エネルギー、メディカル材料の「戦略事業」を早期に基盤事業に匹敵する事業とすることを最重点課題に掲げて取り組んでおります。
二〇一一年度の上期を振り返りますと、好調な石油化学系事業が、円高の影響を受け、かつ対面業界が低迷したファイン系事業を補った形となりました。震災の影響につきましても、自動車産業の急速な回復や自助努力により、比較的小さく抑えることができました。将来への布石として、一一月末に四日市工場で二万五〇〇〇トンのS‐SBR(溶液重合SBR)の能力増強工事が完工し、フラットパネルディスプレー関連事業では韓国において現地で顧客をサポートする研究所を建設し活動を開始しました。戦略事業分野では、韓国でタッチパネルセンサー用の透明導電膜をフィルムに成膜する設備が稼動し、グループ企業のJMエナジー(山梨県)でもリチウムイオンキャパシターの新規生産設備を拡充いたしました。
昨年は経営者のモラルが問われる事件が頻発いたしました。企業が持続的な成長を遂げるには、経営の健全性、企業活動の社会的責任を保つ仕組みが必要です。当社は、2004年に社長直轄の監査室を設け、昨年6月から監査役を含めた取締役会の構成メンバーの半数を社外から選任するなど、企業統治と内部統制の充実を図っております。また、法令を遵守し、環境や安全に配慮し、社会的に公正な行動をとることを、企業活動の大前提に据え、CSR活動に取り組んでおります。こうした仕組みに加えて、さらに重要なのは、自由闊達な中にも、個々人の高い倫理観が「規律の文化」として根付いた健全な企業風土です。当社はこうした風土を大切に育み、次々世代にまで伝えて参りたいと考えております。
二〇一二年の前半は依然として予断を許さない事業環境が続くことが予想されますが、当社グループが取り組むべき課題、達成すべき目標は不変です。なおかつ、このような時期にこそ、新分野への進出、新事業の創造、新製品による販売シェアの向上、事業の大胆な効率化が図りやすいのだと考えます。これからも経営陣、従業員が一体となり、価値の創造(Innovation)によって持続的な成長を遂げる企業を目指して参りたいと存じます。本年も何卒、倍旧のご指導ご鞭撻のほど宜しくお願い申し上げます。
2012年01月16日