東レは4月28日、同社が実施する急性呼吸窮迫症候群(ARDS)の治療に向けた医療機器開発に対し、日本政策投資銀行(DBJ)から「特定投資業務」を活用した資金面のサポートを受けることが決定したと発表した。
ARDSは、肺炎や敗血症などがきっかけとなり重症の呼吸不全をきたす病気。
現時点では直接の治療薬がなく、日本集中治療医学会等が作成したARDS診療ガイドライン2021によると、ARDSによる死亡率は25~40%と高い水準にある。新型コロナウイルス感染症においても、国立感染症研究所等の報告によると、重症例や死亡例のほとんどが肺炎からARDSを併発しており、有効な新規治療法の開発が望まれている。
同社はこれまで、敗血症治療に使用する医療機器として、細菌毒素の一つであるエンドトキシンを選択的に吸着、除去する血液浄化器である「トレミキシン」を世界に先駆けて開発しており、敗血症性ショックの症例に対して保険適用を受け、救急・救命センターやICU(集中治療室)を中心に販売している。
ARDSの治療では、重篤な炎症反応等を引き起こす原因物質であるサイトカイン(タンパク質)と活性化白血球(炎症に関与する細胞)を同時に除去することが有用であると推定される。
これらの原因物質を吸着して除去する機能を繊維に付与するには厳しい条件での化学反応が必要で、従来の技術ではこれに耐えられず繊維形状が維持できなかった。そこで、同社の革新複合紡糸技術「NANODESIGN(ナノデザイン)」を用いて、化学反応に対する安定性の高いポリマーの配置をナノスケールで制御して複合化することでこれを克服した。
2018年には、健康維持に必要な細胞やタンパク質は除去せず、サイトカインと活性化白血球を選択的に除去できる吸着体の性能を非臨床試験で確認しており、現在、これをカラムに充填して血液循環させることでARDSを治療する医療機器の開発を進めている。
同社の取り組みが、世界的にも治療法のない疾患に対する有効で革新的な治療法の実現を通じた、同社の競争力強化および、日本のライフサイエンス事業の産業競争力強化に資するものとDBJに評価され、「特定投資業務」の一類型として設置した「DBJスタートアップ・イノベーションファン」を活用した支援が決定した。
同社はこの支援を受けることで、ARDSを治療する医療機器の開発を加速する。
同社は、今後もこのような医療の充実に貢献する技術・製品開発を通じて、企業理念である「わたしたちは新しい価値の創造を通じて社会に貢献します」の具現化に取り組んでいく。
2023年05月01日