旭化成と九州大学は、マイクロプラスチックの年齢(屋外で紫外線を浴びた経過時間)を推定する手法を開発したと発表した。
旭化成基盤技術研究所と九州大学応用力学研究所磯辺篤彦教授のグループは、海洋のマイクロプラスチックが生成されるメカニズムに関する共同研究を2019年から行っている。本手法に基づく調査により、海面近くのマイクロプラスチックが1~3年程度で海底に沈降していくことが示唆された。
なお、本研究成果はエルゼビア社発行の国際学術雑誌であるMarine Pollution Bulletin誌にて、先行発表されている。
海に流出したプラスチックごみは、紫外線照射などによって劣化し、次第にマイクロプラスチックと呼ばれる微細片に破砕する。
その結果、いま世界の海洋表層には、約24兆粒のマイクロプラスチックが浮遊すると言われている。
自然には分解しづらいプラスチックであれば、今後、分解するまで数百年以上の長期にわたって漂流を続けるとも予想される。しかし、これまで、マイクロプラスチックが海を漂う本当の期間は不明だった。
プラスチックが長期にわたって浮遊を続けるとの予想がある一方で、これまでの多くの研究が、比重が海水よりも軽いポリエチレンやポリプロピレンといった素材のマイクロプラスチックが、海底から見つかったと報告している。
この事実は、海には、浮遊するマイクロプラスチックを海底にまで沈降させる働きがあることを示唆する。実際のところ、これまで、浮遊を続けるマイクロプラスチックの表面には、次第に生物膜が付着して比重を増やし沈降する可能性や、あるいは生物の死骸や珪藻類の凝集体に取り込まれて、ともに沈降する可能性が指摘されてきた。
浮遊するマイクロプラスチックの、海を漂う期間を知ることは、マイクロプラスチックの行方を知る重要な手がかりとなる。
このたび、旭化成、基盤技術研究所と九州大学応用力学研究所、磯辺篤彦教授のグループは、プラスチック(ポリエチレン)の特定波長帯での赤外線吸光強度比(カルボニル・インデックス)と、置かれていた環境の温度、そしてプラスチックが照射された紫外線強度の時間積分値(累積量)の関係式を、屋外暴露試験と加速劣化試験を繰り返すことで見出した。
そして、実際の海洋で採取したマイクロプラスチック(ポリエチレン)が受けた紫外線強度の累積量を求め、宮古島で平均的な年間紫外線強度を基準として、紫外線を浴びた経過時間(年齢)を割り出した。
宮古島はマイクロプラスチックの採取位置の中間に位置することより選んだものとなる。
その結果、北西太平洋や赤道といった外洋の海面近くで採取したマイクロプラスチックは、年齢が 1~3歳の範囲に集中していることが発見された。一方で、陸近くの日本近海から採取したものは、0~5歳と年齢にばらつきが見られた。
考察として、1~3歳の若いマイクロプラスチックしか見つからなかった事実から、海には浮遊マイクロプラスチックを、3年以内に海の表層から取り除く働きがあることがうかがえる。
また、海岸に漂着する機会の多い陸近くに海で年齢が延びる(0~5歳)事実は、この取り除く機能が海岸に漂着した時点で失われることを示唆する。これらは、先に述べたような、海の生物がマイクロプラスチックを沈降させる可能性と整合する。
マイクロプラスチックの年齢推定は、上述の通り、海でのマイクロプラスチックの行方を知る上で重要な示唆を与える。海でのマイクロプラスチックの浮遊濃度を予測するには、数年で海面近くから消えるという前提に立つことが必要となるだろう。
今後の展開として、旭化成と九州大学は、それぞれの知見を活かして今後も連携しながら、マイクロプラスチック生成メカニズムの解明により、海洋プラスチック問題の解決に寄与することを目指す。
2023年05月16日