ダイセルは8月29日、同社と大学共同利用機関法人情報・システム研究機構 統計数理研究所が、高分子合成において広く用いられる重合反応のルールを網羅的に実装した仮想高分子生成モデル「SMiPoly」を開発し、オープンソースソフトウェアとして公開したことを発表した。
このモデルに市販化合物を入力することで、原理的に合成可能な高分子を生成できる。SMiPolyと機械学習・人工知能の技術を組み合わせることで、マテリアルズインフォマティクスによる新材料探索における大きな壁となっていた合成実験のデザインに要する時間と労力を大幅に削減できる。
本成果をまとめた論文は科学雑誌「Journal of Chemical Information and Modeling」(アメリカ化学会)に掲載され、2023年8月22日に電子版が公開された。また、SMiPolyのコンセプトをイラスト化したアート作が、2023年9月11日に発刊される同誌63巻17号の表紙絵に選ばれた。
現代の日常生活や産業技術は、プラスチックやゴム、繊維、フィルムなど、様々な高分子材料に支えられている。一方で現代社会は、地球温暖化をはじめとする環境問題やエネルギー資源問題など、数々の深刻な社会問題に直面しており、豊かで持続可能な次世代社会基盤を構築していくには、これまでにない物性・機能を有する新材料を迅速かつ効率的に開発していく必要がある。このような背景の下、データサイエンスや人工知能の先進技術を材料開発に導入して研究開発や新材料創製の高効率化を図っていこうという機運が高まり、マテリアルズインフォマティクス(MI)という新学際領域に注目が集まった。
SMiPolyと機械学習・人工知能技術を組み合わせることで、MIによる新材料創製に要する時間的コストを大幅に削減できる。また、統計数理研究所の研究グループは、産学連携コンソーシアムを形成し、RadonPyという高分子物性自動計算システムを用いて、大量の仮想高分子群を包含する高分子物性オープンデータベースを開発している。この事業には、同社も参画しており、今後、同事業を通じてSMiPolyの仮想物質群の物性を明らかにしていく。
また、生成された物質群を解析することで、合成可能な高分子材料の化学的特徴を理解し、それらの到達可能な材料性能の限界点を明らかにしていく。さらに、性能限界を超えるために必要な有機合成技術を新たに創出し、次世代産業技術の礎を構築していきたいと考えている。
2023年08月30日