日揮ホールディングスと帝人は9月12日、東京大学と共同で、持続可能な繊維産業のエコシステム構築に向けた産学連携ワーキンググループ(WG)において衣服の回収に焦点を当てた調査を実施したと発表した。
このたび、その内容をまとめた2022年度の報告書を「衣服回収の実態とLCA事例調査」として発表した。
同WGは、発起人である日揮HD、帝人、東京大学に加え、衣料品の製造から回収までのサプライチェーンを構成する企業や、家政学の知見を有する大学、環境NPOなど計10社・団体が参画している。
同WGでは2022年4月に、持続可能な繊維産業に向けた課題を複数分野の視点から幅広く取り上げた2021年度の報告書を公表し、その中で繊維製品の回収スキーム構築が重要と提言していた。
このたび発表した報告書では、繊維産業のサステナブル化の課題の中でも衣服の回収に焦点を当て、回収方式やリサイクル技術の事例のほか、市町村など行政が回収した衣服の原料組成に関する調査結果に加えて、業界で初めて、ショッピングモールやファッションイベントで回収をした衣服の回収量や原料組成を含む回収衣類の傾向についても独自に調査し、その結果を掲載している。
また、国内外で報告されている衣服のLCA報告書を精査し、衣服のリユース・リサイクルにおける、回収や環境価値の定量化に向けた課題も提示している。
さらに、不要になった衣服の店頭回収に協力する消費者行動に関する考察も加えて、国内における衣服循環システムにおいてどのような回収・リサイクルスキームを構築していくべきかをまとめている。
補足資料として、回収方式の事例では、衣服回収は大きく分類すると店頭回収・イベント回収・行政回収の3種類があり、それぞれ責任所掌や回収可能な衣服の物量・品質に違いがあるため、同章でそれらの違いについて情報を整理し、各回収方式の特徴やメリット・デメリットを取り上げた。
リユース・リサイクル技術の事例では、衣服のリユース・リサイクル技術は既に複数の技術が実装しており、それぞれ受入可能な衣服や再生品が異なる。効率的に回収衣服を活用していくためには複数の手法を組み合わせる必要があるため、同章では各技術の受入可能な条件・製品や、技術的・経済的な課題について調査し、取り上げた。いずれの技術も再生品の活用や実装スキームが課題となっている。
回収実証データでは、衣服の活用を検討する際に、回収した衣服の組成は重要な要素となるため、同章でチクマによる「チクマノループ」活動の一環で回収した衣服の組成と、行政回収時の衣服の組成の調査結果を比較し、消費者から回収した衣服の組成の傾向を明らかにした。
繊維リサイクルに関するLCA報告書の事例紹介では、回収衣服を活用した際の環境負荷削減効果はLCAによって定量的に評価し比較する必要があるが、衣服のLCAは前提条件により結果が変わるため、評価方法の議論がなされている。同章では国内外の衣服リユース・リサイクルに関するLCA報告書を調査し、衣服のLCAに関する傾向や問題点を考察した。特にリユース・リサイクル技術の環境負荷削減効果の評価においては未だ協議の余地を多く残している点を提言している。
PETボトル及び繊維製品のLCA事例では、リサイクルが進んでいる製品として代表的なPETボトルのLCA事例を調査し、衣服のLCAにおける共通点や問題点を考察した。PETボトルと衣服では製品特性が異なるが、リサイクルという観点では多くの共通点があるため、先行するPETボトルリサイクルを参考に、衣服のLCA評価手法を議論していく必要があるとしている。
不要になった衣服の店頭回収にあたる消費者行動に関する考察では、店頭回収に参加した一般消費者にアンケートを行い、衣服回収時の消費者意識を調査した。衣服の回収スキームを広く普及させるためには消費者のリサイクル意識向上とリサイクルへの参画が重要となるため、消費者の意識に合った回収スキームの構築が重要になる。
2023年09月13日