売上はコロナ前に回復 ゴムホース類が好調を維持
前期はコロナ前の19年度レベルまで売上が回復した十川ゴム。昨年の業績や海外拠点、現状の課題などについて十川社長に聞いた。
◆前期を振り返って。
コロナ禍、中国国内のロックダウン等の影響を大きく受けた。さらに、ロシアによるウクライナの侵攻の長期化、大幅な円安の進行等に起因する原材料や部品価格の高騰、電気エネルギー等のユーティリティコストの増加、半導体の不足など、先行きの不透明感がぬぐい切れなかった。
このような状況下、生産の効率化などの原価低減活動を進め、お客様に理解していただき、段階的に販売価格の改定を実施した結果、前期(23年3月期)の売上高は前年度比107・2%、経常利益も微増となった。約3年かかったが、2019年度の売上まで回復できた。
◆セグメント別では。
ホース類はガス産業用、自動車産業用、設備装置産業用など多くの産業分野向けで大きく増収となった。一方、樹脂ホースは住宅設備産業用が増加したが、農業・園芸産業用が減少したため横ばい。その結果、ホース類の売上高は前期比111・1%となった。
ゴム工業用品類では、型物製品はガス産業用が微減したものの、医療機器産業用の増加により増収。押出・成形品は自動車産業用や一般機械産業用が増加したが、船舶・車両産業用が減少した。ゴムシートは増収だった。その結果、売上高は同104・3%となった。
◆足元の動向は。
今期の4~6月はほぼ計画通りに進んだが、先行き不透明感が強い。半導体の不足がいつ解消されるか、また原材料によってはまだまだ高騰する気配があり、安心できる状態ではない。今期は、ここ数年同様に見通しがつきにくい。ただ、マイナス要因は多々あるが、前向きに考え、今期は売上利益ともに前年比2%増を計画している。
◆海外拠点の状況について。
昨年3月からの中国国内のロックダウンや、不動産市況の低迷などの影響により、中国経済が一気に冷え込んだ。中国浙江省にある紹興十川橡胶の業績を分野別にみると、中国国内で消費する金型成形品は前年比約30%減、建機向けのホースアセンブリも同約35%減だった。その結果、22年度売上高は前年度比26・9%減、純利益も売上低迷が響き、同約55%減となった。23年1~6月は昨年以上に厳しい状況にあっが、7~12月は景気回復を期待している。
◆今期の経営方針は。
新しい製品の開発も重要だ。液状シリコーンゴムを使用する3Dプリンタを導入したことで、開発スピードをアップできる。現在、食品・医療機器産業向けの引き合いも増えているので伸ばしていきたい。またコロナが5類移行したため、対面でのコミュニケーションを積極的に図りたい。
◆現状課題や設備投資は。
前期から課題のひとつに、原材料や薬品の改廃による配合の検討がある。また、人手不足も喫緊の課題だ。人手不足に対応するため、今までの製造方法も見直す必要も出てくるだろう。人材雇用や人材定着を含め、人への投資にさらに力を入れていく。
設備投資については、コロナの影響もあり停滞していたが、今期は増やしていく。設備の老朽化も含め、積極的に投資していく。人手不足のなか、省人化や自動化を進めていくことで、少しでも人手不足を解消できるように取り組んでいく。
バイオ医療分野製品にも進出
ホース事業の23年度(4~8月)売上は前年同期比では若干の減少となった。ただ、前年度上期が好調に推移したため、計画比ではほぼ予定通りとなった。
分野別に見ると、ゴムホースはガス産業用が大幅な増加を示し、下期以降も好調な流れを維持すると見ている。設備装置産業用と土木・建設機械産業用も好調に推移している。一方、油圧機器産業用は高圧ホースの荷動きが停滞している。
自動車産業用は前年同期比では落ち込んでいるものの、「下期以降は自動車メーカーの生産回復に伴って、ホースの販売も大きく復調する」(同社)と予想する。船舶・車両産業用も前年同期比を下回るが、自動車産業用と同じく下期の回復が見込まれ、通期では前年度を上回ると見ている。
樹脂ホースは前年同期比、計画比ともに下回る。農業・園芸産業用のスプレーホースは機械での散布や減農薬の広がりなど、市場環境が厳しい。住宅設備産業用も住宅部材の納期遅延などの影響を受けている。
今後の注力分野としては、半導体、食品、医療機器産業向けを挙げる。特に医療機器産業用では従来の型物製品に加え、押出チューブ製品のクリーンルーム設備も完備し、24年春ごろには医療機器向けチューブの販売を開始する予定だ。
そうしたなかで、同社はすでに経済産業省による「ワクチン生産体制強化のためのバイオ医薬品製造拠点等整備事業費補助金」にも採択された。長く薬栓で医療機器分野を手掛けてきた同社は、高品質の医療用チューブで最先端のバイオ医療にも貢献していく。
半導体関連については、シートやパッキンなどで長年の実績がある。半導体ユーザーでは、製品に求める基準がより一層厳しくなっている。同社は抽出を極めて少なく抑えたホースを開発。フィールドテストの結果を経て、ホースをPRしていく。
自動車産業用ではEV化の進展により、燃料系ホースの需要は今後漸減するとみられるが、「ホースに限らず、当社の技術力が活き、かつEVに使われる製品を開発すべく、施策検討を進めている」(同社)。
機能に応じた製品開発加速
ゴムシート事業では、合成ゴム・天然ゴムの汎用シートとともに、フッ素ゴムやシリコーンゴムなどの特殊ゴムシートを展開している。これらゴムシートは、工業用のゴムパッキンからエレクトロニクスまで幅広い用途で活用されている。
ゴムシートは原材料費のウエイトが高い製品だ。その中で、原材料メーカーからは度重なる価格改定が行われており、値上げ率はかつてないほどの高率となっている。さらに、一部品目で供給制約があるほか、製造中止が発表される原材料も多々発生している。
こうした事態に対応すべく、同社は代替原材料の検討と顧客への承認申請作業を進めてはいるものの、「これら作業が原価アップの要因にもつながっている」(同社)と指摘する。
また、原材料費だけでなく、ユーティリティコストを始め、物流費や梱包費なども高騰している。特に、重量物のゴムシートは物流業者から敬遠される事態もある。
これらさまざまなコスト上昇を要因として、同社では23年6月1日出荷分よりゴムシート、ゴムホース、樹脂ホース、押出・成形、型物など全製品を対象に10~15%の製品価格の改定を実施した。「前年度に続く値上げをお願いすることには大変心苦しく感じておりますが、製品の安定供給と事業継続のためには、価格改定をお願いせざるを得ない」(同社)と苦渋の決断となったことを明かしている。
現在、ゴムシート事業では、個別ユーザーから特殊な要求に基づいた製品の割合が増えている。「ゴムシートは中間製品であり、お客様の顔が見えない製品がほとんどだ。ただ、当社のホームページでは個別ユーザーから開発案件に関する問い合わせも多い。今後もお客様の要望に基づいた製品開発に力を入れていきたい」(同社)としている。
製品開発では、高導電性、放熱性、難燃性、放射線遮蔽などの機能を求めるものづくりに注力していく構えだ。
例えば、EV化への対応では、難燃性や絶縁性に適合するグレードの開発を進めている。
「これら機能性を求められるものは、製品化へのハードルは高い半面、技術や開発スタッフが前向きな姿勢で製品化に向けた研究や研鑽を重ねていく」(同社)とし、これからも製品開発に邁進していく。
新規設備導入を活発化 業務改革推進で営業活動強化
設備投資や業務改革に乗り出している十川ゴム。設備投資では、軟質硬質二色樹脂成形設備の増設や、液状シリコーンLIM成形設備の増設を実施するなど、新規用途の創出に向けた設備投資を積極化している。
しかし、これまで続けてきた開発案件、さらに生産品目も多岐にわたり、開発に携わる技術スタッフ不足が顕在してきている上、新規設備の導入に伴う設置場所や人員不足など新たな問題も直面している。
これら問題を解決するために、同社では新規設備導入による製造技術の機械化に加えて、新規設備に対してAI(人工知能)機能の組み込みなどの検討を進めている。
一方、業務改革としては、これまでの営業報告書、営業日報などのデータ共有化に加え、日計データを即時管理できるダッシュボード機能が付いたアプリを導入し、今年10月1日より運用を開始している。
同アプリを導入したことで、現状把握に必要なデータを一つの画面で確認でき、社内の様々なデータを一元的に把握できる。
また、視覚的に示すことで、正確な現状分析に基づいた素早い判断をし、各営業店長や各担当者自身も逐次データを掴み、営業活動につなげていけると期待している。
3年連続で取得・健康経営優良法人
同社は23年3月30日、優良な健康経営を実践する法人を顕彰する「健康経営優良法人2023(大規模法人部門)」に認定されたと発表した。健康優良法人の認定取得は2021年から3年連続となった。
十川利男社長は常日頃より従業員に対して「当社社是の精神に基づき、健康は幸せの条件の一つになる」と話している。従業員への健康保持増進策を進めるためにも継続して「健康経営優良法人」の取得を目指している。高ストレス者の発見、対応をスピードアップするため新しく健康管理システムを導入した。システム上でストレスチェックを受検することにより、従業員がストレス状態をすぐに確認できるようになった。また、ストレスチェック結果は健康管理担当者もすぐに確認でき、高ストレス者に対しての産業医面談までのフローを早めることが可能となった。24年度はシステム上での受検対象を製造現場まで広めていく予定。
また、従業員の健康に対する意識向上を目的としたアプリを利用した「ウォーキングイベント」、WEBでの健康セミナー、「脳年齢チェック」「自律神経チェック」「握力測定」などの健康イベントも毎年10月に実施し、多くの従業員が参加している。男性が多い管理職・監督職には産業医による「女性特有の健康問題」をテーマにした教育を行い、女性には男性とは違う配慮が必要だということへの理解を深めるよう努めている。
同社はこれからも従業員の安全と健康確保が企業経営の基盤であると考え、心身ともに健康で安心して働ける職場づくりを推進していく。
「三方よし」を経営理念に 自分よし、相手よし、他人よし
同社は創業時より、自己を活かし、相手を良くし、多くの第三者に益をもたらす「三方よし」の精神を経営理念とした事業活動を展開してきた。
同社では、この「三方よし」という経営理念は、過去も、現在も、そして未来において一貫して揺らぐことのない不変のものだとしている。
「三方よし」の核となるのは『人』である。社内、社外を問わず、きめ細やかな心配りによる心通うコミュニケーションを行い、不変の想いである「人を大切に―」を実践している。
また、経営環境が激しく変化する状況において、顧客に選ばれる存在価値のある企業であることが、永続できる大きな条件であると考えている。
同社は今後も、顧客の需要をいち早く捉え、情報を共有化することで、スピーディーに対応する体制への変革を図っていく。
《沿革》
1925(大正14年5月)大阪市浪速区大国町に十川ゴム製造所を創立
1929(昭和4年7月)合名会社十川ゴム製造所を設立、大阪市西区
に営業所を開設
1943(昭和18年7月)徳島工場新設(徳島県阿波郡阿波町)
1949(昭和24年4月)東京支店を開設(従来出張所)
1956(昭和31年9月)十川ゴム株式会社設立
1959(昭和34年4月)合名会社解散し株式会社十川ゴム製造所を設立
1961(昭和36年9月)堺工場新設(大阪府堺市上之)
1966(昭和41年4月)日本工業ゴム株式会社設立
1967(昭和42年4月)奈良工場新設(奈良県五條市三在町)
1970(昭和45年5月)本社を大阪市西区立売堀1丁目に移転
1987(昭和62年3月)北陸営業所を開設
1990(平成2年3月)東京支社を開設(従来支店)、福岡支店を開設
(従来出張所)、札幌営業所を開設(従来出張所)
1995(平成7年4月)日本工業ゴム株式会社、十川ゴム株式会社と
合併し、新商号を株式会社十川ゴムとして発足
本社を大阪市西区南堀江4丁目に移転
2000(平成12年5月)ISO9001認証取得
2005(平成17年4月)中国浙江省に紹興十川橡有限公司を設立
2012(平成24年11月)ISO14001全社統合認証取得
2014(平成26年10月)四国(徳島)、北九州(小倉)に出張所を開設
2023(令和5年3月)「健康優良法人2023」認定、3年連続取得