横浜ゴムは11月7日、「人とAIとの協奏」によってデジタル革新を目指すAI利活用構想「HAICoLab(ハイコラボ)」に基づき、先端計測と計算科学を組み合わせた化学反応可視化技術を開発し、タイヤ内のゴムとスチールコードの接着老化反応のメカニズムを解明した。接着老化を抑制する研究に応用することで、耐久性を大幅に高めたタイヤなどの開発が期待できる。同研究は名古屋大学唯研究室、国立研究開発法人理化学研究所、北陸先端科学技術大学院大学ダム研究室、高輝度光科学研究センターとの共同研究により実施した。同研究の論文は2023年11月6日19時(日本時間)付でオープンアクセスの科学誌「Communications Materials」に掲載されている。
ラジアルタイヤではトレッド部の剛性を高めるためスチールコードとゴムを接着してベルト状にしたスチールベルトが補強材として使用されている。この際、スチールコード表面には真ちゅうメッキが施され、ゴム内の硫黄と真ちゅう内の銅が結合することでゴムとスチールコードが接着し、この接着状態がタイヤの耐久性において極めて重要となる。今回の研究では大型放射光施設「SPring-8」の「XAFS-CT」を用い、ゴム中に真ちゅうの粒子約1000個を加えた接着モデルの老化過程を観察。1000個中802個において接着老化が起こる際の銅の拡散状態や化学反応の計測データを取得し、さらにこのデータをAI(機械学習)を使用した計算科学技術により分析したところ、ゴム中に拡散された銅の化学反応が5通りに変化することが判明した。今後はこれらの結果に基づいて接着老化反応をコントロールする技術の研究を進め、老化しにくい材料配合や新素材などの開発に活用するとともに、今回の技術を応用し放射光などの先端計測で得られたビッグデータへのAI利活用を加速していく。
なお、本研究は唯美津木(ただ・みづき)名古屋大学教授らが提唱する計測・解析プロセス「反応リマスター」の手法を用いて実現した。同手法は同社が参加している科学技術振興機構の戦略的創造研究推進事業プログラム「CREST」の「革新的計測解析」領域において研究中で、より高度なエコ材料開発への貢献を目指すものとなっている。
同社は2020年に「ハイコラボ」を策定し、人が設定する仮説に沿ったデータの生成・収集とAIによる予測・分析・探索を繰り返すことで未踏領域での知見の発見を目指している。これまでにも同構想に基づきゴムの配合物性値予測や配合設計、タイヤの特性値予測システムなどを開発しており、今後も全社的にAI利活用を推進していく。
2023年11月08日