東洋紡は11月29日、同社および東洋紡エムシーが共同で、電子材料の接着剤用途向けに、「ビトリマー(Vitrimer)」と呼ばれる新しい架橋樹脂を応用することで、溶剤フリーで常温流通(輸送・保管)を可能にした環境配慮型のポリエステル系高耐熱接着シートを新たに開発したと発表した。「ビトリマー」とは、樹脂の構造の一部に「結合交換性動的共有結合」を持つ新しい架橋樹脂。ポリマー間の架橋状態を維持しながら熱可塑性樹脂のように圧力や熱などに応答可能な「ビトリマー」の特長を応用することで、同接着シートの製品化を実現した。今後、東洋紡エムシーが電子材料メーカー向けにサンプル提供および製造販売を開始する予定。
フレキシブルプリント基板などで電子部品の接着に用いる高耐熱接着シートは、データ通信の高速化、自動車の電装・電動化やデジタルトランスフォーメーション(DX)の進展などを背景とした電子部品の搭載点数の増加や回路の高集積化に伴い、ますます需要が拡大している。近年、環境負荷低減のため、溶剤を含まない熱硬化型の接着シートの使用要請が高まっているが、常温で硬化するのを避けるために冷蔵での保管や輸送が必要となるほか、接着シートを貼り合わせた後の被着体との固定に、一定時間の加熱を伴う熱架橋処理を要するなどの課題があった。
今回、同社と東洋紡エムシー(同社グループ)が共同開発したのは、樹脂構造の一部に「結合交換性動的共有結合」を持つ「ビトリマー」と呼ばれる新しい架橋樹脂を応用した、溶剤フリーのポリエステル系高耐熱接着シート。同社は、2019年より、名古屋工業大学(名工大)と共同研究を開始。樹脂(ポリマー)間の架橋構造が維持された状態でも圧力や熱に応答して変形可能な性質を持つ架橋樹脂「ビトリマー」の設計や製造・評価に係る基礎技術を獲得し、さまざまな製品への応用可能性について検討を重ねてきた。同社グループが長年培ってきた樹脂の設計・重合というコア技術と組み合わせることで、電子材料向けの接着剤用途などで展開する同社グループの共重合ポリエステル樹脂「バイロン」にビトリマー特有の結合交換部位を導入することに成功し、常温流通可能な無溶剤シート型接着剤の開発に至った。
従来、溶剤を含まない半硬化型の接着シートは、常温環境下では徐々に架橋が進行し硬化してしまうため、輸送や保管の際に冷蔵による低温環境の維持や、接着時に完全な架橋構造を得るため、加工工程において一定時間の加熱処理を必要としている。これに対し、ビトリマーを応用した同接着シートは製造時点で既に架橋反応が完了しているため、常温環境下で架橋による硬化が進むことがない。また、短時間の加熱・加圧処理を行うだけで寸法を保持したまま電子材料を接着できるため、長時間の熱架橋処理も不要。シート状で溶剤を含まないことからVOC(揮発性有機化合物)の削減に寄与するとともに、熱架橋工程を省けることで生産工程の短縮や省エネルギー化にも貢献する。同接着シートは、2024年前半を目途に、東洋紡エムシーがサンプル提供、製造販売を開始する予定。同社グループは、今後も高機能な架橋樹脂「ビトリマー」を応用した製品の研究・開発に注力し、環境配慮型製品の提供を通じて持続可能な社会の実現に貢献できるよう努めていく。
尚、同接着シートは、11月30日から12月1日まで、名古屋国際会議場で開催される「第32回ポリマー材料フォーラム」において、ポスター発表が行われる。従来の熱硬化型接着剤や半硬化型接着シートとの比較を通じて同接着シート独自の特長などが紹介される。
2023年11月30日