創立100年に向け挑戦する年に 新規案件獲得へ設備投資を積極化
2025年に創立100周年を迎える十川ゴム。23年度業績見通しや今後の経営方針、創立100周年に向けた想いなどについて十川利男社長に聞いた。
◆昨年を振り返って。
新型コロナウイルス感染症が5類に移行したが、原材料価格の高騰、原料メーカーによる材料やグレードの統廃合による影響は未だに続いている。
さらに、環境対応による値上げや、物流2024年問題などもあり、当社においては足踏みが続いた1年となった。
分野ごとにみていくと、半導体等の部品不足による自動車減産による影響を受けていた自動車分野は関東・中部地区を中心に回復傾向にある。
一方、関西地区は家電分野が落ち込んでおり芳しくない。医療機器分野や住宅設備分野も大きくは回復していない状況にある。
◆今期の業績見通しは。
今期(23年度)の業績は、予算に対して数ポイント減少を見込んでいる。第2四半期以降に関西地区を中心とした停滞の影響を受けた。
ただ、下半期には新規受注した案件なども多く、売上は巻き返せると考えている。今年3月末まで予算の達成を目指していく考えだ。
◆中国の紹興十川橡胶の現況について。
23年12月期決算をみると、売上は前年比37%程度減少、利益面でも大幅な赤字になる見通しで、大変厳しい状況にある。
製品別では、日本向けの金型成形品は、一昨年は回復基調であったが、昨年の売上は需要減だけではなく円安も大きく影響したため、売り上げは3割近く減少した。
また、中国国内や東南アジア向けの金型成形品についても3割程度減少となった。
中国国内の建設機械用ホースは、ここ数年は需要が旺盛だったが、昨年は4割近くの減少と最も落ち込みが大きくなった。
売上比率は中国向けが70%、日本向けが30%と大きな変動はないが、不動産関連から始まる経済の落ち込みの影響が大きく、来年以降も需要が低迷すると予想している。
当社は中国国内の日本メーカーをメインとした稼働をしている。
今のところ大きく商売のやり方が変わることはない。ここ数年間は我慢の時期が続くと考えている。
◆24年度の経営方針は。
新規案件が増加してきている。設備投資が必要な場合などには積極的に投資を行い、製販一体となり製品構成を変化させていきたい。効率化や省力化を進めながら、生産品目や製造方法の見直しを視野に入れつつ、将来性・収益性が高い事業への集約も検討していく必要がある。
利益面だけではなく、顧客の事情や固有技術を有す製品など多角的な側面から判断し、ここ数年間で製品構成の整理統合を推進していく。
◆今年の抱負を。
昨年を振り返って、そして24年に向けた言葉を一文字で表すと「挑」になる。新しい設備投資をしたり、新しい製品群に挑戦したり、新しいやり方、システムに変えるチャンスの年だと考えている。
当社は2025年5月に創立100周年を迎える。今までのやり方では100年まではいけても、次の100年は乗り切れないと考えている。継続して存続していくためには、新しいことにどんどん挑戦する年にしたい。
■工場紹介(奈良工場)
奈良工場は1967年(昭和42年)4月に新設された。
同工場は奈良県五條市三在町1030番地に位置しており、24年1月1日現在164名の従業員が勤務している。敷地面積は3万8141㎡(1万1557坪)、建屋面積は1万9869㎡(6021坪)となっている。
また、2002年(平成14年)12月には徳島工場(徳島県阿波市阿波町)とともに奈良工場も環境マネジメントに関する国際規格「ISO14001」を認証取得している。
奈良工場の生産高は全工場(堺工場(大阪府堺市)、徳島工場、奈良工場)の約30%を占める。
同工場の主な生産品目としては、ディーゼル燃料用ホースや油圧ホース、自動車用燃料ホース、自動車用金型製品、ガス用ホースなどとなっており、中でも内燃機関用ホースが大きな比率を占めている点が特長となっている。
そうした中で、同工場の主力販売先である自動車分野の動向をみると、環境規制の強化や混合燃料の増加などにより、燃料透過による排ガスや内燃機関の排ガス規制への対応は年々非常に厳しさを増している。
さらに、昨今の自動車のEV(電動車)化の進展に伴ってガソリン車などに使われる内燃機関用ホースは今後需要の減少が予想される。しかし、同工場ではこれまで内燃機関の製品開発で培ってきた経験を活かし、内燃機関とは異なる分野に向けた製品開発にも注力展開している。
具体的には半導体製造や化学プラントなど耐薬品性、耐熱性に加えてクリーン性が求められる分野への製品開発に向けた動きを加速している。そうした中で、同社はこれら分野に対する製品採用を見据えた活動を推進しており、激しい事業環境の変化にも対応できる体制の構築に努めていく考えだ。
■営業拠点紹介(大阪支社)
大阪地区の販売拠点は、1931年(昭和6年)10月13日に大阪市西区新町4丁目15番地の間口5間(約9・1メートル)の店に本店を移し、この地を営業の拠点としたのが現在の大阪支社(大阪市西区南堀江4丁目2番5号)の始まりとなっている。
開設当時、社員がお揃いの法被をまとい、区域を分けて大阪中を自転車で走り回ったという。こうした社員の努力が実を結んで、以前から取引があった清涼飲料業界に向けてラムネびんの口ゴム、魔法びんのパッキング、大阪ガスのガス用ゴム管などの製品を納入するようになり、大阪支社が発展する原動力となった。
その後も家電産業関係や多くの代理店の皆さまの日ごろのご支援のおかげもあり、大阪支社の販売高は十川ゴム全社の約40%を担うまでに成長している。
現在、同社の販売先はガス産業用、土木・建設機械産業用、医療機器産業用などが主な産業分野となっている。その基幹拠点である大阪支社においては、こうした主要産業用に加え、EV(電動車)関連製品への研究開発やバイオディーゼル専用ホース開発、半導体関連ホースの開発を進めてきた。
また、最近はバイオ医薬品製造に必要な部素材であるシングルユース用TPE(Thermoplastic Elastomer、熱可塑性エラストマー)チューブの開発を始め、医療関係における新たな金型製品の開発などにも力を入れて取り組んでいる。
同社はガス産業用や土木・建設機械産業用などの分野で歴史のある取引先と、歴史と実績のある製品群を持ち営業活動を進めるとともに、現在は医療関係など新しい分野の取引先と新規分野製品の開拓にも積極的にチャレンジしていく方針を示している。
「これからも大阪支社メンバーが全員一丸となって生産、開発部門と協調しながら営業活動を展開し、目標を達成していきたい」(同社)と話す。
■バイオ医薬品拠点事業に採択
十川ゴムは23年10月17日、経済産業省が推進する「ワクチン生産体制強化のためのバイオ医薬品製造拠点等整備事業」(2次公募)に採択されたと発表した。
今回採択されたワクチン生産体制強化のためのバイオ医薬品製造拠点等整備事業は、ワクチンの国内生産体制強化のため、ワクチン製造に不可欠な製剤化・充填設備や医薬品製造に必要な部素材等の製造設備を有する拠点の整備事業を支援するもの。同事業採択に伴い、同社は医薬品製造に必要な部素材等の製造設備の整備事業として、バイオ医薬品製造に必要な部素材であるシングルユース用TPEチューブの国内生産体制を徳島工場(徳島県阿波市)で整備するとともに、ワクチンの国内生産体制強化に貢献していく。
同社は現在、半導体や食品、医療産業の需要獲得に注力展開している。特に医療機器産業分野においては、従来の型物関係に加え、押出チューブ関係でもクリーンルーム設備を完備して24年度には医療機器向けチューブの販売を開始していく予定となっている。
医療機器産業分野では医薬用ゴム栓を長く手掛けてきた。この実績を活かし、今後は高品質の医薬用チューブの提供を通じて、最先端のバイオ医療にも貢献していく。
LIM成形やダブルインジェクション成形に注力
現在、同社が力を入れる成形法は、LIM(液状シリコーンゴム射出成形品)を使った成形品、ダブルインジェクション成形機による二色成形樹脂製品を挙げる。
LIMはLiquid Injection Moldingの略で、液状の原料(2液)を混合し金型に射出成形する工法。混合から成形までをすべて自動で行えるため、工程の簡略化・短縮化を図りつつ高品質な製品の成形ができる。
特長は、①液状原料を付加反応成形するため硬化時間も早く、混合から成形までの全てを自動化でき、成形工程の大幅短縮が可能。②液状で金型に注入するため、射出圧も低く精密成形が可能。③硬化反応による副生成物がなく、ノーバリ・ランナーレス成形が可能。廃材の処理が不要で環境に配慮した製造が可能だ。
ダブルインジェクション成形機による二色成形は、硬質・軟質などの異材質、または色違いの樹脂の同時成形ができる成形法。主な特長は、①組立工数の削減によりコストダウンが可能。②手に触れる部分に柔らかな感触を持たせることが可能。③硬質樹脂に軟質を部分的に使用することで、クッション材やパッキン材の用途でも応用(クッション材の貼付工数削減)できる。
用途は自動車分野(ハッチバックドアのスイッチ部)。精密機器(カメラ部品、ゲーム機ボタン)。水栓機器など。今後もこの成形法のメリットを活用した製品を開発し、従来にはない分野への採用を進めている。
「三方よし」を経営理念に 自分よし、相手よし、他人よし
同社は創業時より、自己を活かし、相手を良くし、多くの第三者に益をもたらす「三方よし」の精神を経営理念とした事業活動を展開してきた。
同社では、この「三方よし」という経営理念は、過去も、現在も、そして未来において一貫して揺らぐことのない不変のものだとしている。
「三方よし」の核となるのは『人』である。社内、社外を問わず、きめ細やかな心配りによる心通うコミュニケーションを行い、不変の想いである「人を大切に―」を実践している。
また、経営環境が激しく変化する状況において、顧客に選ばれる存在価値のある企業であることが、永続できる大きな条件であると考えている。
同社は今後も、顧客の需要をいち早く捉え、情報を共有化することで、スピーディーに対応する体制への変革を図っていく。
《沿革》
1925(大正14年5月)大阪市浪速区大国町に十川ゴム製造所を創立
1929(昭和4年7月)合名会社十川ゴム製造所を設立、大阪市西区に営業所を開設
1943(昭和18年7月)徳島工場新設(徳島県阿波郡阿波町)
1949(昭和24年4月)東京支店を開設(従来出張所)
1956(昭和31年9月)十川ゴム株式会社設立
1959(昭和34年4月)合名会社解散し株式会社十川ゴム製造所を設立
1961(昭和36年9月)堺工場新設(大阪府堺市上之)
1966(昭和41年4月)日本工業ゴム株式会社設立
1967(昭和42年4月)奈良工場新設(奈良県五條市三在町)
1970(昭和45年5月)本社を大阪市西区立売堀1丁目に移転
1987(昭和62年3月)北陸営業所を開設
1990(平成2年3月)東京支社を開設(従来支店)、福岡支店を開設(従来出張所)、札幌営業所を開設(従来出張所)
1995(平成7年4月)日本工業ゴム株式会社、十川ゴム株式会社と合併し、新商号を株式会社十川ゴムとして発足。本社を大阪市西区南堀江4丁目に移転
2000(平成12年5月)ISO9001認証取得
2005(平成17年4月)中国浙江省に紹興十川橡有限公司を設立
2012(平成24年11月)ISO14001全社統合認証取得
2014(平成26年10月)四国(徳島)、北九州(小倉)に出張所を開設
2023(令和5年3月)「健康優良法人2023」認定、3年連続取得