産総研と東ソーが共同開発 ジエチルカーボネート合成

2024年06月11日

ゴムタイムス社

 産業技術総合研究所(産総研)触媒化学融合研究センター触媒固定化設計チーム、⼩泉博基研究員、松本和弘研究チーム⻑、ヘテロ原⼦化学チーム深⾕訓久研究チーム⻑、同研究センター崔準哲総括研究主幹らと、東ソーは6月10日、共同で、常圧・低濃度の⼆酸化炭素(CO2)から、ジエチルカーボネートを合成する触媒反応を開発したと発表した。
 ジエチルカーボネートは、ポリカーボネートやポリウレタンの原料、電解液、塗料などに使⽤する。従来のケイ素反応剤を利⽤したジエチルカーボネート合成では、⼗分な収率を実現するため、⾼純度のCO2を⽤い、さらに数MPa程度まで加圧することが必要だった。そのため、⾼圧・⾼純度のCO2を得るために⽕⼒発電所などから排出される低濃度CO2の分離、精製や圧縮する⼯程にコストとエネルギーを要するという課題があった。
 これに対し、同成果は、エタノールと有機強塩基を⽤いたCO2の化学吸着によりエチル炭酸塩を形成させる反応を組み込むことで、排ガスに含まれる体積⽐ 15%程度のCO2や常圧下でのCO2を利⽤したジエチルカーボネートの合成に成功した。
 同⼿法は、従来法では利⽤が困難であった体積⽐ 15%の常圧CO2を反応溶液に通気するだけで、反応に必要なCO2を確保でき、従来法と同程度の収率でジエチルカーボネートを得ることができる。これにより、低濃度CO2を分離するための精製や圧縮する⼯程を簡略化し、コストとエネルギーを削減できる。また、加圧設備を必要とせず CO2を資源化できるため、カーボンニュートラル社会の実現に貢献する。
 なお、この技術の詳細は、2024年6⽉7⽇に「ACS Omega」に掲載された。
 地球温暖化問題の解決と化⽯資源からの脱却を推進するため、CO2を資源として有⽤化学品へと変換するカーボンリサイクルに向けた技術開発が重要視されている。経済産業省のカーボンリサイクルロードマップでは、CO2の利⽤先として、ポリカーボネートをはじめとした化学品が例⽰されている。こうした化学品の原料となるジエチルカーボネートをCO2から合成する技術開発は、2050年の⽇本国内において CO2リサイクル量の最⼤化⽬標である約1〜2億tを達成するために必要となる。
 ジエチルカーボネートをCO2から合成する技術として、⾼圧・⾼純度のCO2の利⽤が報告されている。しかし、発電所や製造所の排ガスから⾼圧・⾼純度のCO2を得るには、分離・精製コストが必要となる。また、これまでに報告されている合成⽅法では、常圧下では収率が⼤幅に低下してしまう。さらに、低濃度CO2を直接利⽤してジエチルカーボネートを合成することは技術的に極めて困難であるため、成功例はこれまで報告されていない。
 両社は、環境負荷の低い⼿法で、ポリカーボネートやポリウレタンなどの原料であるジアルキルカーボネートを CO2から合成・製造することを⽬指している。
 これまで、⾼圧・⾼濃度のCO2と再⽣可能なケイ素反応剤であるテトラエトキシシラン(Si(OEt)4)を⽤いた合成法を開発した(2020年11⽉27⽇ 産総研プレス発表)。また、常圧・低濃度のCO2を反応に直接利⽤する技術として、CO2の化学吸着を利⽤した尿素誘導体合成法を開発した(2021年5⽉14⽇ 産総研プレス発表)。
 今回、尿素誘導体合成法のようにアルコールと有機強塩基によるCO2の化学吸着反応を利⽤することにより、従来法では困難であった常圧・低濃度のCO2とテトラエトキシシランを原料としたジエチルカーボネート合成法を開発した。
 なお、同研究開発は、国⽴研究開発法⼈ 新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)の助成事業「グリーンイノベーション基⾦事業/CO2等を⽤いたプラスチック原料製造技術開発/CO2からの機能性化学品製造技術の開発/CO2を原料とする機能性プラスチック材料の製造技術開発」(2021〜2028年度)による⽀援を受けている。
 両社は、エタノールと有機強塩基を⽤いたCO2の化学吸着反応と最適な触媒の利⽤により、常圧・低濃度のCO2と低環境負荷のケイ素反応剤であるテトラエトキシシランを原料としたジエチルカーボネート合成法の開発に⾄った。
 これまでの低環境負荷な反応剤を使⽤したジエチルカーボネート合成では、⾼濃度CO2に常圧の20倍以上の⾼圧を印加していた。これによって、反応容器内がCO2で⼗分に満たされた状態を作り、⽣成反応を進⾏させていた。⼀⽅、常圧・低濃度CO2を利⽤した場合には、⼗分な量のCO2を反応容器内に確保することができなかった。
 そこで、エタノールと有機強塩基が関係するCO2の化学吸着反応に着⽬した。この化学吸着反応は、エタノールと有機強塩基を混合した溶液に、CO2を含むガスを通気することでエチル炭酸塩を⽣成する。この CO2吸着反応を利⽤することにより、それぞれ体積⽐15%と85%の CO2と窒素からなる混合ガスを⽤いても、使⽤した有機強塩基量のモル⽐の約 60%に相当するCO2を吸着することができた。
 次に、エチル炭酸塩とテトラエトキシシランからのジエチルカーボネート化反応に関して、最適な触媒の探索を⾏ったところ、数⼗種類の中から酸化セリウム(CeO2)が最適な触媒であることがわかった。さらに、有機強塩基の種類が、ジエチルカーボネートの収率に⼤きな影響を及ぼすことを明らかにした。これは、酸化セリウムの表⾯に存在するジエチルカーボネートを⽣成するための活性点が、有機強塩基の結合で被覆されるためであると推定した。
 そこでさまざまな有機強塩基を⽤いてジエチルカーボネート合成を検討し、触媒の被覆を起こさない特定の有機強塩基を⾒いだすことに成功し、反応を優位に進⾏させることができた。その結果、体積⽐15%の低濃度のCO2ガスを⽤いた場合、エチル炭酸塩として捕集したCO2の約49%をジエチルカーボネートへと変換できた。さらに、15%のCO2に⽯炭⽕⼒発電所の排ガスに含まれるものと想定される不純物を混合した模擬排ガス(CO2濃度15%、CO濃度300ppm、SO2とNO2のそれぞれの濃度500ppm、その他窒素)を⽤いた場合であっても、捕集したCO2基準で45%のジエチルカーボネート収率を達成した。
 今後は、反応条件や触媒、反応装置などを改良し、低コストで省エネルギーな製造⽅法の確⽴を⽬指す。2030年頃までの実⽤化に向けて、スケールアップの検討など、必要な技術課題の解決に取り組む。

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