産総研と早稲田大学が開発 ナノプラスチック測定技術

2024年06月17日

ゴムタイムス社

 産総研地質調査総合センター地圏資源環境研究部門地圏環境リスク研究グループ土田恭平研究員、井本由香利主任研究員、斎藤健志主任研究員、原淳子研究グループ長、早稲田大学創造理工学部環境資源工学科川邉能成教授は6月14日、土壌中のナノプラスチックの濃度を測定する技術を開発したと発表した。
 近年、増え続けるプラスチックごみが社会問題となっている。とりわけ、大きさ1µm以下のプラスチックはナノプラスチックと呼ばれ、人体への影響が懸念されている。ナノプラスチックは摂取や吸入などによって人体に取り込まれると考えられているため、ヒトへのリスク評価のためにも土壌を含む地圏環境にどれだけの濃度で分布しているかを知る必要がある。しかし、従来手法で検出できる土壌中プラスチックの最小サイズは約1µmであるため、土壌中のナノプラスチックの分布状況は明らかになっていない。
 今回開発した技術は、ナノプラスチックと土壌粒子の吸光度スペクトルの差を利用して、土壌有機物や土粒子とナノプラスチックを分離せずに、従来法では難しかった土壌試料中のナノプラスチック濃度を算定する。
 なお、今回の成果の詳細は、2024年5月28日に「Ecotoxicology and Environmental Safety」に掲載された。
 ごみの不法投棄や河川の氾濫、農耕地でのプラスチックの利用、建築土木利用された資材の劣化や摩耗などに起因して、マイクロプラスチックが環境中へ流出していることが報告されている。陸上に存在するマイクロプラスチック量は海洋の4~23倍と推定されており、土壌中に多量のマイクロプラスチックが存在している可能性がある。また、ナノプラスチックはマイクロプラスチックが粉砕されることで生成され、マイクロプラスチックと同様に土壌中に存在していると考えられる。
 ナノプラスチックは赤血球を破壊し、細胞に侵入してミトコンドリアDNAに損傷を与えることが明らかになっている。ナノプラスチックはマイクロプラスチックよりも人体への影響が大きい可能性があるため、土壌を含む地圏環境中のナノプラスチックの存在量を明らかにすることで暴露・リスク評価を行う必要がある。土壌中の微小なプラスチックの濃度を測定する従来の手法では、土壌試料を適切に前処理した後に土粒子と比重分離を行い、フィルターでプラスチックを回収する。この方法では、フィルターや装置の性能から1µm以上の大きさのプラスチック粒子しか検出できないため、土壌中のナノプラスチックの分布状況は明らかになっていない。よって、ヒトへのナノプラスチックの暴露量評価をより詳細に行うために、土壌中ナノプラスチックの濃度評価手法を確立する必要があった。
 産業技術総合研究所地圏資源環境研究部門地圏環境リスク研究グループは、環境中のプラスチックのリスク評価を目指しており、プラスチックと化学物質との相互作用や、プラスチックの土壌中での移動性の解明、環境中のプラスチック分布状況の調査を行ってきた。今回はマイクロプラスチックより人体への影響が大きい可能性があるナノプラスチックの地圏環境中の分布を明らかにするために、土壌中のナノプラスチックの濃度測定技術を開発した。
 同研究では、粒度分布や有機物の含有量など特性の異なる6種類の土壌サンプルと203nmのポリスチレンの微小な粒子を混合して6種類の土壌懸濁液(ポリスチレン濃度5mg/L)を用意した。土壌粒子とナノプラスチックの吸光度スペクトルは異なるため、1つの土壌懸濁液に対して2つの波長の吸光度を測定することで、懸濁液中の土壌とナノプラスチックのそれぞれの濃度を定量できる。今回の6種類の土壌懸濁液に対して200nm~500nmまでの範囲で20nm間隔で異なる2つの波長の組み合わせを試した。その結果、波長220~260nmおよび波長280~340nmの吸光度での組み合わせで、算出されるナノプラスチック濃度とサンプル濃度の5mg/Lとの差が最小になった。これら2つの範囲の波長の組み合わせがさまざまな性質の土壌懸濁液中のナノプラスチック濃度を算定するのに適していると考えられる。
 また、ナノプラスチック含有量の異なる乾燥土壌サンプルを用意し、これらの試料から土壌懸濁液を作成しナノプラスチック濃度を測定することで、土壌懸濁液中のナノプラスチック濃度と乾燥土壌中のナノプラスチック濃度との検量線を作成した。この検量線はナノプラスチックの土粒子への吸着を考慮したものであり、直線関係を示していた。以上から、ナノプラスチックの土粒子への吸着を考慮した検量線を作成することで、もとの土壌中のナノプラスチック濃度を正確に測定できることが分かった。
 また、同技術の測定下限を明らかにするため、さまざまなナノプラスチック含有量の乾燥土壌サンプルを用意し同技術でナノプラスチック濃度を算出したところ、土壌中ナノプラスチック濃度が0・2mg/g以上のとき、用意した6種類すべての土壌ナノプラスチック濃度を変動係数10%以内の誤差で測定できた。これにより紫外可視分光光度計を用いた乾燥土壌中ナノプラスチック濃度測定は、測定下限0・2mg/gで有効であると示された。
 今回開発した技術により、環境土壌におけるポリエチレンやポリエチレンテレフタラートなどのナノプラスチックを定量し、地圏環境におけるナノプラスチック分布とその移動について明らかにしたいと考えている。

土壌中にあるナノプラスチックのイメージ

土壌中にあるナノプラスチックのイメージ

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