東洋紡は6月24日、明治大学発スタートアップのポル・メド・テックが手掛ける、異種臓器移植のための医療用ブタの受精卵の凍結保存用途向けに中空糸膜を提供することについて合意したと発表した。医療用ブタによる異種移植の早期の実用化に貢献できるよう努めていく。
現在国内では、重い病気や事故などによって臓器の機能が低下し、臓器移植を希望して待機する人の数が約1万6000人とされるのに対し、このうち臓器移植を受けられるのは年間約600人と言われており、提供される臓器の数が限られているのが現状となる。深刻な臓器不足などを背景にして、動物の臓器を利用する異種移植の研究が本格化する中、ブタを使った臓器移植の可能性について、ヒトと臓器のサイズが似ていることや、飼育が容易で、かつ繁殖周期が短く多胎であることなどから研究が進められてきた。
近年では、「ゲノム編集」技術の進展に伴い、ブタの特定の遺伝子を改変することで、ブタの臓器を移植した際に起こる激しい拒絶(免疫)反応を抑えることが可能になり、2022年、米国において、世界で初めて心臓病患者にブタの心臓が移植され、約2ヵ月間生存した事例が報告されている。
異種臓器移植に世界的な注目が集まる中、ポル・メド・テックは2024年2月に国内で初めて、異種臓器移植用に遺伝子を改変したクローンブタの生産に成功した。異種臓器移植においては、医療用ブタの受精卵を凍結保存することにより、患者が必要とする適切なタイミングでの移植を可能にするとともに、医療の効率化や動物の使用数削減を実現する。
現在では、「ガラス化凍結法」を用いて受精卵の凍結保存を行うのが主流とされている。
同社がこのたび、ポル・メド・テックに提供するのは、ガラス化凍結法において容器の中で受精卵を包むように保護するために用いる中空糸膜となる。同製品は、ストロー状の中空糸の特性を活かすことにより複数の受精卵を保存する際の優れた操作性を実現できることや、細胞の生存状況を確認しやすいといった特長を有している。同製品を用いて行われた実験では、これまでにガラス化凍結法で用いられていた保管デバイスと比較して、受精卵の胚盤胞形成率や孵化胚盤胞形成率を大幅に向上させることを確認している。
同社は今後もポル・メド・テックと連携し、中空糸膜の提供や技術支援を通じて、異種臓器移植の早期実用化に向けた医療用ブタの臨床応用の実現を支援していく。また、動物受精卵の凍結保存用途での中空糸膜の開発で得られたノウハウなどを応用することで、不妊治療などの際に取り扱われる卵子や精子、受精卵の保管用途などへの展開も検討していく。
2024年06月25日