産総研らが共同開発 半導体型CNTの抽出方法

2024年07月11日

ゴムタイムス社

 産業技術総合研究所は7月10日、京都工芸繊維大学野々口斐之准教授、奈良先端科学技術大学院大学河合壯教授、産業技術総合研究所桜井俊介研究チーム長らが共同で、アルキル化セルロースを抽出剤として用いることで高品質な半導体型カーボンナノチューブ(CNT)を選択的に分離抽出できることを実証したと発表した。
 アルキル基の種類、置換度(DS)、分子量などの分子構造が分離効率に与える影響を系統的に調べ、中程度に置換されたヘキシルセルロースが特に半導体型CNTの選択的抽出に適していることを明らかにした。この方法で得られた半導体型CNTは高純度と高結晶性を両立しており、その膜は、分離抽出前のCNTだけでなく、他の従来技術で分離した半導体型CNTをも凌駕する優れた温度差発電能力(熱電変換特性)を示した。また、この抽出剤は入手容易かつ安価な原料から調製されており、高品質な半導体型CNTの安定供給につながる可能性がある。
 単層CNTは直径約1nm、長さ数μmの炭素原子による円筒構造体。炭素原子の並び(巻き方)の違いにより半導体型と金属型に分類され、それぞれ異なる物性を示すことが知られている。特に半導体型CNTは透明かつフレキシブルな薄膜トランジスタへの応用や、超高集積・超高速かつ環境負荷の低いコンピューターへの応用などに向けたエレクトロニクス材料として注目されている。近年では半導体型CNTが優れた温度差発電能力(熱電変換特性)をもつことが明らかとなり、身の回りの廃熱から電力を生み出す環境発電(エネルギーハーべスティング)への応用も期待されている。
 一方で、単層CNTは半導体型と金属型の混合物として生成されるので、高性能なトランジスタ材料や発電材料のための高機能性インクとして用いるには、半導体型CNTだけを高純度かつ効率的に分離する技術が不可欠である。従来、密度勾配超遠心分離法、ゲルろ過カラムクロマトグラフィー法、導電性高分子抽出法などのさまざまな分離技術が提案されてきたが、産業応用実現のためには、個々の用途に適した物性をもつCNTを、より安価で大量に分離する方法が求められている。また分離精製の際のCNTの欠陥生成や短尺化が材料の電気特性に悪影響を与えることも指摘されていた。
 研究チームは2022年にアルキル化セルロースの一種で市販試薬であるエチルセルロースがCNTの有機溶媒への分散・抽出剤となることを報告した。さらに本研究では、新たな選択的抽出剤として種々のアルキル化セルロースを検討した。その構造や濃度および溶媒などの抽出条件を詳細に調べた結果、アルキル化セルロースを用いた半導体型CNTの選択的抽出方法を明らかにした。抽出剤として、エチル基・ブチル基・ヘキシル基・オクチル基をそれぞれ置換したセルロースを用いた分散液の紫外可視近赤外吸収スペクトルを測定したところ、半導体型CNTの分離選択性はアルキル化セルロースの側鎖長によって変化することが明らかとなった。特に、ヘキシルセルロース(HC)を用いた場合、金属型CNTに由来する吸収(M11)がほとんど観測されなかった。
 赤外吸収スペクトルにより、分離精製していないCNTは半導体型と金属型の混在を反映して金属型CNTに起因した遠赤外線吸収(プラズモン共鳴)の吸収がみられたが、ヘキシルセルロースを用いて抽出した半導体型CNTからはプラズモン共鳴の吸収がほとんど観測されなかった。詳細な分析により、アルキル化セルロースを用いることで半導体型CNTを98%程度の選択性で抽出できることが定量的に確認された。加えて、共鳴ラマンスペクトルからも半導体型CNTの高い選択性が確認された。さらなる抽出条件の検討を行った結果、分離選択性はアルキル化セルロースの置換基の種類以外にも、濃度や分子量、溶媒の種類に依存することが明らかとなった。
 成膜したCNTにおける熱電特性を検討したところ、ヘキシルセルロースで抽出した半導体型CNT膜は、分離精製していないCNTと比べて3~4倍程度の熱起電力を示した(化学酸化による高ドーピング状態において約100μV K-1、さらに、このCNT膜は未精製CNT膜の約10倍、従来の導電性高分子抽出法による半導体型CNT膜の約3倍の電力因子(283 μW m-1 K-2)を示した。
 今回の技術を利用することで、分離抽出の収率や純度を同時に改善することが可能となり、短工程(1時間以内)にて高効率な分離試料調製が可能となった。特に操作が類似する導電性高分子による分離抽出手法に対しても、この抽出法で課題だった抽出剤(導電性高分子)のコストをアルキル化セルロースへの代替によって大幅に低減できると考えられる。
 今後、この手法を用いて高純度に分離した半導体型CNTの用途開発を進めるとともに、より環境や安全性に配慮した精製法の開発を目指す。
 

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