旭化成アドバンスは9月19日、電気自動車EV向けに開発した耐炎性・耐ブラスト性を備えた耐炎化繊維素材「ラスタンTSシリーズ(以下、「本製品」)」について2024年10月1日より販売開始することを発表した。
本製品は、特殊アクリル繊維を原料とした通常グレードのラスタンに特殊な難燃剤を添加することで、高い限界酸素指数(以下、「LOI値」)や優れた加工性などの従来品の強みを保持しながら、耐炎性や耐ブラスト性を向上させている。これにより、EVバッテリーが熱暴走した際に温度上昇や延焼を抑制し、 EVの安全性能向上に貢献する。
EVの普及が進む中、熱暴走は安全上の重大な懸念事項の一つとして注目されている。EVバッテリーの熱暴走対策素材の市場規模は2024年以降も年平均約15%の成長が予測されており、今後は需要がさらに拡大する見込み。その中で、熱暴走が発生した場合の対策として、EVバッテリーのカバー用途において優れた耐炎性や耐ブラスト性、絶縁性を持つ素材の需要が高まっている。現在、EVバッテリーの熱暴走対策として、主に鉱物系の素材が使用されている。しかし、これらの素材は重く、割れやすいため作業者に負担がかかり、さらにその硬さから設置形状への柔軟な対応が難しいなど、加工性が自動車OEMにおける課題となっている。
同社のラスタンは特殊アクリル繊維を200~300℃の空気中で焼成した耐炎化繊維で、非鉱物系の素材として注目されており、耐炎性・耐ブラスト性・絶縁性に加えて、耐熱性 ・加工性も非常に高い特性を持っている。その特性をいかし、防災安全関連、及び産業資材分野の最適素材として長年にわたり使用されている。本製品は特にEVバッテリーのトップカバー向けに開発を行い、鉱物系素材の代替品として、複数の自動車OEMによって既に採用の検討が進められている。
本製品は、1300℃の炎に対しても、反対側の温度を400℃以下に保つ断炎性を持つ。さらに、一般的にLOI値が27以上であれば難燃性を有しているとされる中で、本製品はLOI値が50以上と非常に高い難燃性を有している。このように極めて高い難燃性を持つ本製品は、材料の燃えにくさの度合いを表す指標である難燃性UL94規格では最高レベルの5VAを取得している。また、この素材は、1分間1300℃の炎にさらされ、200μ~500μの粒子の高圧衝撃を受けても穴が開かない高い耐炎性と耐ブラスト性を備えている。さらに、この素材は1mmの厚さで最大3・5kVの絶縁性能を持ち、電気的安全性も確保されている。
また、ラスタンは最薄0・8mmの薄さで高性能を維持しながら、柔軟性にも優れており、はさみで簡単に切断できるため鉱物系の素材に対して加工面で優位性を持ち、製造工程の簡素化にも寄与する。さらに、 本製品は日本での一貫生産を確立しており、今後は米国などでの現地生産も視野に入れている。これにより、素材供給のサプライチェーンの透明化を一層推進し、グローバルな市場においても信頼性の高い供給体制を構築していく。
新製品の発売開始に合わせ、2024年10月7~10日に米国において開催される北米バッテリーショーにて、旭化成グループのブース内で本製品を展示する。
同社は、繊維事業において培った有機繊維布帛(ふはく)の製造技術を活かし、顧客の多様なニーズに対応する製品を提供してきた。今後は、欧米での販売体制を強化するとともに、バッテリーセルの間に使用する素材などの他用途向けのグレード開発も計画しており、EVの安全性能向上に貢献していくとともに、今後もさらなる品質向上やグローバルな体制の実現を進めていくとしている。