東洋紡エムシーは12月16日、同社が製造販売する中空糸型膜モジュール「ホロセップBC膜」が、中国バッテリーリサイクル大手「格林美股份」(以下「GEM」)のリサイクル工場において、使用済みリチウムイオンバッテリー(以下「LIB」)からリチウムを回収する工程に採用されたことを発表した。同社の膜が、使用済みLIBからのリチウム回収工程に採用されたのは初めてとなる。
中国では電気自動車(EV)の急速な普及に伴い、将来的には大量の使用済みLIBが排出されると考えられる。資源の有効活用や安定供給の観点から、LIBのリサイクルに高い関心が集まっており、その中でも主要素材であるリチウムの効率的な回収・再利用は重要な課題となっている。
GEMは2001年に深圳市に設立された資源リサイクル会社で、使用済みの電池や電子製品、自動車などからニッケル、コバルト、リチウム、タングステンといった希少資源を再生する事業を手掛けている。このたび同社の「ホロセップBC膜」が採用されたのは、湖北省にあるGEMのバッテリーリサイクル工場のリチウム回収工程。
使用済みLIBのリチウム回収工程では、一般的に使用済みLIBを粉砕した「ブラックマス」と呼ばれる粉末を溶液に浸すが、そこから浸出したリチウムを含む溶液を濃縮する工程に同社の「ホロセップBC膜」が設置されている。溶液を濃縮することにより、次工程の蒸発工程を大幅に短縮できるため、「ホロセップBC膜」による濃縮を行わない場合に比べて大幅な消費エネルギーの削減が可能になる。
膜の両側に同じ濃度の溶液を通水し、浸透圧差をなくすことで、加圧した圧力が有効圧力として作用し濃縮が進む。その結果、RO(逆浸透)法と同等のエネルギーで、より高濃度の濃縮が可能になるシステムで、これまでに大型製塩プラントで海水を濃縮する工程などに採用されてきた。リチウムの回収工程においても、RO法に比べてリチウムの濃縮効率を飛躍的に向上させることができ、リチウム濃度を最大で約20%にまで高めることができる。
使用済みLIBからリチウムを回収・再利用するニーズは、リサイクル意識の向上などを背景に、今後ますます高まっていくと考えられる。EVの普及が進む中国で、リチウムの再資源化工程に採用されたことを足掛かりに、国内外において資源リサイクルの効率化、使用済みLIBの有効活用に貢献していく。
中空糸型膜モジュール「ホロセップ」は、バクテリアやイオン、有機物などを除去し、水だけを通すセルローストリアセテート(CTA)製の中空糸型水処理膜。1980年代にRO法を用いた水処理膜として販売を開始し、主に中東地域の海水淡水化プラントで採用されてきた。髪の毛2本分ほどの細さ(外径約200μm)の中空糸により構成されるため膜の表面積が大きく、さらに耐塩素性のあるCTA製のため塩素殺菌が可能であることから、汚れや微生物による目詰まりが起こりにくい特徴がある。「ホロセップRO膜」、「ホロセップBC膜」のほか、低エネルギーで海水淡水化や発電を行えるFO(正浸透)法を用いた「ホロセップFO膜」もラインアップしている。