海外では、米国で自国第一主義を掲げるトランプ2・0(第2次政権)の政策実現可能性が高まるほか、ロシアウクライナ紛争も丸3年を迎えようとしている。海外を中心に不確実性が高まるなか、国内でも物価高や人手不足など課題山積の状況でスタートした2025年。そのなか、ゴム業界を取り巻く環境はどうなるのか。合成ゴムやホース、ベルト、CMB、ゴム用機械、ゴムロールなど各分野の今年の需要動向を展望した。
合成ゴム
外部環境の不確定性が高まる
24年の合成ゴム市場は、国内では年初の自動車メーカーの認証不正問題による生産減の影響を受けたものの、上半期前半から需要が徐々に回復傾向で推移した。さらに、円安が追い風となったほか、原料価格高騰などを理由にした価格改定を実施したことで、各社は増収を確保した。一方、ここ数年続いていた原材料不足は、ほぼ解消された。
合成ゴム工業会がまとめた24年1~10月の合成ゴム生産量は前年同期比5・4%増となっている。品種別にみると、CRは国内では年初の自動車メーカーの影響から徐々に回復した。在庫過多な状況で厳しい環境だったが、回復傾向で需要が伸びている。SSBRの需要も海外を中心に伸長した。ただし、BRは中国の景気低迷の影響を受けたメーカーもあったほか、UBEがマレーシアのBR拠点を解散している。
25年も引き続き、ロシアによるウクライナ侵攻や米国でトランプ大統領の就任など、海外の不確定要素が強く残る。原料高や為替動向に注視しながらの1年となろう。
ゴムホース
高圧用は横ばいと予測
日本ゴムホース工業会が昨年11月に発表した24年のゴムホース生産量(新ゴム量)は前年比1・7%増の3万2160tと予測する。このうち、生産量の7割を占める自動車用は同2・4%増の2万2900tと予測。認証不正問題による自動車生産、出荷停止の影響は解消に向かうとみられるが、年間を通じ大幅な伸びは見込めなさそうだ。
建設機械や工作機械を主要需要先とする高圧用は横ばいの4250tを見込む。高圧用では、ここにきて海外勢(韓国・米国)が建機メーカーへスペックインに向けた活動に力を入れ始めている。国内の高圧ホースメーカーにとっては海外勢との競争激化が懸念される。
樹脂ホースの国内市場をみると、24年は業界によってまだら模様の状況にあった。特に自動車用は認証不正の影響で厳しかった。そのなか、25年はメーカーの多くが半導体製造装置分野向けの本格回復に期待を寄せる。さらに、医療関係や食品加工などでの販路拡大に向けた新商品投入も各社で広がりつつある。ユーザーの課題解決につなげるべく、ホースはもちろん、ホースと継手のセット販売を強化する動きが加速しそうだ。
CMB
コスト上昇の価格対策が重要に
日本ゴム精練工業会が会員向けに集計したアンケート調査によると、23年度のゴムコンパウンド生産量は7万8952tで同4・0%増となった。内訳は黒ゴムが7万235tで同2・6%増、色物・その他が8717tで同16・7%増となった。ただ、23年度の生産量は22年度に比べ増加したものの、CMBメーカーからは「数量はコロナ前まで回復していない」との声が聞かれる。
24年の需要動向をみると、国内では上半期の需要が減少した企業が多い。下半期に入り需要は回復しているものの、先行き不透明感は強く、楽観視はできない。その要因のひとつに、原材料の高騰やエネルギーコストの上昇、2024年物流問題の物流費の値上げが実施されるなか、これら値上げにコンパウンドの値上げが追いついていない現状が浮かび上がる。
今年も中国景気の低迷に加え、自動車生産の動向や原材料高など不安要素が多い。CMBメーカーにとっては、原材料やエネルギーコスト上昇に対応した価格対策がより求められることになろう。
ゴムベルト
内需は4%増を予測
日本ベルト工業会によると、25年のゴムベルト生産量(新ゴム量)は1万7402tで前年見込み比1%減と予測した。内需は1万4025tで同4%増、輸出が3377tで同18%減と予測する。品目別ではコンベヤは、内需は鉄鋼メーカー他の回復により前年を上回る予測を立てるも、輸出は海外景気の低迷を受けて鉱山需要が大幅に落ち込むと予測する。伝動は、海外景気に先行き不透明感は残るものの、内需・輸出とも前年並みと予測している。伝動の自動車用は補修用が引き続き堅調に推移しそうだ。一般産業用も射出成形機や工作機械の回復に期待している。
一方、25年の樹脂ベルトの生産量は104万8700㎡で同4%増と予測した。主要分野の物流と食品の動向をみると、物流分野は、ECセンター向けの新設案件は以前ほどの活況は見込めそうにないが、取り替え需要は堅調に推移しそうだ。食品分野はインバウンド需要や外食需要に期待する。多様化するニーズに応えるべく、機能性に富んだ製品を発売する動きが進むとみる。
ゴム用機械
修理や更新需要の獲得が鍵
ゴム用機械メーカーの需要動向を振り返ると、コロナが明けて経済活動が正常化に向かうなかで、機械メーカーの受注環境も回復してきた。また、ここ数年悩まされてきた部品不足も緩和の方向に向かい、メーカー各社の生産性は向上し、売上も伸びた。ただ、利益はエネルギーコストの上昇や材料の仕入れ価格の高騰の影響が大きく、コスト上昇分の全てを価格に反映できずにいて、多くのメーカーが利益確保に苦労する。
一方、海外の受注動向をみると、中国は中国国内の景気減速に加え、電気自動車(EV)の普及を背景に、中国に拠点を置く自動車関連の日系企業は厳しい経営環境下にある。その影響がゴム用機械メーカーの受注環境に影響を及ぼしている。海外需要は今年も厳しい状況が続くと見込まれる。
国内は、新規案件よりも機械の老朽化に伴う更新や修理案件が多く、いかに更新や修理重要を獲得していくか鍵を握る。DXや環境対策など付加価値を付けた機械の開発力強化はもちろん、サービス体制の充実も重要となろう。
ゴム手袋
作業用は耐切創、化学防護用が堅調
家庭用・作業用・医療用のカテゴリーに分かれるゴム・ビニール手袋。家庭用は物価高騰を理由に、購入頻度が控えられており、需要が伸び悩む。ショーワグローブやエステー、ダンロップホームプロダクツなどは従来にはないカラーバリエーションの商品や環境に配慮した商品など、従来の家庭用手袋のイメージを覆す商品を上市する。
作業用手袋では、耐切創手袋や化学防護用手袋のカテゴリーが堅調に推移。法改正に伴い、安全保護具としてこれら手袋を装着する動きが作業現場で広がっているため。耐切創手袋では、ショーワグローブやダンロップホーム、アトムなどの国内勢と海外勢との間で販売競争が激しさを増している。化学防護用では、ダイヤゴムやショーワグローブ、ハナキゴムが需要開拓に向けた活動を活発化させている。
医療用は、コロナ禍でディスポを中心に各社供給不安に頭を悩ませた。その状況を打破すべく、ショーワグローブ、三興化学工業は医療用手袋で国内生産を再開。コロナ禍の教訓を活かし安定供給の責務を担う。
ゴムシート
特殊ゴム板の本格回復に期待
日本ゴム工業会統計委員会(ゴム板製品関係7社)がまとめた24年1~11月のゴム板(ゴムシート)生産量合計は1万4040tで前年比3・7%減、出荷量は1万3809tで同5・0%減と生産・出荷とも前年を下回る。「汎用品のゴム板は年後半に若干回復の兆しがみられる。特殊ゴム板は、シリコーンゴム板は少しずつ動き始めるも、半導体業界向けをメインとするフッ素ゴム板は客先によりまちまちの状況にある」(ゴム板メーカー)と語る。自動車生産はもちろん、半導体業界向けの本格回復に期待を寄せる。
ゴム板は製品に占める原材料比率が高い。原材料やエネルギー価格は高止まりが続く。製造設備や物流、人件費などのコスト増が続いているほか、原料メーカーによる材料やグレードの統廃合への対応も負担が増している。生産効率や経費削減を進めているが、コスト増をすべて吸収するのは難しい。事業継続や製品を安定供給するため、各社は24年秋以降、価格の改定を打ち出している。
ゴムロール
高機能フィルムの受注回復がカギ
日本ゴム工業会統計委員会(ロール製品関係7社)がまとめた24年1~9月のゴム樹脂ロールの生産量は324万1812kgで前年同期比1・5%増と前年を上回る状況にある。分野別に見ると、印刷用ゴム樹脂合計の生産数量は102万3637kgで同1・7%減。デジタル化の進展に伴う紙離れに加え、ロール再生装置の導入、製品交換サイクルの長期化などを理由に、一般商業印刷や新聞用など印刷用ロールの受注は緩やかな減少傾向が続いている。
製鉄用は87万2521kgで同1・5%増。製鉄所の統廃合などで受注環境は厳しいが、各社による拡販活動が奏功し生産量は前年同期を上回った。その他、染色・化繊用、第1次フィルム用、搬送機器用、外壁等住宅用等を含むその他用は97万7823kgで同5・3%増。その他用の今年は、フィルム用における高機能フィルム関連の本格回復に期待。高機能フィルム関連では、ゴミとりやシワ抑制、巻取りの課題解決や新規製作につながる提案が受注獲得のカギを握る。