三洋化成工業と戸田工業は3月3日、高い熱伝導性と電磁ノイズ抑制性能を有する、2液硬化型の磁性ウレタン樹脂『キラオーパス』を共同開発したことを発表した。
『キラオーパス』は、硬化前はペースト状で流動性に優れ、従来のシート状ノイズ低減材では困難だった微細な隙間にも容易に充填できる。室温で硬化し、硬化物は電気絶縁性で接点障害のリスクとなるシロキサン成分を含まないため、各種電気電子部品への封止や注型に適している。この特性により、電子機器の小型化や薄型化、ノイズ低減、安定動作、通信品質の向上などに寄与することが期待できる。このたび商用化に向け、本格的なサンプル提供を開始した。
『キラオーパス』は、戸田工業の透磁率の高いソフトフェライト粉末などを、三洋化成のコア技術である界面制御技術を応用し、ウレタン樹脂中に高濃度に分散したもの。以下の特長を有するため、電子機器の小型化・薄型化に対応しつつ、不要な電波や信号を抑制して動作を安定化させ、通信品質の向上にも寄与することが期待される。
一つ目は、高い電磁ノイズ抑制性能(高透磁率、低誘電率)。
透磁率の高いソフトフェライト粉末がノイズの磁場成分を吸収することで、薄膜でも電子機器の外部・内部のノイズ干渉を効率的に低減。低周波帯(kHz~MHz)から高周波帯(GHz)まで幅広く対応可能で、特に低誘電率グレード(NiーZn系)は高周波数環境での使用に適しており、通信機器や高周波回路において優れた信号品質を提供できる。特に高精度が求められるアプリケーションに有利。
二つ目は、高熱伝導性。
2・0W/m・Kの優れた熱伝導性を有するグレードは、放熱性を重視した用途において高い効果を発揮する。また、従来のシート状材料に比べ、ペースト充填時に空隙ができにくいため、効率よく放熱することが可能。
三つ目は、高い流動性、充填性。
『キラオーパス』は、硬化前はペースト状のため、半導体パッケージや電子基板上の複雑な形状や狭い部位にも適用でき、設計の自由度が向上する。また、注入・塗布工程の自動化が可能。
四つ目は、室温硬化性。
室温×24時間で硬化する。高温加熱が不要なため、熱に弱い基板や部品へのダメージリスクを低減し、エネルギーコスト削減にもつながる。
五つ目は、優れた信頼性と安全性。
ウレタン樹脂を用いたシリコーンフリー設計により、接点障害のリスクがない。硬化物は柔軟で接着性が高く、電気抵抗=107Ω・cmと絶縁性であるため、漏電や短絡のリスクを防止でき、封止材としても使用できる。
このような特長を有する『キラオーパス』は、巻線インダクターの封止材、非接触給電部材、電源回路、モーター制御回路、通信回路などのノイズ抑制材などの用途に最適となる。
5G通信や、AI、IoT、ロボット、自動運転の進展により、情報処理能力向上とともに高周波ノイズや熱の発生が増加することが予想され、その対策がますます重要となっている。『キラオーパス』はこうした課題の解決に貢献できる可能性を秘めており、両社は、早期の市場投入を目指すとともに、技術発展と市場ニーズに応えるため、製品ラインアップの拡充やさらなる技術開発にも引き続き注力していくとしている。