東レ㈱(本社東京都中央区 日學昭廣社長以下「東レ」)は今回、独自のウェットコーティング技術により、指紋汚れが付着しにくく、かつ付着しても見えにくい指紋付着防止フィルムを開発した。 本フィルムは、表面に高撥油性の均一な膜と、ナノメートルオーダーのランダムなシワ状の「ナノ凹凸構造」を形成することで、高透明性や光沢感を維持しながら、従来技術に対して優れた最終的な指紋汚れの“見えにくさ”を指す、耐指紋性を実現した。
今後、タッチパネルや加飾成形材料などの用途に向け、早期の実用化を目指していく考えだ。
近年、スマートフォンやタブレット端末など、指で直接入力するタイプのタッチパネルが急速に拡大しているが、指紋汚れによってディスプレイの視認性低下や筐体の外観を損なうことが問題になっている。
従来、指紋汚れを防止する方法としては、指紋汚れを濡れ広がらせることで見えにくくする「親油型」と、指紋汚れをはじくことで付着しにくくする「撥油型」の主に2つの方法が検討され、タッチパネルの画面保護フィルムなどで実用化されている。しかし、「親油型」は皮脂や汚れの多い指では効果がほとんど得られず、「撥油型」は指紋汚れの付着量を低減できるものの、付着した指紋汚れが目立ちやすいという課題があり、より高い耐指紋性を持つ材料へのニーズが高まっている。
また、指紋汚れは環境や個人差により付着量や見え方が異なるため評価が困難であり、材料開発においては耐指紋性の定量的な評価技術の確立が必要となっている。
これに対して同社は、皮脂や汚れの多い指で触っても有効な耐指紋性の付与を目指し、「指紋汚れの「付着量低減(“付きにくさ”)」 と「視認性低減(“見えにくさ”)」」というコンセプトによる材料開発を行った。まず、模擬指紋を用いて指紋汚れによる色や光沢感の変化を定量化することで、耐指紋性を定量的に評価する新たな技術を開発し、この評価技術を用いてフィルムの表面特性と耐指紋性の関係を解析した。そして、この解析結果に基づく表面設計を行い、独自のウェットコーティング技術によってフィルム表面に高撥油性の均一な膜と「ナノ凹凸構造」を形成することで、材料に求められる高透明性や光沢感を維持しながら、従来技術に対して優れた耐指紋性を有するフィルムを実現した。
今回開発した指紋付着防止フィルムの技術ポイントは以下の通り。
1.高撥油性の付与 -指紋汚れの“付きにくさ”-
指紋汚れをはじきやすい高撥油性材料を、新たに開発した添加剤と組み合わせることでマトリクス材料に可溶化させ、フィルム表面に均一に膜形成した。この結果、指紋汚れの付着量を従来材料の半分以下のレベルに低減した。
2.ナノ凹凸構造の形成 -指紋汚れの“見えにくさ”-
自己組織化技術を用いてフィルム表面にナノメートルオーダーのランダムなシワ状の「ナノ凹凸構造」を形成することで、高撥油性材料だけでははじききれない少量の指紋汚れをフィルム表面で微細に分散させ、見えにくくすることに成功した。
今回開発した指紋付着防止フィルムは、特に耐指紋性が求められるタッチパネル表面や光沢感のある筐体の表面材料への適用が期待される。同社は今後、実用化に向けた生産技術の開発を加速するとともに、他用途への展開を目指して他機能との複合化の検討も進めていく。
なお、同社は指紋付着防止フィルムの開発成果を、2月15日(水)~17日(金)に開催される「nano tech 2012」(第11回 国際ナノテクノロジー総合展・技術会議、於:東京ビッグサイト)にて出展する。