本年3月に王子ゴム化成㈱の代表取締役社長に就任した矢村俊幸氏。東日本大震災の発生直後で、日本経済が大きな混乱に見舞われている中でのスタートとなったが、社長就任に際して「経済が立ち直ったとき、次のステップに活かすため、体質強化を重点的に取り組む」と抱負を語る。
―就任に際しての抱負は。
矢村社長 分相応な経営戦略の中で、背伸びをせず、顧客との信頼関係を一層高めていきたい。そのためには、トップダウン方式で生産技術力の向上を図り、足元を固めた上で提案型の会社を目指す。
―技術畑のご出身ですが、王子ゴムの長所と短所は。
矢村社長 配合設計から製造販売、メンテナンスまで一貫した流れで、ユーザー要求に迅速に応えられる技術力は、当社の最大の長所だと思っている。一方、自社ブランド製品が少なく、プレゼンテーションの企画力が比較的弱く、商売が上手ではないことが、短所と言えば短所ではないかと認識している。
―本年度の業績推移は。
矢村社長 本年度の事業方針は既に決定しているので、前社長が立案した計画を踏襲する。ただ、東日本大震災の発生は予想外のことで、国内は震災の影響で発生直後は一時、部材の供給不足が生じたが、当社の海外関連会社の素早い対応とサプライヤーの協力で難を乗り切ることができ、現在は原材料、薬品類の調達面での問題はない。また、当社は受注生産品が多く、原材料をある程度在庫していたことなどにより、被害は最小限に抑えられた。 上期(1―6月期)の業績については、震災の影響も軽微で売上高、経常利益ともに当初の予算対比で横ばいに推移している。
―経営課題について。
矢村社長 原材料・副資材・重油などの価格高騰後の対応が不十分で、収益圧迫要因となった。ユーザーや代理店はゴム関連資材が値上がりしていることについては充分ご理解いただいているので、当社の製品価格の改定も認めていただきたい。また、製品開発においては付加価値をつけた改良型は進んでいるが、新商品がなかなか出てこないのが悩みのタネの1つである。 海外においては、人材育成が必要不可欠だと考えている。新入社員の海外育成は実施できているが、中堅社員には人脈作りや経営感覚を身につけてもらう必要がある。
―現在の需要動向について。
矢村社長 当社の基盤となるライニング事業は火力発電所の見直し次第である。ホース事業は震災復興に向けて港湾向けが多少増えている状況にあり、押出製品は、昨年度は家電や耐震補強向けが好調だったが、現在は落ち込んでいる。工業用金型製品は、全体では横ばいで推移している。
―中長期のビジョンについて。
矢村社長 山口テクノパークに約1万坪の土地を購入し、ゴム押出・熱可塑性押出・射出成形品の工場棟を建設し、展開を行ってきた。この山口工場に設備投資して新規事業を推進する計画だ。
―グローバル展開について。
矢村社長 長年にわたりアジアの拠点としてきたシンガポールにある会社は、役目を終えたことで閉鎖した。 海外事業において、現在ある中国工場は、原子力発電所向け商品および水処理装置や環境設備への取り組みを推進している。 タイ工場は、電解プラント向け商品、石油・ガス開発設備向け、発電所向け商品の事業を行っている。インドネシアは活気があり、積極的な取り組みを展開中。どちらにしても、海外事業は今後の当社の事業にとって重要であり、切り離すことはできない。
―最後に、社長のご趣味、信条は。
矢村社長 趣味は海釣りとゴルフ。釣りはOBや社員とともに舟を借りて楽しんだりしている。好きな言葉は「分相応」。無理をせず、堅実な経営にあたりたい。