帝人㈱(大阪市中央区 本社、大八木 成男 社長)が展開する水処理事業の中核装置である多段式生物処理装置「MSABP」が、このたび、中国・瀋陽市内の新たな開発区にある複数の下水処理場に一括採用された。
下水処理場は、1か所に下水を集めて処理をする集中処理方式が一般的だが、下水管網の整備に莫大な費用および長期間の工事を要するというデメリットがある。さらに、いったん大規模な処理場を設置してしまうと、人口の増減に伴い下水量が変化した際に、処理場の規模と下水量とのミスマッチが発生する難点もあった。
一方、中小規模の下水処理場を数か所に分ける分散処理方式は、工期が短いというメリットがある反面、処理場ごとに初期投資コストが発生することや、発生する汚泥の資源化が難しく、運搬や焼却などの処理費用が継続的に発生することなどから、コスト高になるというデメリットがある。そのため、大都市やその近郊では分散処理方式が普及していない。
瀋陽市では、2013年に開催される国体に向けて開発を進めている同市南部の渾南新区において、集中処理方式の下水処理場の新設を検討してきたが、膨大な費用が発生することに加え、国体の開催に間に合わないという問題を抱えていた。
こうした中、同社は理想的な分散処理を実現できる設備として「MSABP」を提案し、瀋陽市に一括採用されることになった。
「MSABP」は、汚泥削減率が高い生物処理による装置で、日本下水道事業団との共同研究により、中小規模の下水処理場で採用例の多いOD(オキシデーションディッチ)法に比べ、余剰汚泥の発生量を78%削減(汚泥処理分を含む)できることが確認されている。また、運転および維持管理が容易なため、遠隔監視による一括管理も可能となっており、さらに今回採用される装置は、コンテナサイズであるため、設置や移動が容易であることも大きな特徴となっている。
瀋陽市は、「MSABP」を一括採用することにより、汚泥処理装置が不要となる、もしくは極小化できるとともに、遠隔監視により複数の下水処理場を集中管理することが可能なため、運転・管理に要する人件費を抑制することができる。また、分散処理方式とすることで下水管網整備を極小化し、工期を短縮することができるため、国体開催までに下水処理を整備することも可能。さらに、将来の人口増加により集中処理方式に切り替える場合も、コンテナサイズの「MSABP」は移動して再利用することが可能であり、瀋陽市のニーズを満たすことができる。
今回の契約は、伊藤忠(中国)集団有限公司(中国 北京市 本社、小関 秀一 董事長)の関連会社で、中国国内において排水処理事業を幅広く展開している成都聯和環保科技有限公司(中国 四川省成都市本社、蒲 軍 総経理)と瀋陽市とのEPC契約によるもの。
同社は、インドネシアや中国において「MSABP」による工場廃水処理の実証試験を実施しており、中国・江蘇省宜興市では農村集落排水の整備を目的とした実証試験を実施している。また、「MSABP」は、日本国内をはじめ、中国・アンゴラなどでも工場廃水処理を中心に採用が広がっている。同社は、今後も特徴ある総合排水処理ソリューションを国内外でさらに広く展開し、排水再利用、省エネルギーおよびCO2削減に貢献していきたいと考えている。