理研 有機溶媒の核酸溶解に成功

2012年05月10日

ゴムタイムス社

 理化学研究所は5月8日、これまで水にしか溶けなかった核酸を、有機溶媒に溶かすことに成功したことを発表した。

 発表者は、基幹研究所の伊藤ナノ医工学研究室 阿部洋専任研究員(JSTさきがけ兼任)、阿部奈保子(元協力技術員)、伊藤嘉浩主任研究員ら。

 核酸は生命現象を担っている重要な生体分子で、その配列は、遺伝情報の記憶や生体反応の触媒など、多くの役割を持つ。こうした性質を利用して、近年、メモリー、分子認識、バーコードタグなどへの応用が試みられている。また、一度に複数の反応を進行させられることや、生物活性分子の創出に利用できることも、明らかになっている。
 これまで、核酸は水にしか溶けないとされてきたが、ベンゼン、エタノールなどの有機溶媒に溶ければ、有機合成反応の利用範囲が広がることから、その方法の開発が待たれていた。

 研究チームは、化粧品の材料としても知られる「ポリエチレングリコール(PEG)」をタンパク質に結合させることで、水にも有機溶媒にも溶かせるとしている。
 同チームは、オリゴ核酸の末端にPEGを結合したPEG-DNAを作製し、有機溶媒に溶けるかを調べた結果、ほとんどの有機溶媒に溶けることを発見した。また、有機溶媒中でも水溶液中と同じ立体構造を保ち、触媒機能も水溶液中と同様に発揮できることや、水中では50~59度で立体構造が崩れるのに対し、有機溶媒中では10~80度の広範囲で立体構造が変化せず、熱的にも非常に安定することが確認できたと述べている。

 この成果は、「有機溶媒中の塩基の水素結合は、水中より強くなるのか」「核酸の立体構造は、有機溶媒の種類によって、どのように影響を受けるのか」といった、核酸の相互作用の詳細な理解につながる。さらに、溶媒を水からさまざまな有機溶媒へと拡大できるため、核酸を触媒に用いた新しい有機合成反応の開発など、多くの利用法を生み出すことが期待される。

ジクロロエタン溶液に溶けるPEG-DNA

ジクロロエタン溶液に溶けるPEG-DNA

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