第3回 下 「コンクリートから人へ」ですか?
そこへ今回の政権交代、「コンクリートから人へ」のスローガンのもと公共事業費が大幅に削減された。
平成22年度当初予算は5・8兆円。前年度当初予算対比18・3%減は過去最大。ピークだった平成10年度14・9兆円の約4割。
おりしも、ゴールドマン・サックスの予測では、今後10年の新興国のインフラ投資は5兆ドル。うち中国が2・7兆ドル、インドが1・7兆ドルだそうだ。大手を中心にゼネコンや建設コンサルタントの海外志向はますます加速されるだろう。一方、日本国内では、災害対策、防災、都市インフラ整備を激減予算で続けなければならない。
高度成長期に建設された橋梁等の耐震性確保、維持管理も喫緊の大課題だ。1980年代の「荒廃するアメリカ」の轍(てつ)を踏まないためにも、〝社会基盤整備〟こそ国家、自治体が長期的視点で計画的に取り組まねばならないテーマ国民の安全の確保と、経済の持続可能な発展が実現して初めて真の福祉は実現する。目先耳触りのよい諸政策優先の代償として公共事業を抑制することが、長期的には国民を苦しめることになる可能性も考えなければならない。
話変わって、昨年9月福岡大学で開催された土木学会全国大会のテーマは「これからの日本の社会と土木~利他行の土木~」であった。
全体討論会では8世紀に活躍した渡来僧、行基の「利他行」をテーマに、これからの土木のあるべき姿が議論された。「和諍(わじょう:対立の克服)と利他(りた:苦しんでいる人々の幸福を実現するため)の基盤づくりの精神」(桑子敏雄東工大教授)や、市民の共感を得ながら真に必要なプロジェクトを進めることの重要性など、社会基盤整備のあるべき姿とプロセスが再確認された(筆者は技術士開業にあたり、利他技術士事務所と命名させて頂いた。社会貢献への覚悟をお察しあれ)。
「政治主導」も民の共感がなければ、独裁の危険をはらむ。国民の大きな期待を担った新政権には、国民に共感される国づくりのビジョンを明示し、日本が再び希望にあふれる国に「変わる」政治を切に希望する。
(2010年3月8日掲載)