第5回 上 「はやぶさの感動」
2003年5月に打ち上げられたはやぶさは、数々の障害を乗り越えて、人類初となる小惑星との往復をやり遂げた。その旅は7年を超え、行程としては60億キロを超えたという。最後の姿も日本人の心を揺さぶった。回収カプセルを分離後、本体は燃え尽き流れ星となる。大気圏突入直前に、最後の力を振り絞って撮った地球のかすれた影像に「タ・ダ・イ・マ…」という声を聞き取り、目頭が熱くなったのも筆者だけではないだろう。 技術としてすごい、と思うのが、いろいろな故障や不具合の発生を予測して、無駄の許されない機体の中で冗長性の高い設計をしていることと、想定外の不具合に対し何億㌔㍍も離れた地上から、数々の対応策を施してきたことだ。 とくに着陸前後から帰還までの、想像を絶するトラブルの続発に、粘り強く対応し続けられた運用チームの方々の『絶対に帰還してみせる!』と感じさせる気迫や強い信念、技術力に、心から敬意を表する。
将来の宇宙開発の基礎になる技術として、イオンエンジンによる航行、超遠距離の小惑星への自律的な接近、到達、着陸、離陸の制御技術なども、この5月にイカロスで成功した宇宙帆船の展帆技術と併せ、日本が惑星間航行などの分野で世界最先端を行っていることが実証され、本当に留飲の下がる思いである。 構想は約25年前から練られていたそうで、諦めず実現された関係者の方々に、心から感謝と喝采を送りたい。 技術のきめ細かさや周到なアプローチ、目標達成までの粘り強い努力は日本の強みと言っていいと思う。技術開発成功の要諦であることは間違いない。 ここで少し見方を変えると、華々しい成果を上げた「はやぶさ」は晴れて日本中の人々の喝采を浴びることができたが、もしそうでなかったら、世界を引っ張るポテンシャルの技術が力を発揮できずに終わってしまうことはないだろうか。(つづく)
(2010年6月28日掲載)