理化学研究所と高輝度光科学研究センターは4日、塗布型有機薄膜太陽電池で重要なエネルギー変換効率向上に欠かせない結晶性と配向性、さらに、印刷プロセスへ適用するための高い溶解性を併せ持った半導体ポリマーを開発したと発表した。
これは、理研創発物性科学研究センター創発分子機能研究グループの尾坂格上級研究員、瀧宮和男グループディレクター、高輝度光科学研究センターの小金澤智之研究員らによる共同研究グループの成果。
半導体ポリマーを用いた塗布型有機薄膜太陽電池は、軽量で柔軟、かつ印刷プロセスで作製できるという特徴を持ち、次世代太陽電池として研究開発競争が激化している。実用化への最大の課題はエネルギー変換効率の向上だ。これを実現するには、半導体ポリマーをより密に配列させ(高結晶性)、配列の方向をそろえる(高配向性)必要がある。しかし、塗るだけでポリマーの結晶性と配向性を制御するのは非常に困難なうえ、印刷プロセスで使用するため有機溶媒にポリマーを溶かさなければならない。しかしポリマーの結晶性と溶解性は、結晶性を高めると溶解性は低下するという二律背反の関係にあり、これを両立できる材料の開発が望まれている。
共同研究グループは、2012年に開発した技術に基づいて、ナフタレンを基本構造に持つ結晶性の高い半導体ポリマーに、直列に炭素原子が並んだアルキル基を導入して溶解性を高めることに成功した。さらに、ポリマーの配向性も向上することを見いだし、高い結晶性、溶解性、配向性を実現した。実際に太陽電池素子のエネルギー変換効率は従来の5%から8・2%に改善し、モデル素子で電荷移動度を評価したところ1桁の向上を確認した。今後、塗布型有機太陽電池の開発に重要な分子設計指針をもたらし、エネルギー変換の高効率化に貢献すると期待できる。
同研究は、科学技術振興機構(JST)戦略的創造研究推進事業 個人型研究(さきがけ)の一環として行われ、研究成果は米国の化学会誌『Journal of the American Chemical Society』オンライン版に近日掲載される。
今後、塗布型有機薄膜太陽電池により適した基本構造を持つ半導体ポリマーを開発し、そこにアルキル基を導入して最適化できると、大幅なエネルギー変換効率の向上が期待できる。また、このような分子の結晶・配向状態を制御するための分子設計・合成技術はさまざまな新機能発現につながり、デバイスに展開可能な新たな有機材料の開発にも貢献すると期待できる。
同研究はJST戦略的創造研究推進事業 個人型研究(さきがけ)「太陽光と光電変換機能」研究領域(研究総括=早瀬修二九州工業大学大学院生命体工学研究科教授)における研究課題「高効率有機薄膜太陽電池を目指した新規半導体ポリマーの開発」(研究者=尾坂格氏)の一環として行われた。
2013年06月07日