BASF 世界初のE-TPUを開発

2013年08月09日

ゴムタイムス社

 BASFは8日、世界初の熱可塑性ポリウレタン発泡粒子(E―TPU)「Infinergy(インフィナジー)」を開発したと発表した。
 同製品は、同社の発泡粒子に関する専門知識と熱可塑性ポリウレタン(TPU)に関するこれまでの知見をもとに生まれた。同社は、硬質のポリスチレン発泡体(EPS)から、軟質で伸縮性のある熱可塑性ポリウレタン発泡体(E―TPU)まで、幅広い特性をもつ発泡粒子の製品ラインアップを提供することが可能になった。
 独立気泡型発泡粒子であるInfinergyが採用された初の製品は、マルチスポーツブランドであるアディダス社のランニングシューズ「energy boost(エナジーブースト)」。アディダス社と同社の緊密なパートナーシップにより開発された。
 Infinergyは、同社の熱可塑性ポリウレタンエラストマー(TPU)であるElastollan(エラストラン)を画期的な方法で発泡することで生まれ、TPUが持つ特性(柔軟性、機械的物性、幅広い使用可能温度等)をそのまま維持し、発泡体の標準的な特性を付加した製品。かさ比重が約110g/ℓの発泡粒子で、一般的な発泡成形機で成形した場合の成形品比重は、200~320g/ℓ。
 同製品は、汎用の低密度のEPSまたはEPPと、高密度で弾性特性に優れたポリウレタン発泡体の中間にある素材だ。構造上、吸水性が低く、その値は24時間で体積当たり2%未満。ベースとなるTPUの特性を踏襲しているため、破断伸び(100~150%密度による)、引張破断強度(約600kPa)と柔軟性に富み、機械的強度も非常に高く、耐摩耗性や耐薬品性も優れる。
 現在の市場の中で、優れた形状回復挙動を示す最も弾性のある発泡粒子。弾性を評価する規格であるISO8307(ボール反発弾性試験)およびDIN53512(プリセット振子ハンマーを使用)に基づく測定試験では、E―TPUの反発弾性率は、約55%と非常に高い数値。EPS(20%未満)やEPP(30%未満)のような発泡体と比較して非常に高い反発弾性力があることを立証している。
 連続負荷を受けても驚異的な復元性能を示す。1秒当たり5サイクルで、250kPaの動的荷重をかける高速疲労試験を実施した場合、EPE(発泡ポリエチレン)と比べて同製品の性能が約75%優れているという結果が得られた。
 また、4万回の繰り返し圧縮試験後にE―TPUの試験片の厚さは37mm(開始時40mm)を維持、一方でEPEは永久ひずみが大きく、試験後の試験片の厚みはわずか約9mm。圧縮時のエネルギーのほとんどを跳ね返す。さらに、他の発泡体とは異なり、幅広い温度領域で高弾性と高柔軟性を発揮。動的粘弾性分析では、マイナス 20℃のような非常に低い温度環境下でも、高い柔軟性と伸縮性を維持し、硬化しづらいことがわかった。
 クラッキングと加圧充填を利用することで、EPPと同じ成形機で成形できる。幾つかの成形工程を経て、予備発泡粒子同士は高温のスチーム雰囲気の中で圧縮されお互いに熱溶着する。その他の加工方法として、ポリウレタンバインダーを用いた加工がある。ポリウレタンは同製品との相性が良いことから、発泡粒子同士の接着や発泡シーリングなどの成形技術も応用できる。現場施工のような大きな規模の用途にも採用が可能。
 同製品はスポーツ産業や緩衝包装性能を必要とする物流用途など、あらゆる分野で利用可能。潜在的な用途としては、スポーツ施設のフロア、自転車のチューブ、椅子のクッションなど。また、軽量素材が求められるあらゆる分野で、ゴムに代わる緩衝材として利用できる。
 ランナーはランニングシューズに「優れたクッション性」を求めており、ミッドソールがその機能を果たす。ランナーの足が着地するわずか数ミリ秒の間に生成される運動エネルギーを吸収し、足が地面を押す際にそのエネルギーの一部がランナーに戻る。こうした動作により生成されるエネルギーは、使用される素材が持つ弾性と変形性が高ければ、エネルギー効率が向上する。
 これまでは、硬い伸縮素材のシューズかクッション性の高い柔らかいシューズ、どちらかの選択肢しかなかったが、アディダス社の構想から10年、同社との共同発から3年弱という短期間で解決した。2社が密接に連携し世界で初めて同製品を採用した、アディダスBOOSTフォーム(ソール素材)が開発された。
 新しいランニングシューズの優れた特性は、主にミッドソールの柔軟性と高弾性の組み合わせによるもの。アディダスの研究所で材料試験を実施した際、損耗と反発力を算出するために、試験機でランニング中に発生する力と変形をシミュレーションした。また、すべての季節とあらゆる気候において最高のパフォーマンスを保証するため、マイナス20℃から40℃までの広い温度領域でシューズ試験を実施した。
 さらに、生体工学研究所における試験では、アディダス社の製品開発者がアスリートの最大酸素摂取量を測るVO2maxテストを用いて、ランニングシューズの安定性とアスリートのパフォーマンスに関する製品の効果を検証。また、快適性、耐久性、履き心地を、あらゆる能力レベルのランナーにおいて検証した。マラソンの世界記録保持者であるパトリック・マカウ選手も、同ランニングシューズの開発に関わっている。
 試験によって、業界で主に使用されているエチレン―酢酸ビニル共重合樹脂(EVA)のクッション素材と比較して、同素材がさまざまな面で優れているとわかった。現在市場で同素材以上の反発力を生み出すミッドソールは他にない。EVAと比べてその変形挙動における耐温度性が3倍優れ、低温でも硬化が少なく、高温でも軟化が少なく、周期的動的負荷を受けた時の耐性にも優れる。試験に関わったランナーのほぼ全員が、ランニング中にシューズがもたらす感触を強調し、「今まで感じたことのないエネルギーを生み出す履き心地」と表現した。
 白いミッドソールの周りに引かれた鮮やかな黄色のラインは気泡構造の特長を強調し、そのエネルギーとポテンシャルがはっきりとわかるようデザインされている。シューズの靴底は約2500個もの小さな発泡粒子で構成され、非常に人目を引くデザインだ。
 ドイツには約1千万人のランナー人口がいると言われ、2011年にはランニングシューズ約600万足に約4億ユーロを費やした。アディダス社の創業以来、最も成功をおさめたランニングシューズの1つになった同シューズは、2月から世界各国で約25万足売れている。専門誌でも多数取り上げられ、世界有数のランニング雑誌Runner’s Worldでは「ベストデビュー」シューズに選ばれた。同誌は「最高のランニングシューズ。私たちが検証した他のシューズ約800足の中で、最高のパフォーマンスを実現している」と紹介。トップアスリートのデニス・キメット選手は、東京マラソンで新記録を打ち出した際にadizero Japan boostを着用していた。

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