クラレは10日、ノーベル物理学賞を受賞した「ヒッグス粒子」の発見について、同社製品が貢献したことを発表した。
10月8日、万物に質量を与えたとされる「ヒッグス粒子」の存在を提唱した英国のピーター・ヒッグス氏らが、2013年ノーベル物理学賞を受賞した。ノーベル賞受賞間違いなしと言われてきた発見は、昨年7月4日に欧州合同原子核研究機関(CERN)の巨大加速装置「LHC」でその存在が確認され、ノーベル賞発表直前に同研究グループであるATRASとCMSがその存在が確定したと正式発表した。
実験が行われてきたCERNのLHCにおける検出器の建設・データ解析グループのうち、日本の大学・研究機関が参加し、日本生まれの技術が多く採用されているATRASとCMSの装置における「眼の部分」は、クラレが開発し、日本国内(新潟)で製造している「プラスチックシンチレーションファイバー(PSF)」が使われている。
PSFは、コア(内側)が蛍光剤入りのポリスチレン樹脂、クラッド(外側)がメタクリル系樹脂とフッ素樹脂の二重構造(同社独自)になっているプラスチック製光ファイバー。放射線が当たると光るという性質をもち、放射線検出用素材として20年以上の使用実績がある。同社は独自製法により光学性能・寸法精度ともに優れた製品の製造に成功し、メタクリル樹脂の生産事業所である新潟事業所で生産している。
PSFは近年、物理学の世界において、物質の最小単位を捉える「素粒子の眼」として評価が高まり、国内外の研究機関に導入されている。ヒッグス粒子を発見したCERNのLHCに加え、CERNと並ぶ世界最大級の高エネルギー加速設備を持つ米国の素粒子研究所「フェルミ国立加速器研究所」と「トーマス・ジェファーソン国立加速器施設」からも大量発注を受けた。両研究所では、「ニュートリノ」と「クォーク」の検出用としてPSFを採用した。数々の研究機関への地道な供給継続と技術蓄積を背景に素材の品質向上を図った結果、今や放射線検出用素材のデファクトスタンダードとなっている。
PSFは、東日本大震災の復興事業にも活用されている。テクノエーピーと日立GEニュークリア・エナジーは、放射性物質の汚染地域で除染作業に使用する線量測定システムにPSFを採用した。PSFファイバーケーブルを使って、最大20メートル範囲のガンマ線空間線量が数秒間で測定でき、水中の測定も可能となるため、従来のサーベイメーターに比べて確実かつ迅速な作業に貢献するものと期待されている。
2013年10月11日