東レは10月29日、アルミダイキャストと同等の引張強度を有する、射出成形可能な炭素繊維強化ポリフェニレンサルファイド(PPS)樹脂の開発に成功したと発表した。
同開発品は、アルミダイキャストよりも45%軽量で、PPSの有する耐熱性、難燃性、耐薬品性などを保持している。さらに、従来のガラス繊維強化PPS樹脂と同様の射出成形機を用いて成形することが可能で、金属材料に比べ、成形品のデザイン自由度が向上している。各種インサート成形など複合成形への対応も可能であり、自動車、電気、機械など幅広い産業分野への展開が期待され、今後上市に向けて量産化技術の確立を加速していく。
溶かしたアルミニウムを鋳型に流し込んで鋳造するアルミダイキャストは、生産性や引張強度が高いことが特長で、自動車やバイクのホイール、各種エンジン部品、機械部品など幅広い用途で採用されている。これに対し、今回の開発では、同社独自の長繊維炭素繊維強化ペレット製造技術、および炭素繊維とPPS樹脂の界面接着性を改良する技術を適用することで、射出成形可能なPPS系材料としては、世界で初めてアルミダイキャストと同等の引張強度レベルにまで到達させることに成功した。
これまでにも、同社はPAN系炭素繊維トレカを使用、独自のポリマーアロイ技術、ポリマー改質技術を活用し、同社のエンジニアリングプラスチックをはじめとする熱可塑性樹脂を組み合わせることで、射出成形が可能な炭素繊維強化熱可塑性樹脂「トレカペレット」を開発、事業化してきた。軽量、高強度、低線膨張率、電磁波シールド特性、摺動性などの特長を活かし、既に、自動車部品、家電・OA機器部品、ノートパソコンやデジタルカメラ筐体、自転車部品、釣り具部品などで採用が広がっている。
これらのなかで、PPSをベースとする「トレカペレット」は、上記の特長に加え、耐熱性、難燃性、耐薬品性などに優れ、ポンプ部品、モーター部品などで既に3年以上の採用実績がある。しかし、引張強度が小さい課題があり、広く金属代替材料として使用するには制約があった。
同社はこの引張強度の改良に、ナノ構造制御により成形品中で長繊維炭素繊維を均一に分散させるとともに、炭素繊維とPPS樹脂の界面接着性を高めることで、その課題を解決することに成功した。
同社は炭素繊維トレカおよび繊維やフィルム分野にも展開する総合PPSメーカーであり、世界ナンバーワンの事業規模を誇る。今後も、この世界ナンバーワン素材を組み合わせることで、これまでには無い新しい価値を有する材料の提案を推進していくとしている。
2013年11月05日