山形大学有機エレクトロニクス研究センターの時任静士卓越研究教授のグループと宇部興産(社長:竹下道夫)は2月18日、共同で有機溶媒に溶ける新しいN型有機半導体材料を開発し、高い電子移動度(半導体中での電子移動のしやすさ)を持ち、かつ空気中で安定する高性能なN型有機トランジスタを印刷法で作製することに世界で初めて成功したと発表した。
この技術は、現在主流であるシリコンなどの無機材料で製造するよりも、低価格で軽量、さらに柔らかさを備えた集積回路(IC)を製造可能にするもの。空気中での安定性と、液晶ディスプレイなどに使われるアモルファスシリコンで一般的な0・5~1cm2/Vsを超える3cm2/Vsという高い電子移動度を兼ね備え、さらに印刷法が適用できるN型有機半導体は、これまで開発の報告例がなかった。
有機溶媒に溶ける性質と、高い電気特性を併せ持つ有機半導体を開発したことで、オール印刷プロセスでの安価でフレキシブルな有機集積回路の実用化が大きく加速することになる。
プラスチックフィルム上に回路を印刷して電子デバイスを作製する技術はプリンテッドエレクトロニクスと呼ばれ、すでにタッチパネルの配線などへ実用化が始まりつつある。今後は、より複雑な電子デバイスである半導体集積回路へこの技術を応用することが期待されており、そこで必要不可欠な高性能な導電インク、絶縁樹脂、半導体インクなどの材料開発が活発に行われている。
半導体はP型半導体とN型半導体を組み合わせることで電気の流れをコントロールすることができ、集積回路にはこれら2種の半導体が使われている。これまで、有機溶媒に溶かすことができ、印刷法に適用可能で移動度が高いP型有機半導体は数多く報告されてきたが、高性能なN型有機半導体はほとんど報告がなかった。これは、N型有機半導体が大気中の水や酸素に対して化学的に弱いことが原因で、電子デバイスに用いても高い電気特性を維持することが難しかったため。
今回の研究成果は、課題となっていたN型有機半導体の安定性を大幅に改善し、しかも有機溶媒に溶けやすい性質と、高い電気特性を両立する有機半導体を開発した点にある。この材料を用いることでP型、N型両方の半導体がそろい、低価格で低消費電力な有機集積回路の実現が可能となり、ウェアラブル、モバイル、フレキシブルといった用途に使われる新しい電子デバイスへの貢献が期待できるとしている。
2014年02月18日